シンママの娘(24) 離婚調停
「すぐに離婚届は出さない。離婚調停をする」
別居中の娘。静かに強い言葉。孫は1歳6か月になった。
電動自転車で40分
蒸し暑い6月。熱中症対策で何度も電動自転車を停め、休憩。
孫は、訳がわからずジジババの家から保育園へ。たまに泣いてぐずった。娘も孫も、辛さを味わった。
幸い雨の日は少なかったが、そのぶん紫外線は強かった。コンクリートの上を走れば、朝から熱い風も汗もいっしょくたに噴き上がる。
娘は仕事を休まず、孫を保育園に預けた。
わたしは、毎日、まいにち、娘と孫の無事の帰りを祈りました。
人に「出ていって」なんて、簡単に言えることではない。
やはり日頃から一緒に暮らしてないから。旦那さまは、そんな言葉を何とも思わないのだろう。
1歳を過ぎた孫。ヨチヨチ歩きから、だんだんと動き回るようになる。
おはなしも上手になった。さらに半年。成長いちじるしく、カワイイ盛り。
……これ以上小さくても大きくても移動は大変だったはず。電動自転車とはいえ。
追いうち
旦那さまは、そのうち嫁が謝ってくるだろうとか思っていたでしょうね。しかし嫁と娘は、実家に戻り帰ってこない。
娘にLINEが。
「まだまだ家に荷物が残っている」
「うちの両親に挨拶なし、か?」
何から何まで気に入らないようだ。
簡単に「出ていって」というだけある。
義母は寝込んでしまったらしい。
義父も言葉がなかったそうだ。
こちらも挨拶なしの退去は、無作法きわまりないが、御丁寧に挨拶して帰るスジでもあるまい。
それとも娘と一緒に挨拶したら、どうにかなっていたのか?
わたしも、ひねくれまくってしまった。タクシーで早く去ったのが裏目に出てしまった。
残った荷物がどうのこうの、疲れる。
どう考えても、そんなにいっぺんに持ち出せるわけないだろう。
トラックでも出してくれたのなら、こちらの怠慢だが。
これを何というやら、ネチケット。
もちろん処分してもらう。実行するのは年老いた義父母だろう。なにひとつ持ち帰るものはない。
白いレシート
7月になった。いまどきの子だ。サクサクと離婚調停を調べ手続きを進める。
暑さの中、40分の電動自転車通勤。
なにひとつ文句もなく、目標のために走る……黙々と。
「すぐには離婚届を出さない」
白いレシート二枚。
「大阪家庭裁判所庁舎 売店」
ボロボロの小さな紙が手元に残る。娘は棄てるつもりだったが、わたしは置いておいた。
印紙、切手類……何枚も買っていた。
4000円ぐらいの金額。
こまごまと申請のための買い物だ。
家庭裁判所……怖くなかったのか?
建物に入るだけでも足が震えたのではないか。
娘は、どんな顔をして売店で……。
いや、これからの生活を手に入れるための買い物だ。
印紙や切手の一枚、一枚は短い結婚生活と離婚の保証人。
娘は離婚調停の書類を書き申請する。
事務的に。感情はない。
調停は、夏休みを過ぎて9月になる予定だと聞いた。
夏休み、節目の季節。
二学期が始まると……よくある風景。
じぶんも覚えがある。
見える世界が……世界が変わるのだ。
わたしも夏休みに家庭裁判所に……連れてこられた記憶がある。
黙って車に乗せられ……連れてこられた。
蝉の声しか、きこえない。
そして、この日は……両親が揃った最後となった。
……孫は、どうなるのだろう。
目の前が霞んできた。
レシートは取っておこう。
蝉の声だ。いつもの夏だ。
「保育園の近くで暮らした方がいい」
ふたりとも心身ともに疲れている。
時間と距離の節約、新生活の提案。
オットの勧めでマンションを探すことに。
夏休みに保育園の近くの物件を探した。
元の住んでいた区と同じ、なんだかなぁ、大丈夫かなぁ…と思った。
孫の環境・保育園を変えたくなければ、こうするしかない。
とても煩くなった蝉の声。
反して、もうひとつの男の声は、
……とうとう聞こえなくなった。
いつも こころに うるおいを。
水分補給も わすれずに。
最後までお読みくださり、
ありがとうございます。
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