空の法律
火器レーダー照射
昨年の12月、韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案が起きた。一般に言う「レーダー照射事案」である。防衛相のHPを何度か更新し、情報発信を継続。平成31年1月21日付が最後のものだ。そこにはこうある。
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2019/01/21x.html
昨年12月20日(木)に発生した韓国海軍駆逐艦から海上自衛隊第4航空群所属P-1哨戒機(厚木)への火器管制レーダーの照射された件について、日本側が有する客観的事実を取りまとめた防衛省の最終見解及び本件事案発生時に同機が探知した音を公表することとしました。
防衛省としては、韓国駆逐艦による海自P-1哨戒機への火器管制レーダー照射について、改めて強く抗議するとともに、韓国側に対し、この事実を認め、再発防止を徹底することを強く求めます。更に、これ以上実務者協議を継続しても、真実の究明に至らないと考えられることから、本件事案に関する協議を韓国側と続けていくことはもはや困難であると判断いたします。
防衛相のHPでいくつか参照されている法令がある。今回はこの中身を少し見ていきたい。
シカゴ条約(国際民間航空条約)
空に関する法律整備は各国でバラバラだと収拾がつかなくなる。そもそも飛行機は色んな国を跨ぎながらその役割を果たすのが珍しくないからである。そこで基本的なルールは条約で定められている。国際民間航空条約(Convention on International Civil Aviation)、通称シカゴ条約と呼ばれるものがそれだ。結ばれたのは日本の終戦の前年である1944年のことである。
条約自体は詳細な記述は少ないが、例えば3条には
Civil and state aircraft
a) This Convention shall be applicable only to civil aircraft, and shall not be applicable to state aircraft.
b) Aircraft used in military, customs and police services shall be deemed to be state aircraft.
と書かれており、この条約が民間航空機にしか規定されていないことが書かれている。
現在の日本の空を規定するのは「航空法」であるが、この法律もこの条約の精神に則って作られている。実際に、この法律は冒頭で
第一条 この法律は、国際民間航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠して、航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め、並びに航空機を運航して営む事業の適正かつ合理的な運営を確保して輸送の安全を確保するとともにその利用者の利便の増進を図ること等により、航空の発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。
から始まっている。
この条約の「付属書」と言うのが要は解説書の様なものだ。
(1)技能証明,(2)航空規則,(3)気象,(4)航空図,(5)計測単位,(6)運航安全,(7)登録,(8)耐空性,(9)空港での出入国,(10)通信装置,(11)交通管制の運用,(12)遭難救助,(13)事故調査,(14)飛行場設計,(15)航空情報収集・伝達の方法,(16)環境保護,(17)航空保安,(18)危険物輸送,(19)安全管理、の19個に分かれて細かく各々のルールが決まっている。
航空法
国際民間航空条約の精神を受けて作られた日本の航空法だが、範囲はそれよりももっと広い。
第2条の22項には、
22 この法律において「無人航空機」とは、航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であつて構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦(プログラムにより自動的に操縦を行うことをいう。)により飛行させることができるもの(その重量その他の事由を勘案してその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないものとして国土交通省令で定めるものを除く。)をいう
と言う定義が最近増えた。そう、ドローンに関する規制だ。ラジコン機、農薬散布用ヘリコプター等もこれに含まれる。詳細な情報は下記国土交通省HPから閲覧が可能だ。
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html
第三十三条 定期運送用操縦士、事業用操縦士、自家用操縦士又は准定期運送用操縦士の資格についての技能証明(当該技能証明について限定をされた航空機の種類が国土交通省令で定める航空機の種類であるものに限る。)を有する者は、その航空業務に従事するのに必要な航空に関する英語(以下「航空英語」という。)に関する知識及び能力を有することについて国土交通大臣が行う航空英語能力証明を受けていなければ、本邦内の地点と本邦外の地点との間における航行その他の国土交通省令で定める航行を行つてはならない。
いわゆる「航空英語証明」。パイロットの方々は、シカゴ条約のRecommendationに則って英語でコミュニケーションすることが求められ、それ専用の英語の試験を受ける。この過去問も国土交通省のHP「航空従事者等学科試験」にあるので、興味がある方は一度見てみると良いだろう。
http://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr10_000025.html
第七十条 航空機乗組員は、アルコール又は薬物の影響により航空機の正常な運航ができないおそれがある間は、その航空業務を行つてはならない。
飛行機版飲酒運転禁止条項。
第八十一条 航空機は、離陸又は着陸を行う場合を除いて、地上又は水上の人又は物件の安全及び航空機の安全を考慮して国土交通省令で定める高度以下の高度で飛行してはならない。但し、国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない
航空法施行規則
第百七十四条 法第八十一条の規定による航空機の最低安全高度は、次のとおりとする。
一 有視界飛行方式により飛行する航空機にあつては、飛行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる高度及び次の高度のうちいずれか高いもの
イ 人又は家屋の密集している地域の上空にあつては、当該航空機を中心として水平距離六百メートルの範囲内の最も高い障害物の上端から三百メートルの高度
ロ 人又は家屋のない地域及び広い水面の上空にあつては、地上又は水上の人又は物件から百五十メートル以上の距離を保つて飛行することのできる高度
ハ イ及びロに規定する地域以外の地域の上空にあつては、地表面又は水面から百五十メートル以上の高度
二 計器飛行方式により飛行する航空機にあつては、告示で定める高度
今回の火器レーダー照射事案で話題となった最低高度の条項。今回は人のいない海の上なのでロが適用となり150Mが基準となった。