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生成と本成。
女が恋の恨みから鬼となる物語として
能では「鉄輪」「葵上」「道成寺」が挙げられます。
この三つは、地歌にも取り入れられています。
(やっぱりこういう物語に人は惹かれるんだよ)
「鉄輪」で鬼となった女がかける面は「橋姫」「生成」。
生成(なまなり)とは、人間から鬼に変わる途中の段階をさします。
一方、「葵上」「道成寺」では「般若」の面が用いられます。
般若は本成(ほんなり)。完全な鬼です。
それゆえでしょうか。
鉄輪の女が男をとり殺すことができなかったのに対して、
「葵上」の六条御息所は生霊となって光源氏の正妻・葵上をとり殺し
「道成寺」の清姫は大蛇となって安珍を焼き殺します。
しかし。
六条御息所は、自分が生霊となって葵上にとりついていることを
自覚していません。
鉄輪の女は、この世で恨みを晴らしたいと思い詰めて
貴船神社に丑の刻参りを重ね、願い叶って鬼となりました。
思いの強さは負けていないはずなのに結果は異なります。
また謡曲の結末も、鉄輪の女は鬼となったまま姿を消し
六条御息所の生霊は鎮められます。
清姫は、安珍の裏切りを知ってから
大蛇となって焼き殺すまで、一気に突き進んでいきます。
自分自身の恨みといちばん向き合ったはずの鉄輪の女が
いちばん救われない。
悲しいお話だと思うのです。
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2024.12.17.Tue.
千静のうた絵巻 vol.5 クリスマス・キャロル
@道頓堀ミュージアム並木座
14時半開演 入場料2000円
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