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死体掃除屋、「廃」。

 夜明け前。街が深海に包まれる時間帯。
 噂通り、彼を見付けた。灰色の防護服を着た男が悪臭漂う路地裏に入っていく。
 ねちゃ……ねちゃ……ねちゃ……。
 彼に気が付かれぬよう、忍足で後を付ける。こういう時に泥濘んだ地面をもどかしくる感じる。 
 落書きと街路灯。
 恐怖心と好奇心が同時に湧き起こる。神経を好奇心に集中させる。
 防護服の男は、背中にタンクのような物を背負っていた。下部からホースが伸びており、右手で持ちながら歩いていた。
 臭いが強くなっていく。
 原因は分かっている。好んで見るものではない。むしろ、一生見たくない。
 それでも、僕は行かなければならない。
 防護服の男が角を曲がった。
 僕は、ゆっくりと壁の陰から先を覗く。
 悪臭の元は、死体の山。老若男女問わず、人間の死体が積み重なっている。辺りには紫色の蝿が飛び回り、建物の上からは濃紺色の烏が目に恐怖の色を浮かべながら夜の路地裏に潜む地獄を見下ろしていた。
 その悲惨な山の前に立つ、防護服の男。彼はホースを両手で持つと、先端部にあるスイッチを押した。
 ずじゃあぁあぁぁぁっ……。
 勢いよく透明の液体が飛び出し、死体の山に降りかかる。
 1分ぐらいしてから気が付いた。山頂辺りの死体が溶け始めている。皮が溶け、肉が溶け、骨が溶け、元々の色のまま液体となり、透明の液体と混ざり合って、下にある死体へ注がれる。音もなく、死体が液体となっていく。山が消えていき、地面に染み込んでいく。
 死体掃除屋、「廃」。
 湿気の高いこの街で、灰色の防護服を着た彼はそう呼ばれている。
 今まで謎とされてきた、廃による死体処理の方法をやっと知ることが出来た。いい記事が書けるぞと興奮していたら、液体がどろどろとこちらまで流れてきた。
 ぬらぬらぬらぬら……。
 山から流れてきた川が、僕の足で二手に分かれる。
 分かってしまった。この街の地面が何故、常に泥濘んでいるのか。
 スニーカーの底を濡らす液体に、足を蹂躙されているような感覚になった。



【登場した湿気の街の住人】

・湿度文学。
・死体掃除屋、「廃」

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