とまらない 白
僕はシャー芯を盗んだ。
この前は消しゴム、その前は修正テープ、
ワックス、ライター、炭酸水・・・
こんな物は欲しくない。
バイトで貯めたお金もある。
欲しかったわけではない。
必要だったわけでもない。
今日は小さなハサミも盗んだ。
だらけた気持ちのまま
調子か出るわけでもなく、
授業を受ける気にもなれず、
今日も屋上へ向かった。
屋上の隅の方で、寝転んで空を見上げた。
鳥、青、雲、そんな意識は他所に
見ているようで見ていない空を眺めた。
・・・10時50分。
ぶかぶかなカーディガンを着た君が来る。
前髪を直す時も、
メロンパンを食べる時も、
袖口からのぞく白が眩しくて、
気づかない振りをして。
笑うと溢れる八重歯を思い出して、
消えてなくならない白を思い出して。
もう、こんなことはやめよう。
「盗るのをやめられない君と、切るのをやめられない私と、一体何か違うの?同じでしょ?」
その答えを探しているんだ。
やっぱり違う
嫌なんだ
盗るのと切るのは違う
全然違うんだ
同じでしょ
悲鳴を隠して
気持ちを押さえ込んで
蓋をして
わかっているのに
やめられない
同じでしょ
違うんだ
切って欲しくない
痛い
痛い
痛いだろ
泣いている
悲鳴をあげている
何もなかったような白が
泣いているんだ
黒いやつが
ざらざらと
そこから
溢れているのに
堪えて
堪えて
堪えて
耐えている
同じでしょ
袖口から見える白
こんな時まで
君の溢れる八重歯を思い出して
嫌なんだ
盗るのをやめられない僕と
切るのをやめられない君と
一体何が同じなのか
答えを探して
探しているんだ
同じでもいいから
嫌なんだ
痛いだろ
痛いだろ
痛いんだ
痛むんだ
ここが
痛むんだ
嫌なんだ
もうすぐ
10時50分。
見ているようで見ていない空を見上げた。
やっぱり思い出すのは
笑うと溢れる君の八重歯
白。
10時50分。
嫌なんだ。
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