【感想】うたつかい35号
うたつかい35号、貴重な乱丁本を手に入れました。
感想です。
やはらかく足を揺らして夏色の平均台のまんなかで待つ/有村桔梗「平均台」
主体は何を(誰を)待っているのでしょうか。「やはらかく足を揺らして」からリラックスして待てるもの、人であれば気のおけない友人、人以外であれば夕暮れなどの好きな時間帯などでしょうか。5首とも初句をひらがなにすることでやわらかい雰囲気をまとわせつつ、微かな緊張感も見え隠れしています。
マスカラをたっぷりのせて抗えば響く私のシュプレヒコール/枝豆みどり「がらんどう」
失恋、もしくはそれ未満であった関係に対する連作。リズムが良いのでついついさらっと読んでしまいそうでしたが、結句の「シュプレヒコール」の解釈が難しいですね。「抗えば」と重ねているのかと思ったのですが、それだとどうも繋がりが悪いような気がします。別の感情を示しているのかもしれません。
やさしさということにしておきましょう監視カメラの変な大きさ/工藤吉生「地下鉄」
駅の至るところに隠すそぶりもなく堂々と設置してある監視カメラ。犯罪防止のためとはわかっていても見られているようでいい気はしない。そこでこの監視カメラは「やさしさ」であると思うようにすると、少しは気持ちも楽になる。結句の「変な大きさ」はこの歌を不安定なままで着地させていて、他にはない絶妙なバランスを保たせています。
#丁寧に暮らしています 丁寧の方向性がわからないけど/小林礼歩「#丁寧に暮らしています」
ハッシュタグの意味(効果)はなんだろう。SNSの想起、気軽さ、連作としてのグルーピング……いろいろ考えが生まれます。並んだ3首に用いることで視覚的なインパクトもありますね。こういった表現は私の中にはないので新鮮さを覚えました。
執拗にあしのうらがわくすぐれば個人情報ながれ出るかも/鈴木麦太朗「個人情報」
足の裏をくすぐって『答えないとこうだぞ~』と意地悪く何かを聞き出そうとしている場面か。「個人情報」という言葉の選択が秀逸です。少し堅苦しさがありますがそれが逆におもしろさを生み出しています。「ながれ出る」もいいですね。個人情報を喋ってしまうのではなく、足の裏から言葉が流れ出てくるようです。
霜月の空を映した水面を飛び立つ鳰の細しき滑走/chari「バードウォッチング」
バードウォッチングで丁寧に鳥たちを追った景色が共有されます。「細しき」とだけ表現された「滑走」ですが、そこからは静けさや優雅さといった雰囲気も感じ取ることができます。「細しき」のわずか三文字を他の言葉が見事に支えています。
忘れもの届けてくれてありがとう落とした時とは別人なんだ/ひろうたあいこ「咲いていた」
読み解くのが難しい一首です。「忘れもの」と「落とした」は少し違和感がありますが、同じ「忘れもの(落としもの)」を指しているのでしょう。しかし「別人」とはどういうことだろう。落とした「時」とあることから、時間の経過で過去の自分とは違うという意識か。でもそれだけではなく、もう一歩進んだ感覚があるように思います。
最後までじっと残った人にだけおまけみたいな朝焼けがある/夜夜中さりとて「アバンタイトル」
映画にはエンドロールのあとに数秒だけ映像が流れ、エンドロールの途中で席を立った人には見られないおまけがあったりする。ここではその数秒の映像を「朝焼け」と呼ぶことで、連作全体に漂う『映画=人生』の図式を表現しています。シンプルな歌の中にシンプルな巧さが見て取れます。
以上、8名の方の歌の感想でした。
嫉妬林檎は「水族館で泳ぎたかった」といタイトルで暗い5首+テーマ詠で参加させていただきました。
というか、この感想はうたつかい34号の感想の直後に書き始めたはずなのにもうGWが終わってるんですよね……おかしいですね……でも人生ってそんなもんですよね……
最近は短歌含めて創作活動がほとんどお留守になっているので、この更新をきっかけにまたちょっと頑張っていきたいなって。
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