ハナミズキ
その道は海へと続いていました。
5月になると赤や白の可愛らしい花をつけるハナミズキの道でした。
交通の便があまり良くなかった町に広く綺麗なバイパスが通され
その時、街路樹として植えられたのはハナミズキの木でした。
年ごとに太く大きくなる木は咲かせる花も増えていき
海へ行く道すがらその花々を眺めるのが私は好きでした。
いつも「ハナミズキ」のメロディーが口をついて出て
そんな事も何かとても嬉しい心持ちがしたものです。
世界中の悲しみをかき集めてしまったかのようなあの日。
嬉しかった海へ続くあのハナミズキの道は
一瞬のうちにその姿を変えていました。
美しい花々を咲かせた木は津波の威力になぎ倒され
その根元にはたくさんのご遺体が横たわり
目を覆うような地獄絵図となっていました。
慈しみ育まれた大切な大切な命が
自然の猛威にはひとたまりもなかった。
その時から
私はあの曲を聴くことも口ずさむ事もできなくなってしまっていました。
最近、あらためて歌詞を見直してみても
やはり胸が詰まってしまいましたが
今では結婚式の定番曲となったあの歌をふと耳にする時の胸の内は
これから先、少しずつマシになっていくのでしょうか… 。
復興とは名ばかりの蓋をするだけで保たれている心でも
時は着実に進み今日12年を経て十三回忌を迎えました。
「僕の我慢がいつか実を結び
果てない波がちゃんと
止まりますように
君と好きな人が 百年続きますように」
そんな祈りを持ち続けて私もここまで来たように思います。
赦される限り理不尽でも愛しいこの世界を
これからも歩んでいくことでしょう。