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「Twilight Space online ―シンデレラ・ソルジャー―」第六話

  • 8758文字

 :待機

 :待機

 :待機。ワクワク……

 :待機……

『あー、あーっ! はい。みんな、声聞こえてる~?』

 :来た

 :キタ――(゚∀゚)――!!

 :コンミズキ~

 :こんばんは~

 :こんばんは。おじゃまします

『こんばんは。はい、ミズキです。待機の人ありがとう。こんばんは、ありがとう。それから変な挨拶、流行らそうとしないでくださいね~! 私のところでは、そういう文化はありません!』

 :いや、それでも俺はコンミズキを言い続ける……

『いや、やめてくださいって。さてそれよりも、今回タイトルにも書いたと思いますが、以前から話していた例の私のお友達。そして今とあるオンラインゲームで活躍している、ゲストを呼んでいきたいと思います』


 ***


 黒く滑らかな、大きなレンズのWEBカメラ。機械的なアームで伸ばされた、割合に本格的なコンデンサーマイク。私はいまミズキの部屋の中に呼ばれ、そして彼女の配信「ミズキの部屋」に呼ばれている。

「――ゲストを呼んでいきたいと思います。それでは。ようこそ、ミズキの部屋へ~! わーい、ようこそ~!」

「え、えっと。皆さんこんばんは。以前からミズキの方で既に紹介されていたようですが、私ミズキの高校からの付き合い……の友人で、イマハラ、今原カエデといいます。現在「T.S.O」というゲームを皆さんに紹介するためにいろいろと活動しています。よろしくお願いします」

 わーっと、小さく両手を振って見せているミズキの隣に、同じように片手をわきで振りながら、すこしお辞儀をしてちょこんと座る。

 正面のモニターの向こうには、いろいろなコメントをしてくれるミズキの部屋の視聴者と、リアルタイムに肌や目の大きさの補正を受け、盛った自撮りの中の様な私たちの顔が映っている。事前にどれくらい盛るかとは聞かれたものの、改めて見ると本当に自分の顔かと思うほど、キラキラとさせすぎているような気がした。

 ただしミズキが言うのには、少なくともこれぐらい加工しておかなければ、裏で小うるさい指摘をしてくる視聴者や、リアルでのバレのリスクもあるらしい。下手に抑えてそうした余計な人たちに注目されるより、盛りすぎで自意識過剰な配信者の一人でいたほうが、ずっとスムーズに行くらしかった。

「も~、カエデ固いって。さっきからなんか、緊張してる?」

「えっ、いや。そ、そんな……キンチョウ……とか、してない……よ?」

 :なんで疑問形?

 :めっちゃ緊張してるw

 :カエデさんの生身初めて見た。ホントアバターに似てますね?

「あっ、カエデの動画のファンの人? 今日は来てくれて、ありがとうね」

 :カエデさん可愛い

 :可愛いw

「えっ、いや。そんな、私は……」

「もーっ! お前らカエデにナンパすんな。確かにカエデは可愛いけど、これは私んだからね!?」

 とカメラの前で、これ見よがしに抱き着いてみせる。べつにミズキのスキンシップは珍しくはないけれど、今日のは普段以上に堅くなってしまう。

 そもそもこうした配信では、出演者は何を見て話すのが普通なのだろう。カメラだろうか、画面だろうか。あまりチャットの文章ばかりに目を取られすぎるのはいけないと言われていたけど、そういえば、じゃあどこへ視線を向けたらいいかとはあらかじめ聞いてはいなかった。

 当たり前だけど、ミズキは自分の部屋でほんとうに自由に振舞っていて、私はどうしたらいいのかわからなかった。

「それじゃあ。今回はゲストであるカエデに、私からいろいろ聞いちゃおうかな? いい?」

「お、お手柔らかに……」

「ええ~、どうしようかなぁ?」

 ミズキはカメラの前に並んだ私に、横目で意味深な目線を送り、ニヤリと笑う。

「それじゃあ、一つ目。まずは、カエデからT.S.Oってどんなゲームって聞いてみようかな?」

 :聞いたことあるかも

 :あの宇宙のやつだっけ?

「えっと、はい。そうです。その宇宙の……ええと、T.S.Oつまりトワイライト・スペース・オンラインは、とある銀河での冒険や、そこで得た貴重な資源を巡るプレイヤー同士の戦いをテーマにしたVRMMOゲームです」

「ほうほう、ある貴重な資源を……?」

「そうですね。そうした宇宙にある貴重な資源、それはレア・マテリアルと呼ばれていて銀河の危険な場所にあるんですが。なんと、その貴重な資源を銀河連邦の首都へ持ち込むと、現実で取引可能なRMUという準仮想通貨として、自分のウォレットに送金することが出来るんです」

「前に話題になってたやつだよね。”ゲーム内総額3000億ドルのVRMMO”って」

 :3000億ドル!? すご……

 :なにそれ? 儲かる話??

「えっと、なんていうんでしょうね。プレイヤーがこのゲームをやることで、そうした仮想通貨の安全な取引を行うことが出来て、ゲーム内ではその通貨のマイニングが行える……という感じです。プルーフ・オブ・プレイという仕組みらしいですが」

 上手く説明できているのか分からないが、ミズキの合いの手もあって話としては進んでいる。もっともこれはあらかじめ想定していたやり取りだが、改めて言葉にしていくと難しいと感じる。

 いちおうチャットでは様々な反応があり、伝わってはいるようであるが。

「えっとじゃあ、次の質問ね? カエデは今そのT.S.Oで、なにを頑張っているんだっけ?」

 :お金儲け?

 :対人戦?

「ええと、それはどこまで話せばいいか分からないんですけど……今いちおう皆さんに言える目標は、このゲームの大手ギルド「鷹の旅団」さんというところの開催してる公開オーディションに参加して、それを頑張らせてもらっている、ということです」

 :ギルドの面接みたいなもん?

 :ギルドの公開オーディションって何ぞ?

「まあそうだよね。どうしてその「鷹の旅団」ってところは、そのオーディションをやってるの?」

 これも想定されていた質問だが、考えてみると説明しづらいものかもしれない。なぜオンラインゲームのプレイヤー集団が、わざわざそんなものを開いているのか。

「えっと、それはこのゲーム――先ほど説明した通り、このゲームでは現実の仮想通貨としての価値を持つ資源をプレイヤーたちが奪い合う、宇宙戦争がテーマとなるゲームです。それら戦争の舞台や勝ち負けは、もちろん仮想のものですが……」

「でも負けちゃうと、お金になるはずだった資源を奪われちゃう?」

「そうなんですよね。ですからこのゲームのギルド運営は、現実の投資の様な側面を持ち、会社経営の様に信頼ある振る舞いが求められている……みたいなんですよね」

 :ほうほう……なるほど理解?

 :うんうん、わかるわかる

「ようするに、ゲームとはいえ損得が発生するから、会社みたいにしっかりした人を選ばなきゃいけないんだよね。でも、どうしてそれで公開オーディション?」

「……ええと、それで。そのギルドの戦争によって、そうした有価なNFT(ノンファンジブル・トークン)資源は奪い合われるのですが。その価格そのものは、現実の人たちがそれを仮想通貨として期待して、皆が欲しがるからうまれるものですよね?」

 今すでにある、仮想通貨。ビットコインやネム、イーサリアムといった仮想通貨は、すでにかなりの年数取引されてきた実績があり、信頼が高い通貨である。一方で新規の銘柄の仮想通貨はそうした信頼が形成されていないか、あるいはあったとしても、それら既に信頼のある仮想通貨以上には人気の得られない場合が多い。

 :お金になるならとりあえず欲しいけど?

 :T.S.oの通貨RMUは、比較的新規の野心高い投資家には注目されている一方、システム上の懸念点から保守的な投資家やゲームそのものに偏見がある人にはまだまだ信頼を得ておらず人気がない。ミズキさんの言っていた”ゲーム内総額3000億ドルのVRMMO”というのも、あの当時のピークの価格でゲーム内に保有されてるRMUを試算したもので、実際にはまだまだ価格は低く、安定していない通貨だとみなされている

 :NFTって仮想通貨なん?

「うーん、ちょっと……言葉が難しいかな? もうちょっと、簡単に説明できない?」

「ああ、ごめんなさい……ええと。つまり言ってしまえば、T.S.Oは理論上チートの様なものがなく安全にRMT(リアル・マネー・トレード)が行える、しかも、公式もそれを推奨しているゲームなんです。でもそうしたアイテムの価格って、ゲーム自体の人気で大きく変わってしまいますよね?」

 :RMTむかし流行ったわ。なんかソシャゲのアカウント、オークションサイトとかに出品されてた

 :なーほどね

「そういうわけで、T.S.oのギルドである「鷹の旅団」さんは――もちろん自主的なものだそうですが、このゲーム自体のプロモーションも兼ねて、公開オーディションという企画を行っているそうです」

 正直なところ、こうした仕組みというのは私自身で、いまだによくわかっていない。このゲームのアイテムや資源が、取引に瑕疵のないNFTとしても扱えることはわかったが、それが彼らの言う”準仮想通貨”つまりお金として使えるというのは何故だろう。

 その事を考えると、そもそも仮想通貨というものが良く分からないものだし、どうやらその疑問点というものは、私たちの使う日本円という通貨とも実は共通したものらしい。

 お金というものは、お金として取引されるから価値がある、というところまでしか、最終的には解らなかった。

「これである程度、みんなにも分かったかな?」

「ど、どうでしたでしょうか……?」

 :わかった

 :理解、理解

 :まあ、わからんでもない

 なんとなくと言った感じのチャットがちらほら流れるが、本当のところはどうなのだろう。ミズキは横でうんうんと頷いていて、ただそのコメントの流れる速さを見ているようであった。

 私としても、憶えている限りの説明を一通り言い終えたという安堵で、もうミズキの当初の問いが何だったのかさえあやふやになってきている。マイクに向かってほんの何回かのやり取りをしただけで、すでにかなりの時間が経ったような感覚さえ抱き始めていた。

「それじゃあ、最後はズバリ聞くけど。カエデさんはいままで、そのオーディションのためにどんなことをしてきましたか?」

「えっ……?」

 少しブラウンで、大きな瞳。クルンと上向きにとカールした、ながい睫毛。薄く眼元にチークがのって、どことなく憂いのような色味があるのに、全体としては子供の様な無邪気な表情。

 ミズキはすぐ隣にいる私の顔を少しだけ首をかしげて覗き込むと、打ち合わせにはなかった質問を尋ねてきた。

「えっと……それは」

「それは?」

「それは。えっと、まず……ゲーム動画による、PR活動ですね。ゲーム内で使用できるVRカメラによって、プレイ動画を撮影し……SNS上でのT.S.oの紹介等をしています。それらは先ほど言った、T.S.OそのもののPR活動でもあるのですが、今回の公開オーディションのためのわたし自身のポートレートにもなっています……えっと。もしも私が鷹の旅団さんへ入れたら、こうしたイメージの活動が行えます……というような……」

「あー、そうだよね……うん。それから?」

「それから……?」

 :頑張ってるなぁ

 :しっかりしてる

 :そうそう、ほかには?

 あまりにもあっさりとした受け答えに、一瞬思考がフリーズする。こういうものって、ひとつひとつ何かしらのコメントがあって進行していくものではないのだろうか。私はまだ、次の答えなど用意できていない。

「ほらほら。このまえ、一番新しい活躍とかは?」

「ええっと……なんだっけ。このまえ、私……」

 何だっただろうか。一番最後に私が行っていた、何かの活動。

 最近の動画をアップロードしたのは何日か前で、このコラボだってそれ以前から話し合っていた。その付近で、ミズキが私に聞きたい何らかのこと。

 私は頭が真っ白になってしまって、何も考えることが出来ないでいる。

「ねえ、ほら。ついこの間……カエデやってたじゃん?」

「なん……だっけ?」

 :すごい活躍でしたよ

 :いやーなんだろうな(すっとぼけ)

「もー、どうしたの? 凄い頑張ってたじゃん。ほら、T.S.Oの大会!」

 彼女の聞きたい、T.S.Oの大会。黄色の大地と、紫の森。そしてあの飛び交う銃弾と……動かない身体。

 何故あのとき、あんなにもVR機器での操作が、上手くいかなかったのだろう。あとで時間をおいて確かめてみたが、べつにVR機器はおかしくなどなっていなかった。

 最後の戦いで相手を頻繁に見失っていたことを考えると、もしかしたらレンダリングなどの処理を行うPCの側の問題なのかもしれない。処理落ちのようなものが発生していて、私が見えているVR上の空間と、コリジョン判定やそうした物理計算を行う3D空間上での、同期がとれていなかったのではないか。

 ただしその場合でも、処理に一番負荷がかかっていたであろう、あの森がや焼き払われている場面でや、その後の灰や崩れた炭のようなパーティクルが大量に描画されたはずの場面でも、そうしてことはなかったはずだ。

 もしもこの原因不明の事態が、次の大会でも現れたら私はどうしたらいいのだろう。またあんな風に敵の目の前、そして配信の向こうの人々が見ている前で、あんな失態を演じなければならないのか……

「ねえ、カエデ……? カエデって!」

「えっ、あの……?」

「ねえカエデ。改めてリーグ五位おめでとう。本当によく頑張ったね!」

 :おめでとう

 :すごい、おめでとう

 :カエデさん、おめでとうございます

 :いや、五位はすごい

 :配信見てました。非常に良く立ち回っていて凄かった。GG

「ね、みんな言ったでしょ? カエデはすごいんだって。頑張り屋だし、真面目だし、対人は初めてだっていうのにリーグ五位だし」

 チャットにいくつものコメントがよせられ、視聴者のおめでとうの言葉で埋め尽くされる。配信アプリの機能で視聴者が送ってくださった画面を飾る様々なエフェクト、ハートが浮かんだり、パーティのリボンや紙吹雪のようなものが、いつの間にか画面を賑やかに彩っていた。

「いや……私そんな。だって、最後全然ダメだったし。それにそこまで生き残ったのだって、私ずっと隠れてたからで……それに、そう。五位って言っても、ほんとうにその100人のリーグの中の順位で……最期、全然操作が滅茶苦茶で、弾が当たらなくて……」

「もう、そんなの気にしすぎだって。VRが調子悪かったんでしょ? そんなの、しょうがないよ」

 :配信見てました。対人初めてであれは凄いです

 :粘ってスナイパー倒したとこマジ神だった

 皆の応援に、喜んで見せるべきなのだろう。でもどこか心の中は空虚なかんじがして、この称賛は私が受けるべきものではないような、そんな思いが拭えない。

 :みんなあんなもんですよ。その前のライフルの射撃はお見事でした

 :VRの不調は原因はわかりませんが、最後のハンドガンの射撃は事前の調整不足だったかもしれません。弾速が遅く比較的山なりに弾が進むハンドガンは、低G環境では上に飛んで行きすぎてしまいます。銃そのもののアイアンサイトより、リフレックスサイトなどをつかって、しっかり調整したほうがよかったかもしれません

「あっ……えっと『ハンドガン……調整不足…………上に飛びすぎて……』ああ、そういうことだったんですね。ありがとうございます」

 私の調整不足か……と思うと、それでも答えが得られた気がして、少し気が楽になる。少なくとも今回以降、ああした場でも最低限の応戦は出来るのかも知らない。

 :射撃の構え方はよかったですよ。まあ、なんにせよ咄嗟の事でしたし、ハンドガンでは結局あの相手には難しかったでしょう

「もっ、もーっ! 今日はそいう反省は無し! カエデ、ね?」

「うん。あ……ありがとうございます。その、ほんとに皆さんチャットで「おめでとう」って言ってくださって……ほんとうに、驚いてしまって……」

「みんな、カエデの事祝ってくれてありがとね~? この子、少し自信がないんだけど、ほんとうは凄いんだから」

 :もっと自信もっていいよ

 :実際かなり凄いです。リアル系のシューターでは、相手に弾を当てるだけでも苦労する人はいますから

 :カエデちゃん天才! 神!

「それでね……そんなカエデに、なんと今回プレゼントがあります! ねえ、スマホ見てみて?」

「えっ……プレゼント!?」

 私はミズキの部屋のすみの方へ置かれていた手荷物を取り、その中からスマホを取りだす。そして、ミズキの方でも横に置いていたスマホを操作し、なにやら弄っているようである。

 するとピコンと電子音が鳴り、ウォレット・アプリからショートメッセージのお知らせが届く。

≪ミズキさまより、NFTの譲渡が申請されました≫

「えっ……これ?」

 メッセージを読むとダイアログが浮かび、私はそのNFTについての詳細を確認する。するとまずこのNFTがT.S.Oのアイテムである事をしめす、銀河連邦共和国のエンブレムが浮かび、スマホの画面の半分ほどのカードの様なデザインで、そのアイテムのアイコンや説明が浮かび上がる。

 「SMG [FH-1132] Quality MASTER WORK」

 FH-1132、マスターワーク級サブマシンガン。NFT化されゲームの外でも取引可能にパッケージされた、T.S.Oのレアアイテム。詳細を見ると基本ダメージ量、装弾数、射撃レートなどのスペックが表示され、いくつかのアクセサリーも付属している。

「えっ。ミズキ、どうしたのコレ……?」

「えへへ、じつは……」

 :サプライズ成功

 :カエデさんもびっくり

 ミズキの視線の先。配信画面のチャットには、ミズキのファンの人たちや、私の動画をよく見てくださっている視聴者から、いくつものコメントが書かれていた。

「じつは、ちょっと前からいろいろ相談してたんだよね。私のところのリスナーでT.S.Oに詳しい人とか、カエデのファンの人とかに……」

「えっ? えっ……いつから? どうして……??」

「それはだって、教えちゃったら面白くなくなっちゃうじゃん?」

 :ミズキさん真剣に選んでましたよ

 :私たちが監修しましたキリッ

 :二回戦はコロニー内のステージらしい、取り回しのいいSMGは使いやすいと思われ

「で、私が呼びかけて、カエデのために何かゲームで使えるプレゼントをしたかったんだけど……みんな、カエデのために自分たちもいくらか出しますって」

 :カエデさんの頑張ってるの見てたから

 :私たちがスポンサーですキリッ

「でも、そんな……いえ、とてもこんな……使えません」

 私の言葉になぜかミズキがぎょっとして、チャット欄もすこし速度が遅くなる。

「あの……わたし、実は今回のリーグ……ごめんなさい、配信はとらないようにしようと思ってて」

「……それは、どうして?」

「やっぱり……前回思ったんですけど。やっぱり私どうにもシングルタスクっていうか、あんまりいろんなことできなくて……それで、配信の形で皆さんを楽しませるように……は出来ないですし、たぶん配信のことを気にしちゃうと、他の事がダメになっちゃうような……」

「うん……うん。そうなんだね」

「だから私、こんなに皆さんにもらっても……その姿を皆さんに見せることが出来ないですし。それに知っている人もいるかもしれませんが、T.S.Oのこの大会では、参加者同士の装備の奪い合いが許可されているんです……私、こんな高価な装備貰っても……きっとすぐに、負けて……」

 またミズキに、失望されてしまうだろうな。

 ミズキの配信を自分の言い訳ばかりで、こんな空気にしてしまって。でもだからって、無責任にこれを頂いてしまう訳にはいかないし、それを奪われるかもしれないリーグにもっていくことなんてできない。

 彼女にもう失望されてしまうのは仕方がないのかもしれないけど、それでも迷惑にだけはなりたくない。こんな高価なプレゼントを頂いて、無駄にしてしまう訳にはいかないのだ。

「ねえカエデ、こっち来て?」

「えっ?」

「ほら、こっち。こっちだって」

 ミズキは私の肩を抱いて、二人きりの時のようにそっと頭を抱きしめる。

「違うよカエデ。違うんだよ?」

「なに……違うって?」

「ほら、ちゃんと見てあげて。皆のこと」

 少し見られるのは恥ずかしい体制のまま、その机の上の画面に目を通す。

 :大丈夫ですよ、カエデさんの思う通りに使ってください

 :自分たちの事は気にしないで、今はリーグに集中して

 :見られなくても、応援してます。頑張って

 そこには温かいみんなのチャットが寄せられていて、みんな私の言ったことは認めてくれているようだった。私の自分勝手なだけの主張に、その場で怒っている人などいなかった。

「ね? カエデは頑張り屋さん。とってもいい子だよ? でも今はそんなカエデを応援したいって人がいてくれて、カエデが向き合わなきゃいけないのは、もっと別のことだよ」

「べつの……こと?」

「そう。それはカエデのやりたいように、やってみること。その結果がどうだって、失敗しない事なんて求めてないよ? カエデが何かしちゃいけないだなんて、この場の誰もそんなこと思ってないよ?」

「うん……」

「だから、今はカエデのやりたいようにやってみて。大切なのは、結果じゃない。それはカエデが、ちゃんとカエデらしいってこと」

 ミズキは私の顔を覗いて、優しく笑う。

「私のカエデが、皆の応援する女の子が、こんなにも素敵な人だって皆に見せつけてやってきてよ!」


七話へ。

マガジン。

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