#14ショートショートらしきもの「コレクション」
「おじゃましまーす。」
「おじゃまされまーす。手洗いうがいしてね。」
「わかった。先、荷物置かせて。え。」
「ソファの上置いちゃっていいよ。どうしたの?あぁこれ?」
「す、すごいね。壁一面。これ全部虫の標本?」
「そうなの。ちっちゃい時から虫が好きで、コレクションしてるんだ。彼女の趣味が標本ってひくよね。でも今日はちゃんとみてもらおうと思って。」
「いやいや。ひきはしないけど、びっくりした。珍しいね女の子で虫って。」
「そのせいで昔から友達がいなくて。女の子からは嫌われるのも分かるんだけど、男の子って虫が好きな子もいるでしょ。でも、標本にして集めてるって知ると気持ち悪がられるの。昔からの趣味だから彼氏には知っといて欲しいと思って。こういうのは早い方がいいかなって。」
「そんなに昔から集めてたの?」
「うん。最初は飼ってたカブトムシが死んじゃって悲しくて、そしたらおじいちゃんが標本の作り方教えてくれたんだ。それからお気に入りはみんなコレクションしてあるの。」
「すごい。じゃあこれ全部自分でやってるんだ。」
「そうだよ。前に剥製もやったことあるんだけど、内臓の処理とか・・・」
「うわ!こ、これも?」
「これは小学生の時に初めて部屋に出てきた、チャバネゴキブリ。これ捕まえるのすっごい大変だったんだよ!普通ならゴキブリって叩いたりして殺しちゃうでしょ。でもこれはね生きてる状態で・・・あ。ごめん。さすがにこれはひくよね。」
「ううん。大丈夫!趣味は人それぞれだし、俺だって人に理解してもらえない事だってあるから!」
「ふふ。やっぱりひいてるんじゃん。」
「いや。それは。」
「ふふふ。大丈夫よ。人に理解されないって事くらい分かってるから。私のこと知って欲しいってだけだから。そうだ!ケーキ買ったんだけどたべない?」
「ああ。うん。ケーキ好きだったっけ?」
「違うの。甘いの苦手なんだけどさ、今日誕生日だから。」
「え。誕生日、来月でしょ?おれは7月だし。」
「私じゃないよ。恵理子の。」
「エリコ?友達?」
「そう。イチゴ食べれたよね?せっかくだからロウソクも貰って来たんだよ。」
「エリコさん今から来るの?」
「ふふふ。来るわけないじゃん。」
「え?どういう事?エリコさんの誕生日祝うんでしょ?」
「あーちょっと火消えちゃうから早く座って。」
・・・・・ハッピバースデーディア恵理子〜。ハッピバースデートゥーユ〜。
「恵理子はね、私のたった1人の友達なの。」
「それは分かるんだけどなんで?」
「恵理子はね、小学生の時に唯一私の標本みてすごいって言ってくれたの。それまでどんなに仲良くおしゃべりしてても、みんな標本みると離れていったのに恵理子は違った。
それから毎日恵理子と虫捕りするようになったの。近所の子達や学校の子から、死体集めだとか陰口言われてたけど、恵理子と一緒に虫捕りしてる時間が楽しくて気にならなかった。
でもね、誕生日にさっきのチャバネゴキブリの標本を恵理子にプレゼントしたら、言ったの、気持ち悪いって。私信じられなかった。恵理子だけは分かってくれてると思ってたし、恵理子にすごいって言ってもらいたくて、恵理子のために標本つくってたのに。
気づいたら恵理子を階段から突き落としてた。打ちどころが悪かったみたいで、そのまま動かなくなっちゃって。たった1人の友達だったのに私・・・」
「そっか。そんなことがあったなんて。」
「恵理子と約束してたの。いつか動物の剥製も作ろうねって。やり方まで研究してたんだよ。初めては一緒にって言ったのに。1人じゃ大変だったんだよ。」
「つらかったんだね。それからエリコさんの誕生日に毎年、1人でお祝いするようになったの?」
「そうなの。でも1人じゃないよ。今日はこれを見て欲しかったの。1番のお気に入り。」
そう言いながら彼女は一人暮らしには不恰好な大きなクローゼットを開けた。
〜おわり〜
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