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模試で1日中がっつりカンニングされて怖い思いをした話。

中学受験を控えていた小学6年生の僕は、週末に開催される模試をよく受けていた。
いわゆる受験生たちが日々の勉強の成果を確かめる学力テストで、近隣の中学校で開催され、模試の日は見知らぬ教室で夕方まで試験に向き合うことになる。

地元の公立小学校に通っていた僕に受験生の友達はおらず、
その日は、ひとりで家から自転車で15分程度の距離にある私立中学校で模試に臨んでいた。
はじめての学校、はじめての教室。知らない生徒たち、監督の先生。
毎度のことながら慣れない空間に緊張を覚えつつも、受験番号に紐づく指定の席に座った。

1限目は国語。得意な科目だ。
開始のベルがなり、鉛筆を走らせる音が教室内に響く。

スタートから5分ほど経ったころだろうか。
問題用紙を読み込む僕の右側から、不自然な視線を感じるのである。
チラリと右の席に目をやる。

坊主頭の少年が、こちらを覗き込んでいる。

(カンニングや!!!)

(ガッツリ系の!!!)

模試でここまで本格派のカンニンガー(カンニングする人)がいることに、大きな驚きを覚えた。
とんでもない度胸である。
解答を盗み見される怒りよりも、ビックリが勝る。

(君、もうちょっと上手くやらんと、大丈夫か?)

何を隠そう、我々の席は前から3列目、黒板の前に座る先生から見て目の届く範囲の配置なのだ。
少年のカンニングの大胆さたるや、しっかり肩を入れて少年から見て左側に上半身をねじるスタイル。
もし彼がこのままバットを握ろうもんなら今すぐピッチングしてあげないと失礼に当たる体勢でこちらと対峙しているのである。
これがNARUTOの中忍試験だったら退場どころかその勇気を称え逆に火影になってほしいレベルの潔さだ。

困った。それとなく腕で隠しながらテストを進めようとするも、集中できない。
冤罪は起こりえないぐらいの熱い視線を向けているが、自分からチクるのにもなかなか勇気がいる。
というか、さすがにこの状況は先生も気づくのでは…?
前の先生を見てみると、しっかり目が合った。

(いや、注意してよ!!!!)

(右の男の子!!)

(本格派のカンニンガー(カンニングする人)がいるから!!)

なんだ、この先生。何のためにそこに座っているのだ。
節-1グランプリ(その年、最も目が節穴な人を決める大会)優勝間違いなしの大人に怒りが湧いてくる。

そのまま算数、理科、社会と時間は続き、
最後まで少年のカンニングは注意を受けることなく、全科目試験は終了した。
テストから解放された安堵と帰りの支度でざわざわとする受験生たち。

(なんだったんだこれは・・・)
(逆に僕の点数が悪かったら迷惑をかけるぐらい、隣の彼の結果は僕に懸かっているぞ・・・)

もういい、今日の模試のことは忘れよう。
カバンを持ち席を立とうとすると、
カンニンガーの少年が、監督の先生に連れられてこちらに歩いてくるではないか。

(なんだ!?)

(今さら謝罪か!?!?)

僕の席に着いた先生は、少年の肩に手をかけながら話しかけてくる。

先生:ごめんなあ。今日1日迷惑をかけて…。


(はあ!?!?!)

(わかっていたならなんで試験中に止めないんだ!!!)
(息子なのか!?癒着か!?大会公式カンニンガーか!?)

(Official理科カンニングイズムか!?!?)

あまりにシュールな展開に言葉が出ない。


僕:い、いえ…。

すると、ここで初めて少年が口を開く。


少年:でもね、カンニングしていたの、俺だけじゃないから!!


(なんだその言い訳は!!)

(他にしていた子がいたから、自分もしてもいいと言うのか!?)
(日本は法治国家ではなかったのか!?)

(というか、他にもしてた子いたんかい!ズルズルやなこの試験!)

そして僕の方を指さして、少年はこう続けた。


少年:君の、左の席の女の子も、君の答えをずーーーーっとカンニングしてたからね。

僕の左の席の女の子も?
右の少年にばかり気を取られていたが、左からも?

いや。そんなはずはない。
そんなことはありえない。

だって僕はその日、一番左端の窓側の席にいて、左には席はなく外の風景が広がっていたのだから。
教室は3階だった。女の子がいるはずがない。

少年は先生に手を取られながら、立ち去っていった。
僕は家に帰ってカレーを食べた。

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