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ゼニスブルーの青春
うみの近くで育った。淡海、と書く方のうみ。
小さい頃は向こう岸のことを外国だと思っていたくらいに、青はどこまでも続いているように見えた。
海とは違う、やわらかい青。ゼニスブルー、なんて表現が似合うだろうか。
高校生の頃は、学校をサボった日によく湖岸に来ていた。
お母さんが作ってくれたお弁当を家で食べて、スクバではなくギターケースを背負って、罪悪感と自己嫌悪感から逃げるように坂を下った。うみはいつでも穏やかに、わたしを待っていた。
何もかも忘れて、ギターを弾きながら向こう岸をぼんやりと眺めている時間が、わたしはたまらなく好きだった。親から譲り受けたアコギではなく、自分で選んだ、大切な大切なジャズマスター。アンプに繋がないままの小さな音が波音にかき消されて、それでわたしには丁度よく思えた。
先日、久しぶりにうみを見たくなって、特急に乗って地元に帰ってきた。
少し大人になったわたしは、近くのスタバでコーヒーを買って、あの時と同じ坂道を下っていく。坂の先に見えるのは、あのやさしいゼニスブルー。
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いつもの定位置、カバンを投げ出して急いでチューニング。冬の冷たい風が湖面を揺らしても、久しぶりのこの景色に気持ちは逸る。あの曲が歌いたい。この曲も、この曲も。
過去のわたしがここで歌っていたのは、15の時に一目惚れした Hump Back。
何をやってもうまくいかないモヤモヤした気持ちを、この曲に乗せて歌っていた。
夢はもう見ないのかい? 明日は来ないのかい?
諦めはついたかい? 馬鹿みたいに空がキレイだぜ
あぁ もう泣かないで 君が思う程に弱くはない
あぁ まだ追いかけて 負けっぱなしくらいじゃ終われない
遠回りくらいが丁度いい
たくさん遠回りしてきた。
親と喧嘩して、泣き叫んで、家出して。たくさんの薬を飲んで、どれも合わなくて絶望して。大学にも通えなくて、何もできなくなって、もうどうでもよくなっちゃったりして。
それでも、生きてきた。負けっぱなしじゃ、終われないから。
ヘンテコだと笑われたこの声で、6年間まるで成長していないギターで、21のわたしは過去のわたしに向かって歌う。夢を見られるくらいに、元気になったのだと。
「比良おろし」と呼ばれる強い風に乗って、歌は向こう岸に飛んでいく。
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いつか、今まで一人で歌っていた自分の曲を、誰かに聞いてもらえるように。
自分の書いた曲で、誰かの生活を彩ることができるように。
この夢が叶う日まで、わたしは歌い続ける。
うみに向かって、過去のわたしに向かって。