国歌起立斉唱強制(H30/7/19)
【概要】
H23年の訴訟とほぼ同じ内容。
https://note.mu/shizulca/n/n7313542772c1
東京都立高等学校の教職員であった被上告人らは,その在職中,各所属校の卒業式又は入学式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の職務命令に従わなかったところ,東京都教育委員会は,このことを理由として,東京都公立学校の再任用職員,再雇用職員又は非常勤教員の採用候補者選考において,上記の者らを不合格とし,又はその合格を取り消して,定年又は勧奨による退職後に再任用職員等に採用しなかった。これが違法だとする訴訟である。
【条文】
非常勤教員について軽く触れておく。
都立学校等に勤務する講師の報酬等に関する条例
第二条 この条例において「時間講師」とは、都立学校等に勤務する教員で常時勤務することを要しないもの(地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二十八条の五第一項に規定する短時間勤務の職を占める者(以下「再任用短時間勤務職員」という。)を除く。)のうち時間を単位として勤務するものをいう。
2 この条例において「準常勤講師」とは、時間講師であつて東京都教育委員会(以下「教育委員会」という。)が、第三条の規定に基づき認定したものをいう。
3 この条例において「日勤講師」とは、都立学校等に勤務する教員で常時勤務することを要しないもの(再任用短時間勤務職員を除く。)のうち一日を単位として勤務するものをいう。
それぞれの「講師」に対して、東京都教育委員会制定の規則があり、たとえば日勤講師であれば
都立学校等に勤務する日勤講師に関する規則
第七条 日勤講師の任期は、一学年(四月一日から翌年三月三十一日までをいう。)とする。
2 教育委員会は、日勤講師について、前年度に任用されていた者を再度任用すること(以下「再度任用」という。)ができる。
3 再度任用は、四回を上限とし、次に掲げる要件を全て満たす者に限り認めるものとする。
一 面接、当該職におけるその者の勤務実績等に基づき行う能力の実証の結果が良好であること。
二 休職、欠勤等の事由に応じ欠勤等の日数及び回数を換算した換算後の欠勤等の日数(別表第一に定める換算後の欠勤等の日数をいう。)が、原則として任期中に所定の勤務日数又は勤務時間の二分の一に達していないこと。ただし、傷病を原因とする欠勤(公務災害等の認定を受けた欠勤を除く。)及び地方公務員法第二十八条第二項第一号に規定する休職をする者について、任期満了時においておおむね三月以内に回復する見込みがあり、かつ、それ以降良好に勤務することが可能であると教育長が認める場合は、この限りでない。
三 前年度において地方公務員法第二十九条及び職員の懲戒に関する条例(昭和二十六年東京都条例第八十四号)に規定する懲戒処分を受けていないこと。
4 地方公務員法第二十八条の四又は第二十八条の五の規定による再任用職員に引き続き日勤講師に任用する場合の再度任用の回数の上限は、教育長が別に定める。
(平二七教委規則六・一部改正)
となっている。
【判決】
今回の判決の特徴は1審・2審共に原告の請求を認めた点にある。2審も基本的に下記1審のロジックを支持、要するに裁量権の逸脱がある、というものである。
(高裁判決抜粋)
原審は、採用候補者選考の合否及び採否の判断に当たっての都教委の裁量権は,広範なものではあっても,一定の制限を受けると解するのが相当であり,本件不合格等の理由が著しく不合理である場合や恣意的である場合など,本件不合格等の判断が客観的合理性や社会的相当性を著しく欠く場合には,都教委による裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として,当該判断は違法と評価されるべきであるとした上で,本件不合格等は,他の具体的な事情を考慮することなく,本件職務命令に違反したとの事実のみをもって重大な非違行為に当たり勤務成績が良好であるとの要件を欠くとの判断により行われたものであるが,このような判断は,本件職務命令に違反する行為の非違性を不当に重く扱う一方で,被控訴人らの従前の勤務成績を判定する際に考慮されるべき多種多様な要素,被控訴人らが教職員として長年培った知識や技能,経験,学校教育に対する意欲等を全く考慮しないものであるから,定年退職者の生活保障並びに教職を長く経験してきた者の知識及び経験等の活用という再雇用制度,非常勤教員制度等の趣旨にも反し,また,平成15年に発出された入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施についての通達(本件通達)発出以前の再雇用制度等の運用実態とも大きく異なるものであり,法的保護の対象となる被控訴人らの合理的な期待を大きく侵害するものとして,本件不合格等に係る都教委の判断は,客観的合理性及び社会的相当性を欠くものであり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると判断し,被控訴人らが再雇用職員等に採用されて1年間稼働した場合に得られる報酬額の範囲内に限り,都教委の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用による被控訴人らの期待権侵害と相当因果関係にある損害と認め,被控訴人らの請求を一部認容した。
それに対して、最高裁は従来のスタンスを崩さなかった。再任制度においての採用基準に関する実定法が無いことを理由に裁量権が広くあることは問題がない、と示した。再任についての基準は最高裁が示すものではなく、立法的解決をすべきということの様にも読める。
(判決文)
再任用制度等は,定年等により一旦退職した職員を任期を定めて新たに採用するものであって,いずれの制度についても,任命権者は採用を希望する者を原則として採用しなければならないとする法令等の定めはなく,また,任命権者は成績に応じた平等な取扱いをすることが求められると解されるものの(地方公務員法13条,15条参照),採用候補者選考の合否を判断するに当たり,従前の勤務成績をどのように評価するかについて規定する法令等の定めもない。これらによれば,採用候補者選考の合否の判断に際しての従前の勤務成績の評価については,基本的に任命権者の裁量に委ねられているものということができる。そして,少なくとも本件不合格等の当時,再任用職員等として採用されることを希望する者が原則として全員採用されるという運用が確立していたということはできない。このことに加え,再任用制度等は,定年退職者等の雇用の確保や生活の安定をその目的として含むものではあるが,定年退職者等の知識,経験等を活用することにより教育行政等の効率的な運営を図る目的をも有するものと解されることにも照らせば,再任用制度等において任命権者が有する上記の裁量権の範囲が,再任用制度等の目的や当時の運用状況等のゆえに大きく制約されるものであったと解することはできない。
(略)
そして,被上告人らの本件職務命令に違反する行為は,学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらすものであって,それにより式典に参列する生徒への影響も伴うことは否定し難い。加えて,被上告人らが本件職務命令に違反してから本件不合格等までの期間が長期に及んでいないこと等の事情に基づき,被上告人らを再任用職員等として採用した場合に被上告人らが同様の非違行為に及ぶおそれがあることを否定し難いものとみることも,必ずしも不合理であるということはできない。これらに鑑みると,任命権者である都教委が,再任用職員等の採用候補者選考に当たり,従前の勤務成績の内容として本件職務命令に違反したことを被上告人らに不利益に考慮し,これを他の個別事情のいかんにかかわらず特に重視すべき要素であると評価し,そのような評価に基づいて本件不合格等の判断をすることが,その当時の再任用制度等の下において,著しく合理性を欠くものであったということはできない。以上によれば,本件不合格等は,いずれも,都教委の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?