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withコロナのその前に:with感染症の小史をお勉強

今年度の学習指導要領に、中学三年生の「保健体育」で、「感染症の予防(新型コロナウイルス感染症)」が新たに単元として追加されています。

ここで中学生たちは

A:感染症は,病原体が環境を通じて主体へ感染することで起こる疾病であり,
B:適切な対策を講ずることにより感染のリスクを軽減すること,また,
C:自然環境,社会環境,主体の抵抗力や栄養状態などの条件が相互に複雑に関係する中で,病原体が身体に侵入し発病すること

などを学びます。大人でもこの教科書の内容くらいは、学習すべき時勢になってきています。

さて新型コロナは現在進行形の新興感染症です。つまり感染症への対応法が正確にはわかっていません。治療方法、治療薬、ワクチンなど感染症対応のイロハについて、確たるものを私たちはまだなにも手にしてはいないのです。

しかし感染症一般に関してならば、ペストが世界的流行の第二波をもたらした14世紀以降さまざまな工夫がとられるようになりました。特筆すべきは、イタリアで確立された公衆衛生のための組織作りです。北部イタリアの大都市では公衆衛生局が設立され、15、16世紀に小さな都市や村にまで衛生部が設立され、中央衛生局の厳しい管理にしたがうようになりました。その後、公衆衛生局が非常時だけでなく、平時においても強い権限で食料、ワインや水の売買、下水道、病院、乞食と売春婦、共同墓地、医者、宿屋など、広く市民生活全般に対し管理を強化していった様子を描いているのが、カルロ・チポラの『ペストと都市国家』です。

「感染症」のうち、「感染」とその阻止に特化した防御組織とその構想が「公衆衛生」です。

19世紀になると「公衆衛生」の発想にサイエンスが取り入れられます。統計学と地図上への感染症例の配置を分析道具にした「疫学」が誕生したのです。「疫学」は感染症が広がる原因、理由、メカニズムを明らかにしますが、「疫学の父」と言われるのがジョン・スノーという医師です。

彼は1849年のコレラの流行に対応して1850年5月に結成されたロンドン疫学会(英語版)の創設メンバーとなり、調査に乗り出しました。その調査結果は最初あまり見向きもされなかったのですが、二度目のコレラ流行時、自身が確立した調査モデルでひとつの井戸が経口感染の大本だと突き止め、当該地区の委員会に乗り込み説得、井戸封鎖を実現、感染症防御に成功しました。
・スノーのマッピング
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/image/ecologicalstudy2.gif
(Ecological Study | 大阪大学腎臓内科 http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/clinicaljournalclub5.html

スノーの活躍をかなり詳細に紹介しているのは、『感染症 増補版-広がり方と防ぎ方』です。「第二章清潔化の歴史、第一節産業革命と水洗トイレ」の中にその記述があります。

他方、「感染症」のうち、「症」に深いメスを入れらるようになったのはこれも近代、自然科学の発達があってからのことになります。ロベルト・コッホは1883年コレラ菌を発見。さらに感染症の病原体を証明するための基本指針となるコッホの原則を提唱し、「近代細菌学の開祖」と言われています。

冒頭、中学三年生の「保健体育」に触れました。そういえば、上述スノーの業績を下敷きに、スリル満点の児童文学に仕上げたものがあります。『ブロード街の12日間』です。版元の紹介文には「「青い恐怖」と恐れられたコレラの真実に迫る「医学探偵」ジョン・スノウ博士。その助手を務める少年の視点から描かれた、友情、淡い初恋、悪党との対決もちりばめられたスリル満点の物語」とあります。

ちなみにこの本は2015年の「青少年読書感想文全国コンクール」、中学部門の課題図書にも選定されています。このあたりから始めるのもいいかもしれません。

※この記事はブログからの一部抜出し(「with感染症の小史」)に加筆したものです。興味を持っていただけたら、ぜひブログの方ものぞいてみてください。

■ヒトが病原体を「感染症」の犯人にした | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8908

目 次
中学三年生の「保健」と感染症生態学

ヒトが病原体を「感染症」の犯人にした

withコロナはwithクルマの相似形

with感染症の小史

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