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【職人探訪vol.10】 漆のことならお任せあれ!日本の漆器産地を支える箕輪漆行 後編

こんにちは。漆琳堂8代目当主、内田徹です。

越前漆器を支える職人たちを訪ねる「職人探訪」。
前回は日本一の漆取扱量を誇る福井県越前市の漆問屋、箕輪漆行(みのわしっこう)の代表取締役社長 蓑輪利一さんに、漆の精製技術や豊富な商品について紹介していただきました。

後編では漆の貯蔵庫に移動し、普段の仕事を通じて感じる漆の良さやこれからの漆の可能性について語っていただきます。

漆を取り巻く環境の変化

ーーすごい量の漆ですね。これは中国産ですか?

ほとんどが中国から輸入された生漆(きうるし)です。日本全体の漆輸入量は23t前後なのですが、弊社はそのうち約40%を取り扱っています。この倉庫には1〜2年分の漆が貯蔵されています。

1つの樽には約20〜25kgの漆が入っている。これまでは木の樽が主流だったが時代とともに紙製になり、今ではプラスチックの樽が増えているそう
もちろん国産の漆も取り扱う。掻子(かきこ)と呼ばれる漆を採取する職人の名前が樽に記載されている

ーー国産漆の取扱いは中国産に比べるとどれくらいの量なのでしょうか。

全体の10%くらいですね。中国産に比べると圧倒的に少ないですが、文化財の修復に国産漆を使用することが定められたりしたことから、実は近年、少しずつ増えています。

ーー漆ごとに品質に違いがあるのでしょうか?

国産漆は掻く時期によって「初物」や「盛り」があります。初物は水分量が少し多い特性があり、拭き漆用に向いていますね。中国産の漆はいろんな産地から集められた漆が混ぜられているので、樽ごとの違いはあまり感じません。

固まる速度は中国産の方が早いですが、強度や艶は国産漆が圧倒的に優れているなと感じます。

漆は掻子が、樹液を採るために漆の木に刃物で傷をつけ、修復をしようと木から出た樹液を集めたもの。日本では漆を採取した後の木は切ってしまう「殺し掻き」が一般的だが、中国では漆を掻いた後しばらく休ませてまた採取する「養生掻き」が行われている

ーー普段なかなか見れない現場を案内していただきありがとうございました。あらためて箕輪漆行さんについて教えていただけますか。

箕輪漆行の起源は天正元年(1952)あたりといわれていまして、庄屋からはじまりました。田んぼも持っているので、おそらく昔からいろんな仕事をしていたのだと思います。漆屋としては1947年頃からはじまり、私が3代目です。6年ほど前に先代から跡を継ぎ、今は全体で19名の社員がいます。

ーー箕輪漆行さんは長年、漆取扱量日本一を誇りますが、今はどんなところに卸しているのでしょうか。

全国各地にある漆器の産地をはじめ、寺社の修復や仏像・仏壇を作る職人などにも卸しています。建築関係に使われることも多いですね。

ーー越前漆器は全国の漆器産地のなかでも出荷額日本一を誇る産地(日漆連 2021年度調査)ですが、コロナ禍ではいろんな影響があったと漆器関係者から聞きました。蓑輪さんの周りではいかがでしたか?

たしかに漆器業界は大変でしたね。コロナもそうですし、円安や物価高など世界経済の変化で中国でも人件費が上がっています。国産漆に比べて中国産漆が圧倒的に安いですが、それでも毎年5%程度値上げを余儀なくされています。

ーーたしかに、ものづくりをする我々にとっては厳しい時代かもしれません。

値上げは外的な要因もありますが、日本全体で漆離れが進んでいるのも大きな問題だと感じています。昔は北陸でもべんがら(防虫、防疫効果がある顔料)を塗る民家が多く見られましたが、今は床の間がないお家が増えました。仏壇も最近ではほとんど漆を使うことがなくなり、化学塗料が主流になっています。漆は日本の誇れる文化の一つだと思うので、その良さを実感してほしいと常々感じています。

漆は自然と人に優しい天然素材

ーー蓑輪さんにとって漆の良さとは何でしょうか。

やはり天然素材というところですね。人類と漆の歴史は約9,000年以上の縄文時代に遡るといわれています。その頃から変わることなく自然の恵みを活かした環境にやさしい素材であること、安全性や堅牢性、耐熱性に優れ、美しさも兼ね備えた素材はほかにはなかなかないと感じています。
令和3年度には、経済産業省や漆関係業界団体の代表者、有識者などで構成される、「うるし振興研究会」で、漆の高い抗菌性について発表されたこともあり、漆の可能性を感じた機会でもありました。

ーー漆が食中毒で有名な黄色ブドウ球菌だけでなくウイルスに対しても効果があるという結果は、これからの漆のものづくりに新たなヒントになると私も感じています。

それこそ昔は重箱にお寿司やおはぎなど、いろんなものをいれてご近所に配ったりもらったりしていましたよね。生活道具として漆器を使うことは文化的な面だけでなく、漆が持つ効果など理にかなっている部分があったのだと思います。

漆特有の独特の匂いがあったり素手でさわるとかぶれたりすることはありますが、身体を害するものではないので安心して仕事ができるのもこの仕事の良いところだなと思いますね。

漆の魅力を世界に発信したい

ーー今後挑戦してみたいことがあれば教えてください。

個人的には海外、特に中国へ漆を売りたいなと数年前から考えています。台湾や韓国ではすでに漆を販売していますが、圧倒的に人口の多い中国はこれからの販路として魅力的ですから。ホームページも2023年春にリニューアルし、中国語と英語対応になりました。

ーーこれからを見据えているんですね。勉強になります。

いえいえ、あくまで箕輪漆行は原料や道具を扱う問屋で、商品を作っているわけではありません。大事な日本の文化である漆がこれからも受け継がれ、世界でもその魅力が伝わるように、漆に携わる方の下支えをしていきたいと思っています。

漆に関することならぜひお気軽にご相談ください。

多くの職人が関わり、惜しみない時間と手間がかけられることによって生み出される漆器。普段は職人たちがクローズアップされがちですが、職人たちが高い技術を発揮できるようあらゆるニーズに応える原料メーカーも、産地にはなくてはならない存在です。

今回、あらためて箕輪漆行さんの仕事を拝見し、原料から道具までものづくりを支えるプロフェッショナルとしての懐の深さを感じました。蓑輪さん、ありがとうございました。

取材協力

箕輪漆行
〒915-0261 福井県越前市朽飯町11-25
https://www.urushiya.jp/








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