たまに思い出す、幸せな料理の話
食品を販売するという仕事柄、私はよく料理をする。
ひとり暮らしを始めてからもう7年ほど経った。途中実家に帰ったこともあったけれど、大学院に行ってたので新卒での就職が遅かったことや、早くに転職したり、その後無職になったり、独立したりとかで、たぶん同世代でまっとうに働いている人たちよりも全然お金がない人生を送っている。
だからこそ、「自炊」をしないといけない7年間だった。
新卒では地元から少し離れた市役所に入ったけれど、初めてのアパート暮らしで、朝昼夜食べるものを用意するのが最初はまあまあ大変だった。家族との関係がアレなときもあったし、不登校だったりした時代もあったけれど、母親は料理が上手な人で、私のためにお弁当をいつも作ってくれていた。二段弁当でよくある弁当だった頃もあったけど、「弁当はこういうのでいいんじゃい!」と言ってどんぶりタイプの弁当を作ってくれることも多かった。
そんな経験があったから、自分が働いてひとり暮らしをしているときは自然と「職場には弁当を持っていくもんだ」という考えになった。当時の私はいろいろなものを持って行った。筋トレにはまり始めた頃は、ごはんと鯖缶を持って行ったり、大豆ミートで作ったキーマカレーを持って行ったり。結構においのするものをオフィスに持って行っては上司によく笑われていた。
当時、初めてのひとり暮らしだったのだけど、その街でできた友人がたまに遊びに来てくれて、ごはんを一緒に作ったりもした。その人は、栄養士をしていて、ホタテの缶詰を使って、西京味噌で味付けした豆乳鍋を作ってくれた。あの鍋、めちゃくちゃおいしかった。どうやって作るのか忘れちゃったんだけど、また食べたいな。
新卒で働いた職場を3年で辞めてから、独立するために農業の会社に転職した。農業という業界は、決しても女性が働きやすい環境ではなかった(たぶん今も)。入社当初、「女性だから」という時代錯誤の理由で同期入社の社員より給料を低くされていたり、立ちション前提だから職場にトイレがなかったり、息するようにセクハラされたり。そういう、ちょっとしたいやなことの積み重ねと、4年付き合った彼氏との別れと、祖父との死別とで、私は心がどんどんすり減って毎日社用車の中で泣いていた。
そんなときに、大学時代の友人と再会し、超絶弱っていた私はまんまと好きになってしまった。大学を卒業してから彼は別の大学院に進学し、たくさん挫折をしたのだと語っていた。多くの苦しみを経験した彼は、辛かった私のとげとげしていた日々を、平らにならしてくれるような人だった。だけど恋愛の多くはたぶんうまくいかなくて、もちろん私は振られてしまったし、その後彼は半年で遠くの街に就職していってしまい、ボロボロ泣いた。あっけなくその恋は終わった。
彼に未練があるわけではないけれど、そのときの思い出で心に残っていることがあって、それは「それまでの人生で一番楽しく、たくさん料理をした」ということだった。
その頃もひとり暮らしだった私の家に時々遊びに来て、よく一緒にごはんを食べた。初めて作る料理にもいっぱい挑戦したのがこのとき。ちょうど学生時代の元彼からもらったオーブンが壊れたから、250度まで出るオーブンを買って、高加水生地のピザを作ったり、甘いものが苦手だけどお酒を飲むのが好きな彼のために、バレンタインデーでライ麦パンとプレッツェルを作ったり。しかも、毎回ちゃんと事前に試作をしていた。普通に会社員で働きながら!今思うと体力ありまくりだし、バカかよ。
いつも、おいしいおいしいと食べてくれて、初めて料理が楽しくて幸せだと思ったのもこのときだった。就職で引っ越す前に会いに来てくれて、ホワイトデーで味噌とおいしい出汁をくれたのは今でも超覚えている。一人になってから、えんえん泣いた。
今日、もうかれこれ15年くらいの付き合いになる友人と会ったときに、「あなたが言ってた、好きな男のために作ってたときが一番料理していたってのめちゃくちゃ分かるわ」とすき家ですき焼き鍋を食べながら笑って言われた。誰かのために作る料理は楽しい。彼女は、「クソヤローだったんだけどね!バカだよね!」と言っていたけど、それがどんな人であれ、大好きな人のためだともっと幸せだし、たぶん自分のために作る「自炊」では出てこないおいしさがあると思う。
最近特に思うのは、料理は自由で楽しい。そして好きな人に喜んでもらいたいとわくわくしながら作る料理がいちばん幸せだ。今年は、仕事で「人のため」に料理をする機会を多くいただけて、そのたび私は楽しく、幸せな気持ちをいただいた。
恋愛も楽しい。うまくいかなかったり、他人から見たら不毛といわれるような恋愛にだって、学びと成長がある。別れがあっても、その人との思い出は今の自分の糧になる。おかげで私は今も、料理がほどほどに楽しいです。
ふと、たまには手の込んだ料理を作ろうと思い、豚肉をブロックで買った。肉と野菜、具材すべてを事前に焼き目を付けてポトフを作った。いつもだったら全部一気に煮込んでしまうところだけど、いつもお世話になっているあの人にも食べてほしいなと考えながら、ひと手間加えたポトフ。明日は休みだからまた煮込むことにする。煮込み初日なのにすでにめちゃくちゃおいしかった。余ったらひとりでスープパスタにして食べよう。
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