薬物取締に関する法律関係

【概要】


俗に「マトリ」と呼ばれるのは麻薬取締部の略称である。これは厚生労働省地方厚生(支)局の中の部署、厚生労働省のホームページを開くと地域ごとに北海道厚生局・東北厚生局・関東信越厚生局・東海北陸厚生局・近畿厚生局・中国四国厚生局・四国厚生局・九州厚生局に分かれており、各々に麻薬取締部が存在している。そこに属する麻薬取締官は、厚生労働大臣の指揮監督を受けて幅広い薬物捜査の権限を有している。なお、麻薬取締部は厚労省とは別にホームページが存在し、活動状況を見ることが出来る。それによると、

日本で最も乱用されている薬物は、ここ数十年変わらず覚せい剤ですが、その使用方法は静脈に覚せい剤水溶液を注射する方法の他に、火で熱して出てくる白煙を吸引する方法があり、最近では後者の方が手軽なため好まれる傾向にあります。しかし、どのような方法で薬物を摂取しようと、効果は変わらないことから、使い続けていると覚せい剤精神病の状態になり、人格障害が起こります。
 見た目がお菓子のようで、経口摂取で使用する錠剤型麻薬であるMDMA(エクスタシー)は、抵抗感無く使用できるため、最近多く出回っていますが、乱用を続けていると心臓発作、脳卒中、けいれんを引き起こします。
 大麻(マリファナ)を使用すると、視覚、聴覚、知覚に変化を来し、酩酊状態になり、そのまま乱用を続けた場合、幻覚や妄想などの精神病の症状が出てきます。

http://www.ncd.mhlw.go.jp/index.html

【マトリの条文整理】


マトリはいわゆる特別司法警察職員に当たる。そして厳密には「麻薬取締官」と「麻薬取締員」の2種類が存在する。

刑事訴訟法
第百八十九条 警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより、司法警察職員として職務を行う。
○2 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
第百九十条 森林、鉄道その他特別の事項について司法警察職員として職務を行うべき者及びその職務の範囲は、別に法律でこれを定める。

麻薬及び向精神薬取締法(いわゆる「麻薬取締法」)
第五十四条 厚生労働省に麻薬取締官を置き、麻薬取締官は、厚生労働省の職員のうちから、厚生労働大臣が命ずる。
2 都道府県知事は、都道府県の職員のうちから、その者の主たる勤務地を管轄する地方裁判所に対応する検察庁の検事正と協議して麻薬取締員を命ずるものとする。
3 麻薬取締官の定数は、政令で定める。
4 麻薬取締官の資格について必要な事項は、政令で定める。
5 麻薬取締官は、厚生労働大臣の指揮監督を受け、麻薬取締員は、都道府県知事の指揮監督を受けて、この法律、大麻取締法、あへん法、覚せい 剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)若しくは国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)に違反する罪若しくは医薬品医療機器等法に違反する罪(医薬品医療機器等法第八十三条の九、第八十四条第二十五号(医薬品医療機器等法第七十六条の七第一項及び第二項の規定に係る部分に限る。)及び第二十六号、第八十五条第六号、第九号及び第十号、第八十六条第一項第二十三号及び第二十四号並びに第八十七条第十三号(医薬品医療機器等法第七十六条の八第一項の規定に係る部分に限る。)及び第十五号(以下この項において「第八十三条の九等の規定」という。)並びに第九十条(第八十三条の九等の規定に係る部分に限る。)の罪に限る。)、刑法(明治四十年法律第四十五号)第二編第十四章に定める罪又は麻薬、あへん若しくは覚醒剤の中毒により犯された罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員として職務を行う。
6 前項の規定による司法警察員とその他の司法警察職員とは、その職務を行なうにつき互に協力しなければならない。
7 麻薬取締官及び麻薬取締員は、司法警察員として職務を行なうときは、小型武器を携帯することができる。
8 麻薬取締官及び麻薬取締員の前項の武器の使用については、警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)第七条の規定を準用する。

一般に、麻薬及び向精神薬取締法(昭和 28年法律第14号)、大麻取締法(昭和23年法律第124号)、あへん法(昭和29年法律第71号)及び覚せい剤取締法(昭和26年法律第252号)を合わせて「薬物四法」と呼んでいる。それに加えて麻薬特例法と呼ばれる「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」がある。

【薬物の法令上の定義】


各薬物の定義を見ておこう。

麻薬及び向精神薬取締法
第二条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 麻薬 別表第一に掲げる物をいう。

別表第一(第二条関係)
一 三―アセトキシ―六―ジメチルアミノ―四・四―ジフェニルヘプタン(別名アセチルメタドール)及びその塩類
二 α―三―アセトキシ―六―ジメチルアミノ―四・四―ジフェニルヘプタン(別名アルファアセチルメタドール)及びその塩類
三 β―三―アセトキシ―六―ジメチルアミノ―四・四―ジフェニルヘプタン(別名ベータアセチルメタドール)及びその塩類
四 α―三―アセトキシ―六―メチルアミノ―四・四―ジフェニルヘプタン(別名ノルアシメタドール)及びその塩類
五 一―〔二―(四―アミノフェニル)エチル〕―四―フェニルピペリジン―四―カルボン酸エチルエステル(別名アニレリジン)及びその塩類
六 N―アリルノルモルヒネ(別名ナロルフィン)、そのエステル及びこれらの塩類
七 三―アリル―一―メチル―四―フェニル―四―(プロピオニルオキシ)ピペリジン(別名アリルプロジン)及びその塩類
八 エクゴニン及びその塩類
九 三―(N―エチル―N―メチルアミノ)―一・一―ジ―(二―チエニル)―一―ブテン(別名エチルメチルチアンブテン)及びその塩類
十 α―三―エチル―一―メチル―四―フェニル―四―(プロピオニルオキシ)ピペリジン(別名アルファメプロジン)及びその塩類
十一 β―三―エチル―一―メチル―四―フェニル―四―(プロピオニルオキシ)ピペリジン(別名ベータメプロジン)及びその塩類
十二 二―(四―クロロベンジル)―一―(ジエチルアミノ)エチル―五―ニトロベンズイミダゾール(別名クロニタゼン)及びその塩類
十三 コカインその他エクゴニンのエステル及びその塩類
十四 コカ葉
十五 コデイン、エチルモルヒネその他モルヒネのエーテル及びその塩類
十六 ジアセチルモルヒネ(別名ヘロイン)その他モルヒネのエステル及びその塩類
十七 一―(三―シアノ―三・三―ジフェニルプロピル)―四―フェニルピペリジン―四―カルボン酸エチルエステル(別名ジフェノキシレート)及びその塩類
十八 四―シアノ―二―ジメチルアミノ―四・四―ジフェニルブタン(別名メサドン中間体)及びその塩類
十九 四―シアノ―一―メチル―四―フェニルピペリジン(別名ペチジン中間体A)及びその塩類
ほか全76種類。
大麻取締法
第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く

あへん法
第三条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 けし パパヴェル・ソムニフェルム・エル、パパヴェル・セティゲルム・ディーシー及びその他のけし属の植物であつて、厚生労働大臣が指定するものをいう。
二 あへん けしの液汁が凝固したもの及びこれに加工を施したもの(医薬品として加工を施したものを除く。)をいう。
三 けしがら けしの麻薬を抽出することができる部分(種子を除く。)をいう。
四 けし栽培者 けし耕作者、甲種研究栽培者及び乙種研究栽培者をいう。
五 けし耕作者 採取したあへんを国に納付する目的で、第十二条第一項の許可を受けてけしを栽培する者をいう。
六 甲種研究栽培者 あへんの採取を伴う学術研究のため、第十二条第一項の許可を受けてけしを栽培する者をいう。
七 乙種研究栽培者 あへんの採取を伴わない学術研究のため、第十二条第二項の許可を受けてけしを栽培する者をいう。
八 麻薬製造業者 麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)に規定する麻薬製造業者をいう。
九 麻薬研究者 麻薬及び向精神薬取締法に規定する麻薬研究者をいう。
十 麻薬研究施設 麻薬及び向精神薬取締法に規定する麻薬研究施設をいう。

覚せい剤取締法
第二条 この法律で「覚せ い 剤」とは、左に掲げる物をいう。
一 フエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及び各その塩類
二 前号に掲げる物と同種の覚せい作用を有する物であつて政令で指定するもの
三 前二号に掲げる物のいずれかを含有する物
(略)
5  この法律で「覚せい剤原料」とは、別表に掲げる物をいう。

別表 
 一 一―フエニル―二―メチルアミノプロパノール―一、その塩類及びこれらのいずれかを含有する物。ただし、一―フエニル―二―メチルアミノプロパノール―一として一〇%以下を含有する物を除く。
二一―フエニル―一―クロロ―二―メチルアミノプロパン、その塩類及びこれらのいずれかを含有する物
三 一―フエニル―二―ジメチルアミノプロパノール―一、その塩類及びこれらのいずれかを含有する物。ただし、一―フエニル―二―ジメチルアミノプロパノール―一として一〇%以下を含有する物を除く。
四 一―フエニル―一―クロロ―二―ジメチルアミノプロパン、その塩類及びこれらのいずれかを含有する物
五 一―フエニル―二―ジメチルアミノプロパン、その塩類及びこれらのいずれかを含有する物
六 フエニル醋酸、その塩類及びこれらのいずれかを含有する物。ただしフエニル醋酸として一〇%以下を含有する物を除く。
七 フエニルアセトアセトニトリル及びこれを含有する物
八 フエニルアセトン及びこれを含有する物
九 覚せい剤の原料となる物であつて政令で定めるもの

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