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朗読のための古典怪談

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江戸・明治時代の古典怪談を、朗読用に現代語訳して書いたテキストです。どうぞお楽しみ下さい。
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#芥川龍之介

芥川龍之介が学生時代に編んでいた古典怪談集『俶図志異』に収められているお話です。これは、芥川の創作ではありません。両親や友人から聞いた、あるいは図書館で調べた古い怪談の数々を芥川はノートに書き連ね、怪談集としていました。この朗読では、語り用に平易な言葉で作成したテキストを、オリジナルBGMに乗せてお届けします。12分56秒の、美しく妖しい古典怪談の世界をどうぞ。

言伝(ことづて)

言伝(ことづて)

 ~芥川龍之介
 『椒図志異(しょうずしい)』より~
   

平田篤胤(ひらたあつたね)氏の縁者に、浜田三次郎というひとがいた。
このひとの妹婿に、能勢平蔵という男がいた。
町同心をつとめており、男の子ふたり、女の子三人の父親であった。
だが五十年ばかり前に、突然平蔵は家を出て行方しれずとなった。

時代が時代であったので、家は断絶とされた。
五人の子どもたちは三次郎が引きとって養育し、みな立派

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天狗にさらわれた侍

天狗にさらわれた侍

 〜芥川龍之介
 『俶図志異(しょうずしい)』より〜

これは、桜町天皇の御世(みよ)のとき、元文五年にあったことである。
元文五年は、西暦では1740年になる。
この年、比叡山の西塔、釈迦堂の御修理があった。
これを采配した奉行は、江州信楽の代官、多羅尾四郎左エ門(たらおしろうざえもん)と、もう一人は、大津の代官、石原清左エ門(いしはらせいざえもん)であった。
その石原の家来に、木内兵左エ門(き

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