
大阪・篝(かがり)さん「仏像とモーニングコーヒー」
ここは、仏さまと朝のおつとめ、いやモーニングを食べれる喫茶店。
店内がスモーキーなのは、線香の煙ではありませんよ。
(1633文字)
仏像がいらっしゃいませ
仏像カフェと看板を上げているでもなし。お寺の経営でもなさそうな商店街の喫茶店。
菩薩さまの、ほほえみに吸い込まれるか、弾かれるかは気分しだい。

大阪市福島区吉野2-8-35
(新町筋商店街)
人間五十年。いまでは五十年が人生の折り返しかも。人生は長くなりました。
そして人生に比例して、悩みは尽きず降り積もる……。じぶんの煩悩まみれの人生を感じながら。
半世紀を生きてきて、余計なものが捨てれるようになりました。
なんで、こんなにモノを欲しがったのか?
若さゆえの物欲。食欲。名誉欲。
その他もろもろ。

たまったモノは、自然に還らない。
処分費用、その高さにハッと気がつく。手に入れるより手放すことが。
仏さまとモーニングコーヒーを。
いいかしら?ささやかな食欲を持ち込んで。
「ブツブツ言わんと、いらっしゃい」


仏さまに足がすくむ

扉を引く。自動ドアではないのです。ドアさえじぶんで開けなくなった時代。モノには重みがある。
左手に、丸カーブのガラスが光る。これは相当に古い陳列棚でしょう。
わたしは仏像のことは、わかりません。最初は足が、すくんでしまいました。
右手の背中は金剛力士像でしょうか。マッチョです。
英語の歌が……よく聞くと洋楽。お経でなくてよかった。
シャンデリアがきらめく。ディスコ世代は思う、ゴージャスな仏像サロンだと。

「仏像が、ぶつぞう」まさにそんな喫茶店です。

リアル等身大

小さな仏像を置いてある店は数あれど。
店内では、人間のようなサイズの仏さまに囲まれる。お賽銭箱もあるし、仏さまの足元には小銭がビッシリと。
そ、掃除が……大変だ……!
「仏」
そうでした。モーニングを、食べに来たのです。
毎回掃除が大変と思ってしまうのは修行が足りませんね。
朝のうちは、店の奥の席に座ります。光背やら後光やら。神々しい。いや、仏さまだから違います。

「もう、京都や奈良へ行かなくても
いいんじゃ……」
篝さんに来るたび思います。そういう問題ではないですが。老化は、いいが、老害はいけません。

アイスコーヒーの飲み方
マスターと娘さんと常連さん。仏さまに護られた空間。
ハムトーストのパンは焼いてあります。サクッとしておいしい。
冷たいパンより焼いたパンがすき。

ある夏の日、お昼を過ぎてトーストを食べたいと思い、篝さんへ。
マスターいわく、ドリンクしかないとのこと。
朝のモーニングが11:30までなので、売り切れも致し方なし。
アイスコーヒーだけでも飲みたい。こころの浄化を兼ねて。

「アイスコーヒーのおいしい飲み方があるよ。
ストローを使わず直飲みするの」

マスターに教えてもらったとおりに
カップに口をつけてアイスコーヒーを飲む。
ちべたい~!
ごく冷え、極ひえ!
「銅よ」どうよ。仏さまの声がした。
やはりモーニング・朝のおつとめに限る。
焙煎機

店内の奥に、大きな大きな焙煎機があります。仏さまが脇役にも、シルエットのように見えます。それほど大きいのです。

もしかしたら夜な夜な、仏さまが焙煎しているのかも。まめまめしくコーヒーの修行をしているのかもしれません。

焙煎機の横の席が空いてたら、迷わず座ります。
使い込まれた焙煎機と、じぶんの人生。
もうひとつの仏さま。

そしてじぶんの「煩悩の豆粒」を全部取り出して、焙煎機に放り込む。
焙煎機は動いてないのだけれど、脳内で。
ホットコーヒーが運ばれてくる。

琥珀色と湯気と仏像。
焙煎したての、おいしいコーヒー。
煩悩まみれのわたしが、煩悩を飲みほす。
苦い時にはミルクをたっぷり。
そうだ。
お正月に向けて
年末に、もう一回来よう。
108の煩悩の豆粒を持って。

「コーヒー・喫茶店」の日
いつも こころに うるおいを。
水分補給も わすれずに。
最後までお読みくださり、
ありがとうございます。