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「デスストランディング」考察その6:サマンサ・アメリカ・ストランドについて#2

前回でアメリという人物について、大まかな部分は話せただろう。今回は彼女が具体的にどのようなことを行おうとしていたのか、ということを考えてみようと思う。

まず前提として、彼女からは自身のDOOMS能力の発現・絶滅体としての覚醒が、DS現象と連動したかのように見えるだろうと思われる。

もちろんその関係が実際にはどうなのかは、僕たちには分からない。でもそれらをアメリ自身が考え、そして困惑し途方に暮れているように思える描写は、なされていたと考えていいはずだ。

このことからアメリは、どうしても自分自身の存在や行動によって、DS現象が起き始めたという考えは拭えなかったはずだ。それに彼女はその能力が周囲と突出しすぎているあまり、自分自身の事を客観的に見直す機会には乏しかったとも考えられる。

つまり彼女は、彼女自身の何らかの行動によってDS現象が起きはじめ、また自身の何らかの行動によってDS現象を止められるとも思っただだろう。

カイラル通信の研究と、ボイド・アウト。
ドキュメントによると、最初のボイド・アウトは産婦人科の帝王切開中に起こったへその緒との接触によるものだった。このカイラル通信のはじまりがどのように影響していたかは不明。

実際に彼女は劇中でカイラル通信を発展させ、DS現象の真相を探ろうとしていた。そしてどうやらそれは、どちらかと言えばボイド・アウトのような現象そのものの解明というより、彼女の身に起きた変化やその予知夢について探ろうという意図が強かったように語られる。

ボイド・アウトを起こし前大統領の亡くなったマンハッタン事件のあとも、そうしたBB実験を続けていたこともその証拠だろう。ある意味では犠牲というものを度外視して、このカイラル技術の発展を望んでいたようにも感じられる。

BB実験の被検体だったサムの事件と他のDOOMS能力者、DS現象の相関関係。
死者がネクローシスしBTとなり始めるのは、おそらくこのあたりだろう。それまでのボイド・アウト現象は、先の通り非常に限定してのものだったと思われる。サムの出生とデス・ストランディングとの関係は不明だが、アメリにとっては重要な関連だったはずだ。

では問題は、いざそうしたカイラル技術の最終実験となるはずだった「デス・ストランディング」本編で彼女は何をしようとしていたのか、という部分だ。

彼女は物語最後には自分がすべての繋がりを立つことで、ラスト・ストランディングを防ごうとした。しかしその手前の段階ではストランド大統領としての行動とともに、かなりの混乱が見られている。

そうした混乱した心境に陥った人物が、DSのような超常的なものと対峙したとき、自身が犠牲となる選択や、その大切なものを捧げなくてはならないというような自罰感情を抱くことは不思議ではない。何か自分が間違ったことをしてしまったと考えている場合には、さらにそうした行動も頷けるはずだ。

しかしそうしたアメリ自身にとって、自分自身が犠牲になるということは難しかったように思う。

癌で全身を蝕まれ、遺体を焼却されても、その意識はビーチに残り続けた。
彼女自身がもはやどうしようとも自らが死ぬということは叶わず、したがってこれまでの罪も償う手段がなかったのだと思われる。あるいは、彼女の最愛のものを捧げるという以外には。

なぜなら彼女自身は癌に侵され続けており、しかし魂のほうは死ねなかった。であれば、彼女としてはそうした自らが犠牲となるという以外の、何か他のものを求められていると考えていたはずである。

ではそうしたアメリ自身にとってかけがえのない存在であり、そしてDS現象に対して捧げる、合理的なつながりのある存在と言えばなんだろうか?

それは彼女が息子や弟として赤子の頃から接していた、主人公サムに他ならない。ストランド大統領が彼を犠牲にするつもりでこの第二次遠征隊に役目を託したという考えは、ゲーム中でもいくつかそうと思えるような描写は思い当たることだろう。

サムの背負ってきた重荷と、カイラル通信中継拠点。
このミッションのアイコンは丁寧にも十字の形をしており、また中継拠点の形そのものも、立ち上げられる前の十字架の形をしている。サムはここから座礁地帯を抜けて、死の領域へと踏み込むことになる。

しかしどのようにして、サムを犠牲にしようと考えていたのか。またどのような理屈から、サムを犠牲にすればDS現象が収まると考えたのだろうか。

サムとアメリまたはストランド大統領との出会いは、彼がまだ母親であるリサのお腹から摘出され、人工子宮に移されたころと考えていいだろう。

ストランド大統領にとって、このBB計画は肝いりのものだった。またBBによってハウリングした彼の記憶の中のデッドマンの会話を鑑みる限り、すでにブリジット・ストランドは大統領で、マンハッタン事件があった後だとほのめかされる。

だからある意味では、もともと彼女がサムをキューピッドシステムの人柱として、犠牲にするための存在だったということもできるだろう。

問題はサムの父クリフがそれを良しとせず、脱走を図ろうとしたことがきっかけであった。

クリフの脱出計画を阻止しようとしたことによって、彼女は図らずもクリフと抱いた赤ん坊のサムを銃で撃って殺害してしまう。慌ててビーチのアメリがその死の場面に立ち会うが、そのときの行動によってサムは帰還者となってしまった。

おそらくこの時はただ、怪我を負いクリフとともに死んでしまったサムを、どうにかしてやろうという一心だっただろう。しかしこのことによって彼は帰還者として不死身の存在となってしまい、ある意味で生と死という絶対的な自然界の領域を犯す存在となってしまった。

サムを還そうと試みるアメリ。
座礁し死んだ(青くなっていた)サムを回復させ、ふたたび海のほうへと戻そうとしているアメリの姿。画面右上にはたたずむクリフと、スクリーンショット撮影直後のアイコン。

もちろん既にボイド・アウト現象は起き始めていた時代のことである。しかし彼女は、こうして自分たちが死の境界を科学技術によって曖昧化させてしまったことがDS現象を引き起こした、と考えたのではないだろうか。

それは奇しくも彼女自身の身体が病に侵され、最先端の医療によって延命させられるようになったことと繋がったはずだ。サムのような顕著な例を見なくとも、人類はあまりに自然界の生命のドグマを犯し続けてしまっていた。

第二次遠征隊では、おそらくカイラル通信の発展によるビーチの深部への接続によって、息子であるサムとともにエボデボ・ユニットのような科学技術そのものの歴史も、同時に闇に捧げようと考えたのではないだろうか。

そして彼女自身は死の淵から呼び覚まされたクリフ・アンガーの元へとサムを還し、その罪を贖うつもりだったのではないだろうか。

クリフへとBBの位置を指し示す、ブリジット大統領。
それは彼から息子を奪ってしまったことに対する償いと、同時に自らの息子を差し出すという贖いの行為でもある。帰還者であるサムを死の世界に返すことができれば、死者たちの座礁も止むと考えていたのではないか。そしてもともとの第二次遠征隊の目的も、そのためのものだったと考えられる。

しかしこのゲームのストーリーを最後まで追ってもらうと明らかなように、この考えはブリジットの思い違いだろう。あるいは彼女がそう思い違いをしているという、僕自身の深読みのしすぎだ。

実際にはDS現象阻止のために誰かの犠牲は必要なく、もちろんアメリ自身が繋がりを絶ったことも直接は関係ないだろう。

それは彼女とサムの物語がおわった後、二週間後に起こったことである。遺体火葬所から出たサムとBB・ルーの前で、突如青色のある虹が出現し、時を奪うことのない雨が降り始めた。

契約の虹があらわれ、BTとの和解が果たされた。おそらくDS現象はこのとき終わったのである。

様々な謎を残したまま。

直後まで雨が降っており、サムはフードをあげ髪も濡れているが、老いてはいない。このとおり虹も逆虹ではなく、青い色は抜けていない。先日発表されたDS2のティザーを見てドキリとしたが、たぶんデス・ストランディング現象は終わった。終わったはずである。

 いざ! 獅子は来た。我が子たちは近い。ツァラトストラは熟した。わが時は来た――。
 之ぞわが朝である。今日ぞわが日ははじまる。昇りきたれよ、昇りきたれよ、なんじ大いなる正午よ!」――
 ツァラトストラはかく語って、その洞窟を去った。その状、あたかも、暗き山より昇りきたる暁の太陽に似て、強くかつ炎えていた。

ニーチェ「ツァラトストラかく語りき」竹山 訳

2022/12/17

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