不寛容な社会ということなのか。
※本noteは、Y氏が犯罪者ではない(現時点で逮捕も起訴もされておらず、示談の成立により不起訴処分になる見込みである)ことから実名は掲載しません
先日俳優のY氏が酒に酔い、マンションの隣家に侵入し、その部屋のトイレで用を足したことにより、隣人により110番通報が行われY氏が事情聴取を受けた件が報道され、SNS等で大きく議論になっておりました。(その後Y氏は隣人と示談が成立し、起訴等の処分は行われない模様)
さらにそれを受けてY氏をC Mに起用していた大手ビール会社が彼を降板させるというニュースが報じられました。(報道翌日に早々に処分を下している事から、泥酔という所のみで対応したのでしょう。)
当該処分においてSNSなどでは、余りに不寛容なのではないか、や、飲酒による失敗を起こした人間をビール会社がイメージキャラクターとして起用し続けることは不適格である等賛否の意見が広がっております。
同じく彼をCMに起用していた大手家電等生活用品メーカーは引き続き彼をCMに起用することが報じられました。
こちらも、寛容な処分に当該メーカーを応援したいというコメントや犯罪者(?)を擁護するのかといった賛否の声が上がっております。
飲酒を言い訳にして暴力行為などの不法行為を正当化するというのは言語道断ですが、今回の件についてはSNSの普及における幾つもの問題点が含まれていることがいろんな人の違和感につながっていると感じています。(これまで起こったいわゆる炎上といったものにも繋がります)
SNS(特に短文が中心のXで顕著)では議論の論点すら明らかにならず、飲酒なのか、不法行為なのか、被害を受けたのは誰なのか、被害者と加害者の認識はどうなのか、推定無罪の原則はどこに行ったのか、社会の不寛容性なのか…等々、百者百様の意見の中でそれらがあたかも一つの問題についての話題のように話をされていることが事を複雑にしているように感じており、昔私はこんなtweet(当時はTwitterだったのであえて使いますが)を投下しております。
余りにもどストレートなアホtweetですが、まあ論点を絞って話すには余りにも短く、余りにも流れがはやく、余りにも強い表現が罷り通りやすいプラットフォームであることは確かでありましょう。
であるならば、長文を掲載できるnoteなら論点を整理しつつ僕なりの意見をまとめられるのではないかと考えましたので以下まとめてみます。(まとまらないかもしれない)
では現時点(1/15時点)で明らかになっていることを羅列してみましょう
1.Y氏は泥酔していた
2.Y氏が隣家に許可を得ずに侵入し、その上で隣家のトイレで用を足した(Y氏側の主張としては鍵やドアを壊す、第三者を装うなどの行為は行なっていない)
3.隣人は警察に110番通報しY氏は事情聴取を受け書類送検された
4.Y氏は当該マンションを退居済み
5.Y氏と隣人の間で示談が成立し、不起訴処分となる見込み
実は余りに少ないですね。
それぞれを検討してみましょう。
1.Y氏は泥酔していた
いい歳をした大人が泥酔した上で、他人に迷惑をかけるというのは言語道断です。まあこの辺に関しては弁解の余地はありませんが、実は本件の2〜5の流れにおいて泥酔していたという事情はあまり影響を与えていないと推察されます。住居侵入で「逮捕」され「起訴」されて「裁判による判決」を下されていてもおかしくなかったところ、隣家との示談が成立していることから、「寛容」な扱いを受けたとも言えなくはありませんが、泥酔していたという事情がこの扱いに影響を与えたのかは検討の余地はあります。
2.Y氏が隣家に許可を得ずに侵入した、その上で隣家のトイレで用を足した(Y氏側の主張としては鍵やドアを壊す、第三者を装うなどの行為は行なっていない)
こちらについては明らかな住居侵入です。隣家が施錠していようとしていまいと隣家の権益を侵した事実は覆らないことから、こちらも弁解の余地はなさそうです。器物損壊や詐欺に問われていないことからY氏側の主張についても一定の信憑性はありそうです。
3.隣人は警察に110番通報しY氏は事情聴取を受け書類送検された
これは隣人の正当な行為だと言えます。家に見知らぬ(面識はなかったと報道されている)人間がいたらビビるでしょう。110番通報されて当然です。その後その事実がある中で警察から事情聴取されることは何らおかしくありませんし、住居侵入が明らかであれば現場を調査の上書類送検されて然るべきでしょう。むしろ現行犯で逮捕されてもおかしくなかった所で事情聴取と書類送検で済んでいるので、Y氏が抵抗せず隣人も極めて冷静に対処したような印象を受けます。
4.Y氏は当該マンションを退居済み
隣人にとって家に見知らぬ人間(実は隣の住人であった)が侵入してきたというのは軽くトラウマになる体験であったでしょう。Y氏が退居したということは、隣人にとってトラウマとなった相手が自らの生活圏から排除された。その事実はその後の示談成立の一つの要素といえます。引越については次の住居の探索やかなりの経済的負担が発生することから、簡単なことではありませんが、かなり素早く対処した印象を受けます。この辺りもY氏側の誠実な対処と言え、示談が成立した要因のひとつとなったと想像できます。
5.Y氏と隣人の間で示談が成立し、不起訴処分となる見込み
1/15時点の報道ではY氏と隣人の間で示談が成立し、Y氏のコメントとして深い反省が綴られた文書が各種メディアで報道されています。住居侵入という不法行為を行ったものの、一連のY氏側の誠実な対応(それなりの慰謝料という誠意もあったのでしょう)と隣人側の冷静な対応の結果このような結果に落ち着いたのだと思われます。
以上のことから、私が得られる情報を検討した結果
・Y氏は泥酔した上で隣家に住居侵入し、通報され、警察に事情聴取を受け書類送検された。
・Y氏の誠実な対応と隣人の冷静な対応の上で示談が成立した。
・隣人との示談が成立したことから不起訴処分となる見込み。
という状況であると「推察」されます。あくまでも第三者である私がメディア等で得られる情報の中での「推察」です。
ここで、本件に対する世間(というとあまりにも漠として尚且つ面白いテーマですがここでは割愛)の反応としては、
・テレビへの出演自粛
・主演映画の公開延期
・大手ビール会社のCM出演取りやめ、契約解除
・大手家電等生活用品メーカーのCMの継続起用
と言ったものがあります。
また、一連の報道や世間の反応を受けSNS等で流れているいくつかの言説について検討してみたいと思います。全ては取り上げられませんので、僕が気になったいくつかをピックアップしています。(Y氏の実名が出ている投稿も多いため要約し、引用は行いません。)
①失態を行った人間を公の場に出し続けるべきではない。
②ビール会社の足切りが早すぎる、ポリシーを感じない。
③ビール会社は酒での失態を行った人間を起用し続けるべきではない。(他の会社はケースバイケース)
① 失態を行った人間を公の場に出し続けるべきではない。
これについては、まず失態というか犯罪者扱いしているポストも散見されましたが、Y氏は逮捕もされてなければ起訴もされていないんですよね。日本では逮捕=犯罪者とされがちですが、逮捕時点では被疑者/容疑者、起訴されたら被告人であり、罪状は確定していない。この状態においては犯罪者ではないのですよね。逮捕も起訴もされてないY氏においてはいわんや、です。「犯罪行為を行ったのだから犯罪者だ」という言説もある事は認識していますが、それを言い出すと点滅してる青信号を走って渡っても、横断禁止の道路を車がいないからとちゃっと横切っても犯罪者になりますし、日常生活では裁判で刑が確定したことを持って犯罪者とする方が合理的に思えます。
罪を犯す事がそもそもダメだ。とまでなると、それはもう生まれながらに原罪を負っているので祈るか、生きている以上罪は犯さざるを得ないので絶対他力に縋るしか方法は無くなってしまうので、その場合テレビを見るよりは教会かお寺かに行った方が救いがあるでしょう。
話が逸れましたね。この意見において一つ大きく意識されているのは「犯罪と規定される行為を行ったのに泥酔していたからといって寛容に扱われすぎだ。飲酒による不法行為を助長するのか」といった意見です。しかし、先に私が検討した1〜5において不起訴処分となったのはY氏の誠実な対応と隣人の冷静な対処の結果だと「推察」され、泥酔はあまり考慮されていないと考えられます。そして現実に被害を受けたのはメディアの中の人やその先の視聴者ではなく隣人です。隣人が示談して良いと判断するだけの誠意をY氏は示したのでしょう。示談後にY氏がコメントを発表していることから示談の条件として芸能活動を制限するようなものはなかったのでしょう。一番の関係者の判断を他者の「お気持ち」で裁くのは健全な社会とは言えないのではないでしょうか。
一方で、やはりそれなりの不法行為を行なったことは自身から認めていることから、メディアへの露出自粛や主演映画の公開延期は本人の反省と一定の社会的制裁といった意味ではあっても良いものなのかなとは思います。ただし、法理上の制裁以上のものを過剰に求めすぎると私刑の蔓延にもつながりますのでやはり疑わしきは罰せずの原則は常に頭に置いておきたいものです。
②ビール会社の足切りが早すぎる、ポリシーを感じない。
ビール会社は問題の報道がなされた翌日にスパッと足切りを行っています。刑も確定していない状態(推定無罪)で足切りを行う。確かにビール会社としてのリスクマネジメントとして一定の合理性の中で行っているのでしょう。しかし、ビール会社からこの件についてY氏が契約の何に抵触し、どういう理屈で切ったのかについて明確な説明はなされていません。契約上のことなのでベラベラと話すわけにはいかない部分もあると思いますが、一方で会社は社会の公器であるという考え方もあろうかと思います。推定無罪の原則がある中で法的な罰則以上の態度を示すことで何を守ろうとしているのか明確な説明はあっても良いのではないかとは思います。言われるようにポリシーが感じられない。疑わしきならば切るという態度を取り続けるのであれば今後ビール会社はお酒を飲まない人をCMキャラとして起用するべきじゃないのでしょうか。
今回の事件は先に検討したように(酔っていたとは言え)不当に住居侵入したことに対して被害を受けた隣人とのトラブルであり、そこについては当事者同士の示談で方がついている。確かに酔った上でのトラブルであることはY氏当人も認めておりアルコール飲料のCMに出ることが反省を示していないということで当人から自粛するというのはまだわかるけれども、契約には疑われることもあってはならないと規定されていたのでしょうか?甚だ疑問であります。
③ビール会社は酒での失態を行った人間を起用し続けるべきではない。(他の会社はケースバイケース)
日本のビール業界もWHOも適正飲酒量を推進しており、Y氏自身の出演するCMがその流れで開発した軽アルコールのビールであること、そのイメージを毀損する行為を行ったのだから切って然るべし、他の会社のCMについてはまた別のイメージ戦略もあるからケースバイケースで判断すべきではないかと言った意見ですね。概ね私もこの意見には同意すべき部分が多いと思います。起訴され判決が出た後に、適正飲酒量を守るという広告イメージを毀損したのだから切りましたと説明がなされたら理屈は通っているのかなと思います。
しかしながら今回は逮捕もされていない、起訴もされていない段階で切った上で「今回のY氏の事案はアルコール飲料メーカーとして容認できるものではない」としていました。その時点では明らかになっていることから何をどこまで推察できるのかが曖昧な上に、その後被害者とは示談が成立しました。つまり当事者同士において和解がなされて、当事者以外に詳細を知り得ない状態にある中で「アルコール会社のCM出演者は、疑われることすらあってはいけない」と宣って早々に切ったわけです。なにやら「カエサルの妻は疑われることさえあってはならない」に通ずるものがあります。ストロング系の酎ハイを売りまくってた(最近撤退)会社は言うことが違います。カエサルも元老院議員の妻の1/3を寝取ったと伝わってます。
話がまた逸れました。②と似たような構図の繰り返しになっていますが、僕の意見としては疑わしきは罰せず、の原則はやはり侵すべきではないが、Y氏がアルコールでの失敗をしたことは事実(これ自体は本人も認めている)である以上は、Y氏からの申告で当面のCM放送自粛、示談やその後の不起訴処分後、本人からの辞退という形で契約の解約という手続きが真っ当なんじゃないのかなと。その後一定の反省の後出演するかしないか、起用するかしないか、はその時々の各自の判断で良いでしょう。と言ったところですか。
大手家電等生活用品メーカーのCMの継続起用については、Y氏のこれまでの貢献やアルコール飲料会社ではないことから(これまで過剰にリスク排除してきた日本企業にしては)寛大な対処をしていると思います。ケースバイケースを割と冷徹にやってるのではないでしょうか。
まあ、正直僕としてはこれくらいでいいんじゃないかなということで
こういうポストを投下してます。
私自身「そういう飲み物」が大好きで、昔々は多少の失敗の経験もあります。泥酔した上で他人に危害を加えることなど言語道断ではありますが、自らの起こしたことに真摯に向き合い反省した人間を過剰に排除するのは社会にとってもあまり利益にならないでしょう。
ただしY氏に置かれましては過剰な飲酒が指摘されていることもあるようですので、適度な酒量でご自愛いただきたいと思います。過去のドラマの演技も素晴らしいものでしたので健康でいてほしいですね。
然るべき反省と賠償を行なった以上は、それ以上もそれ以下もないフラットな判断を行いたいものです。