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川上未映子さんの『黄色い家』を読む

GW後半はすっかり寝込んでしまったけれど、おかげでじっくり養生できたし、課題図書も読めた。

GWの課題図書、それは川上未映子さんの『黄色い家』。

めちゃくちゃおもしろかった。600ページあって、2週間前くらいから少しずつもったいぶりながら読んでいたのだけど、最後の400ページくらいは、ほぼ一気だった。

主人公・花と、男運がことごとくなく、スナックでしか働くことができない母、ちょっと「心ここにあらず」な不思議なところがある黄美子さん、初めての親友になる蘭と桃子、花が憧れる銀座のクラブ勤めの琴美さん、兄のような存在になる映水さんと、出し子になる花の「親」になるヴィヴさん。通帳がなく(作れず)、ダンボールにお金を貯め、ポケットの現金でやりくりする生活。花が貯めても、母の彼氏にとられたり、母に無心されたり、桃子の失敗を補うためにと、いつも悲しいくらいに簡単に飛んでいってしまうお金。他愛もない疑似家族の時間は、いつもあぶくのように消えてしまう。どれもこれもせつなく、儚い時間と出来事ばかりで、読んでいると辛くもあるのだけど、でも、だからこそそれらは美しくてキラキラしていた。

物語はシリアスで深刻ながら、ところどころにユーモラスな表現や場面が散りばめられていて、笑ってしまうのが不謹慎に思えてしまうくらいにすごくおもしろいんだけど、そこがさらに物語の深刻さを際立たせているように感じた。琴美さんが同伴で「ごんちゃま」を連れてくるシーンや、ヴィヴさんのすきっ歯が笛みたいな音を鳴らす場面、携帯の着メロの「負けないで」が一番高音の「な」のところで切れるとか、「アンメルツヨコヨコ」のおもしろさがツボにはまってしまうところ、ピカピカのラッセンの絵を中古の家に運ぶシーン、それを黄美子さんがふすまに何度もブッ刺すシーンは怖さを通り越して笑うしかなかった。

花は若いながらもすごく冷静に人を見ていて、「ちゃんと、まっとうに稼ぎたい」という意識をしっかり持っていたし、みんなを支えていくのは本当に偉いと思うのだけど、自分の考える正しさを突き詰めたいがために、みんなのために(それは結局自己愛だったのだけど)、いつしか道を外していく。その過程があまりに自然で、責められない。「そうするしかないよね」と思ってしまう。桃子や蘭が言いなりになっていくのも理解できるし、彼らが何も考えてないことにイラつく花のこともすごくよくわかる。だからこそ、花と同じように読み進めていく間中、ずっと怖かった。

誰かとこの本のおもしろかったところを語り合いたいな。そんな衝動に駆られた小説は久しぶりだった。

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