MTGというゲームを考える①
どちらかというとゲーム製作者の目線でマジック:ザ・ギャザリング(英: Magic: The Gathering、M:tG、MTG)というゲームについて考えてみる企画です。
【1】MTGはだいたい10ターンで終わるゲームである
MTGアリーナのプレミアドラフトの統計データを見ると、だいたい8.5~9.5ターンで決着がついているようです。
厳密さを脇に置いてざっくりと、MTGはだいたい10ターンくらいで終わることを想定して作られているゲームといえます
60枚デッキ、内土地が24枚。先行という条件で
各ターンの場の土地の期待値と使用できる総カード数を一覧にしてみます
マナ加速やドロー促進はない、単純な場合を想定します
1ターン 土地1 総カード数7 土地以外のカード4
2ターン 土地2 総カード数8 土地以外のカード4
3ターン 土地3 総カード数9 土地以外のカード5
4ターン 土地4 総カード数10 土地以外のカード6
5ターン 土地4 総カード数11 土地以外のカード6
6ターン 土地4 総カード数12 土地以外のカード7
7ターン 土地5 総カード数13 土地以外のカード7
8ターン 土地5 総カード数14 土地以外のカード8
9ターン 土地6 総カード数15 土地以外のカード9
10ターン土地6 総カード数16 土地以外のカード9
もちろん実際は期待値通りにはいきません。
しかし、だいたい次のようなことをMTGは想定していると言えます
①3ターン目までは確実に土地を出せることが望ましい
②4ターン目に安定して土地が出せることが望ましい
③5マナ以降は、1マナ伸ばすために2-3ターンを要する
④7マナが出せる頃にはほぼゲームには決着がついている
(2)最序盤
3ターン目に土地が出せない、これはほとんどのデッキで避けたい事態です
3ターン以内で手札を使い切ることは通常できませんから、デッキに関わらず、使用できるマナ数もカード数もほぼ同じになります。
(さて、3ターン目でゲームが終了すると考えると、最も効率がいいのは手札6枚を6マナで使うことです(とりあえず0マナ呪文は忘れてください)。稲妻(1マナ・3点本体火力)なら合計18点。ギリギリ相手が死ぬことはなさそうです。このあたりがMTGの絶妙なバランスです)
1ターン 使用できる総マナ数1
2ターン 使用できる総マナ数3
3ターン 使用できる総マナ数6
(3)序盤
4-5ターン目、土地が3枚で止まることも、4枚目、5枚目と置けることもどちらも想定ができます。これによって使用できるマナの総量にかなりの違いが生じます。プレイヤーはその両方の事態を想定する必要があります。
序盤までは双方、使用できるリソースがわずかであるため、展開もある程度予想ができます。
火炎の裂け目/Flame Rift(2マナ・4点本体火力)×4と稲妻(1マナ・3点本体火力)×2なら、手札6枚、合計10マナで21点。ギリギリ相手が死にます。2マナ4点本体火力は取扱注意。このあたりがMTGのバランスのようです。
4ターン 使用できる総マナ数 土地3:9 土地4:10
5ターン 使用できる総マナ数 土地3→3:12 土地3→4:13 土地4→4:14 土地4→5:15
(4)中盤
6-7ターン目。早ければ6マナに到達します。しかし、期待値に従えば6マナに到達するのは9ターン目です。
マナスクリュー(土地を十分な枚数引けない)気味の展開からマナフラッド(土地を引き過ぎてしまう)気味の展開まで、ブレが大きくなってきます。
5ターン以内にゲームが終了することは稀ですが、6ターンとなれば珍しいことではありません。このあたりから、デッキが想定するキルターンが重要になってきます。
それゆえにデッキ構成によるプレイの幅が大きくなります。
(5)終盤
8-10ターン目。上振れすれば7マナに到達します。
10ターン目、期待値に違えば、使用できたマナ総量は40マナ、使用できたカード総数は9枚。
実際きっちりとマナを使いきることは難しいので、せいぜい35マナくらいでしょうか。そうするとカード1枚当たりの平均コストはおおよそ4。
8ターンでゲームが終わるとすれば使用できたマナ総量は28マナ、使用できたカード総数は7枚。これもロスを考慮すればカード1枚当たりの平均コストは3.5といったところでしょうか。
いずれにせよ、いつゲームが終わってもおかしくないのが終盤です。
【2】アクション数とマナ・コスト
MTGではルール上、1ターンでとれるアクション数の制限はありません。しかし、実際、10ターン以内に限れば、1ターンに使用できるマナは6から7が限度です。したがって、1ターンに取りうるアクションはせいぜい2回まで、3回以上行なうにはそれなりの工夫が必要といえます。
そういった観点からプレイ・コストが1~7マナのカードについて考えていきます
(1)1マナ
MTGにおいてⅠマナのカードは非常に強力です。
序盤にプレイヤーが使えるマナは4~5マナであり、1マナのカードは、2アクションを行えることを、おおむね保証してくれます。
遅いデッキの場合、1マナのカードはタップイン土地で代替されがちです。
(2)2マナ
MTGにおいて2マナ以下のカードは「軽い」カードといえるでしょう。
土地が6枚揃うのは終盤ですから、2アクションを行うには、2マナ以下のカードが必須といえるからです。
「軽いカード」の選択肢では、2マナは受けが広く、1マナは受けが狭い。
2マナのカードを選べば、デッキは丸くなります(対応力が高い)。
それは逆に、メタゲームを読み、1マナカードを入れる余地を見極めてデッキを尖らせる重要性を意味します。
《喉首狙い/Go for the Throat》or《切り崩し/Cut Down》?
《血清の罠/Serum Snare》or《洪水の大口へ/Into the Flood Maw》?
(3)3マナ
MTGにおいて3マナのカードは新兵のようなものです。
デッキの主力にもなりえますし、どこか頼りない気もする悩ましいマナ域です。
MTGは3枚目の土地までは安定して出せる(出したい)ゲームですから、3マナのカードは、3ターン以降、安定してプレイできます。
また、後半であれば3マナのカードを2プレイすることも可能です。
3マナのカードはフットワークに優れているイメージです。
《殺害/Murder》や《取り消し/Cancel》といった、MTGの基本カードは3マナです。無条件で1対1交換ができる、それくらいのパワーレベルといえるでしょう。
(4)4マナ
MTGにおいて4マナのカードは古参兵のようなものです。
4マナのカードは確実な戦果が求められます。
MTGは4枚目の土地を出せるかが極めて重要なゲームですから、4マナのカードは必要な時にプレイできないリスクをはらみます。
また、『10ターン以内に限れば、1ターンに使用できるマナは6から7が限度』という理屈に従えば、4マナのカード2枚で2プレイすることはできません。
4マナのカードは目に見えて、3マナカードより強力な場合が多いです。
4マナのカードはハードパンチャーのイメージです。
《神の怒り/Wrath of God》や《集中/Concentrate》などが4マナの呪文です。これら1:2交換が可能なカードが4マナのパワーレベルといえるでしょう(集中については手札+1効果の2回分と考える)
(5)5マナ
MTGにおいて5マナのカードは、プレイできないかもしれない領域です。
4ターン以内でゲームエンドとなるのは例外的な場合ですので、4マナのカードであれば、1回は使用できるチャンスは保証されているといえます。
一方、土地5枚が揃うのは、期待値で7ターン、安定して揃うのは8~9ターン。後で述べますが、アグロ戦略においては6ターン前後でゲームの終了することを想定するので。対戦相手は5マナカードをプレイする機会が赦されなくても諦めるしかない、それが5マナという領域です。
しかし、実際は4マナカードと5マナカードの選択にプレイヤーが悩まされることは多いと思います。
4マナのカードが月見バーガーなら、5マナのカードは月見バーガー+ポテトくらいです。バリューセットにはなってくれません。
4マナのカードも、5マナのカードも、3マナの除去カード1枚でゲームからおさらばしてしまうのは変わらないからです。
(6)6マナ
MTGにおいて6マナのカードは決戦兵器です。それだけで場を支配することのできるカードがふさわしい。6マナ払って6/4バニラを場に出している場合ではないのです。
なぜなら、6マナというのはゲーム終盤にようやく到達する領域だからです。
そして、6マナカードをプレイして、軽いカードをもう一枚使って2アクションというのは困難だからです。つまり、6マナカードを使う瞬間、プレイヤーは無防備にならざるを得ません。
なので6マナカードとなれば、除去耐性があって然るべきです。あるいはプレイした時点でゲームにカード1枚分の影響を与えなければなりません。
そしてターンが戻れば、4マナカードを圧倒するくらいの影響力が必要です。
雑にいえば1:3交換が可能なカードが6マナのパワーレベルです。
(7)7マナ
MTGにおいて6マナのカードは終末を告げるものです。もはやゲームは終わらなければなりません。7マナは通常到達できるかできないかギリギリの領域です。7マナに到達したこと自体で、素敵なご褒美が与えられてもおかしくないレベルなのです。
6マナ・カードがもたらすものが、圧倒、制圧であれば、7マナ・カードは大逆転です。
【3】3種のアーキタイプ
以上の考察から導き出される結論の一つ、MTGには基本的に3つのアーキタイプが存在することになります。その3つとは……
アグロ:4-7ターンでゲームを終了させる構築
ミッドレンジ:8-12ターンでゲームを終了させる構築
コントロール:13ターン以上でゲームを終了させる構築
なぜなら、
①終了ターンが早いほど、仕えるマナ総量が少なく手札が余る
②終了ターンが遅いほど、仕えるマナ総量が多く手札が不足する
「ゲーム終了ターン」をずらすことで、相手のリソースを消化不良にすることができるのです。
アグロの優位性は、テンポ・アドバンテージであり
コントロールの優位性はカード・アドバンテージという形で表出します。
ミッドレンジはその両方をバランスよく追及します
(2)アグロ戦略
アグロ戦略のキルターンを仮に6ターンとすると
使える総マナ数18,手札は7枚。
カード1枚あたり3点、Ⅰマナあたり1点のライフを削る必要があります。
ビートダウンデッキのクリーチャーの条件、「パワー≧コスト」もここから導き出されます。クリーチャーは継続的なダメージソースですが、除去されやすい存在でもあります。最低限1回殴れば良しというのがMTGのバランスなのでしょう。
アグロ戦略の典型的な展開は次のようになります
①一方的に相手のライフを削るフェイズ
↓
②相手の対応を遅延させながら、ダメージを蓄積していくフェイズ
↓
③敵の防衛線(対応手段)が整った後に、最後の数点のライフを削るフェイズ
(3)ミッドレンジ戦略
ミッドレンジ戦略は、アグロとコントロールの中間、つまり「普通にMTGをする」デッキです。「普通にMTGする」=強いカードを使うということです。
アグロを相手にテンポを失わず、カードアドを取る。
コントロールに対し、カードアドを失わずに、テンポを取る。
おいしいとこどりです。
(4)コントロール戦略
コントロールの戦略は基本的には拡大再生産。
本記事では触れなかった、マナ加速、ドロー促進を駆使して、リソース消費して、リソースを拡大することを繰り返すことになります。
詳しくは次回以降
コントロール戦略の典型的な展開は次のようになります
①一方的にリソースを奪われるフェイズ
↓
②相手の攻撃を遅延させながら、リソースを蓄積するフェイズ
↓
③防衛線(対応手段)を整えた上で、リソースを拡大するフェイズ
【4】まとめ
「手札」と「土地」と「ライフ」という基本要素だけから、MTGというゲームを分析してみました。
次回は、リソース拡大について考えてみます