パンサー尾形が好きだ。
パンサー尾形が好きだ。
決して「好きなタレントは?」と聞かれても序盤に名前が出てくるタイプの芸人さんではなかったが、
先日の「相席食堂」、そして「水曜日のダウンタウン」を経て、これまで気づききれてなかった自分の中の尾形(最大級のリスペクトを込めて敬称略)という存在に対する憧憬めいたものがはっきりと形を成してきた。
最初に世の中的に話題になったのは「ロンハー」のマジックメールだっただろうか。
杉原杏璃によるハニートラップと対峙し理性と欲望のはざまで苦悶する姿に、当時はチャラめだったルックスや名門・仙台育英高校のサッカー部でキャプテンを務めていたという鬼モテ経歴とのギャップも相まって、「意外とピュアな人なんやな。」ぐらいの感想を持っていた気がする。
以降、菅さん&向井さんのひな壇における立ち回り力と共に、パンサーは「いいとも」「王様のブランチ」レギュラーと、売れっ子への階段をストレートに昇りつめた。その傍ら、尾形は徐々にリアクション芸人として新たな魅力を開花させる。
ロンハーではその中学生じみた愛妻家っぷりから、ご存知・奥様のアイちゃんとの距離が縮まるK-1ファイターの武尊に向かって嫉妬のあまり「蹴りだけなら勝てる」と発言。お約束通りボコのボコにされた挙句、最後には「アイちゃんが武尊くんのこと好きになっちゃうから、勝ってる感じに八百長してください!」と土下座。後日、そのOAを自宅でアイちゃんと観ながら「もう観んのやめよ!芸人だからこうしてるけど、全然大したことなかったからね!」とそっぽを向いて言い放つ。嗚呼、尾形。誰よりも人間臭くて、芸人の中の芸人である。
「ロンハー」と同じく加地Pの愛が垣間見える「アメトーーク」では、『仮バラシ芸人』回で仮の仕事がバラしになったと告げるマネージャーさんを前に、「おれの年齢とか言ってないよね!?俺、若手だからね!」と[42歳・永遠の若手芸人]の肩書を強く主張。『6.5世代芸人』回では第7世代MC番組からの偽オファーを受けて、「仕事選んでらんねえだろ。時代に乗っかっていかないと。」と臆面もなく答えた。
プライドはない。要らない。あるのは妻と子供と35年のローンだけである。いつだって滝のような汗をかきながら、目の前のボールにオフサイドも気にせず食らいつく。この頃にはもう、大きな笑いと共に、僕は彼の生き様にすっかり心酔してしまっていた。
そして件の「相席食堂」。冒頭から北海道・ニセコ町の雪景色を舞台に肌色多めで身体を張りまくるが、相席を試みた外国人観光客に軽くあしらわれ、撮れ高への心配が積もる尾形。坊主頭を愛でる習性があるというダチョウ牧場で即座に頭を丸めるも、いまいち芳しい反応を見せないお笑い偏差値高めのダチョウたち。痺れを切らした尾形は、とうとう温泉の源泉らしき湖に作為的な演出で倒れ込む。剃りたての頭と必死の形相をメイクアップするように美しい泥を塗りたくり、カメラの向こうの千鳥と、我々を見つめるのである。まさにこのお笑い格差社会が生んだ現代のジョーカー。スベりの先を観た者だけに宿る鋭い眼光。哀しくも愛らしい、悲哀に満ち溢れた狂気のコメディアンの完成である。
余韻に浸る間もなく、その翌週放送された「水曜日のダウンタウン」で見せた尾形の男気はネットニュースにも取り上げられ、大きな話題に。年末に宴会の席を共にした女性が実は未成年であったというスキャンダル記事が週刊誌に出ることを告げられる、「水曜日」ならではの容赦ないドッキリ企画だ。ロケの合間にそれを聞かされた尾形は、同じ写真に写っている後輩を慮り、「全員いかれる必要はない、どうせ出んだったら俺が被るから。」と涙目で訴えかけた。ロケ後半には占い師のもとを訪れると、今後の人生の展望について恐ろしい表情で問いただす。
自信もない。アイデアもない。あるのはどこまでも純粋な人間味と、愚直なまでの懸命な姿勢、そして妻と子供と35年のローン。同日OAされた「有吉の壁」でも見事MVPに選出。千鳥の太鼓判通り、まさに2020年、何か得体のしれない巨大なパズルが少しずつ組みあがってきたかのような予兆が訪れている。
尾形がドッキリに掛けられている時、もがきながら活路を模索している時。笑いながらもどこからか沸々と鼓舞される自分が居る。自分には持ち得ないその熱量。一心不乱、猪突猛進、なりふり構わず結果を求める汗と涙を目にし、とにかく「報われてほしい!」と拳を握らされる。勇気を貰えるのだ。彼に降りかかる災難が嘘でなきゃ、彼が報われなきゃおかしい!この世の不条理に抗うヒーローの背中を笑いたい!、と。
あまり大仰に持ち上げすぎると営業妨害になりそうではあるが、とにかく言いたい。尾形が好きだ。ローンを完済するその日まで、汗まみれの彼の姿を笑い続けたい。