#4ショートショートらしきもの「登校」
あれ?今日はピンクパンサーがいないな。風邪でも引いたのかな?
今日もゾンビ姫は元気そうだな。なぜかピンクパンサーも一緒にいる。
僕は電車に乗って数駅先にある高校に通っている。
自転車で通えなくもないが、電車なら寝坊してしまった時に電車遅延のせいにすれば、出席簿にバツがつかないので電車通学にしている。
とはいっても学期に一回あるかないかの寝坊なので必要のない保険である。
寝坊できない理由としては成績に響くという他にもっと重要な理由がある。
僕は毎朝7:30きっかしに家を出る。
7:34に1軒目のコンビニの前を通り、7:42に2軒目のコンビニを通る。
7:44に郵便局の前を通り7:46に駅に到着。
そして7:50発の上り列車の一番後ろの車両に乗る。
細かいなと思われるが意外とみんな近いことをしていると思う。
毎朝決まった時間に家を出て、同じルートで駅に向かう。
大体この辺であのサラリーマンとすれ違い、別の学校の学生とすれ違う。
意識はしてないかもしれないがこんな経験はあると思う。
確かに時間を確認している僕は変だけど。
すれ違う人達の場所で今何時頃か時計を見ずに確認することができるようになった。
同じ時間に出たはずなのに、あの人とはいつもより家に近い位置ですれ違う。
今日のテストへの不安から自然と足が重くなり、歩くペースが落ちていると気づく。
こんな風に毎朝すれ違うイツメン達で時間を確認している。
逆にいつもすれ違うイツメンに変な不安を与えてしまう可能性があるので、絶対に遅刻はできない。
これが最大の理由だ。
毎朝すれ違うイツメン達の名前や年齢は分からないので、心の中であだ名をつけて、同じく心の中で挨拶している。
2軒目のコンビニの前をすれ違うのはピンクパンサー。
見た目がヤンチャな学生で、中に着ているピンクのパーカーをみせびらかすように学ランのボタンを全部開けている。
だが、歩き方にクセがあり、抜き足差し足で歩いているように見えるので、ピンクパンサー。
郵便局の前をすれ違うゾンビ姫。
キレイなドレスに身を包んだおそらくホステスさん。
だが、毎日ベロベロに酔っ払い、髪は乱れて、地を這っているんだか、歩いてんだか分からない状態なので、ゾンビ姫。
他には、年中バカでかいバックを背負っている、バックパッカー365。
毎日誰かと待ち合わせをしているハゲたサラリーマン、待ち武者などあと数人いる。
今日も誰も不安にさせずに登校できた。
ピンクパンサーとゾンビ姫が一緒にいるイレギュラーが発生したけど問題ない。
帰りは文化祭の準備でいつもりより3時間近く遅くなってしまった。しかし、帰りはみんな時間がバラバラなのでイツメンはいない。
ふと前を見るとゾンビ姫がいた。
同僚らしき女性と2人。出勤前なのか髪も乱れていなく、姫の状態で。
「今日さー、いつも朝前を歩いてるピンクのパーカーの学生がいるんだけどさー。私思いっきり大きな音立てて転んじゃったのよ。そしたらそのピンクのパーカーの学生が急いで走ってきてさー。『お姉さん大丈夫ですか?』って立たせてくれたのよ。」
「なにそれ。めっちゃ優しいじゃん。」
「そうそう。ピンクのパーカー着てるくらいだからさヤンキーかと思ってたけどめっちゃ優しかったのよ。ギャップ、ギャップ。よく見たら顔もカッコよかったし、別になんて事もなかったんだけど、『いた〜い』って言ってちょっと抱きついちゃったんだよね。」
「うわ〜。犯罪じゃん。犯罪。」
「やめてよー。不可抗力だってー。そしたらさ、いつもすれ違う別の学生がジロジロ見てくるわけ。毎朝ニヤニヤしてて気持ち悪いんだけどさ、いつも以上にニヤニヤしてんの。」
「え。なにそれ。めっちゃキモい。あんたに気があるんじゃない?」
「やめてよー。あんな、もじゃもじゃブタメガネ絶対無いから。」
〜おわり〜