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『仕事』が『生き方』に影響し、『生き方』が『働き方』に影響する。

 投資を始めたり、副業でオンラインブックストア(売上0)を開設したりしているのですが、私の本業は乳腺外科医です。

 国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計によると、日本人女性の9人に1人が生涯のうちに乳癌にかかるといわれています(2017年のデータに基づく)。

 診療をしていると、30代、40代、数は多くないものの20代女性でも、悪性腫瘍の診断となる症例を経験します。年齢で命の大切さが変化するものではありませんが、若い女性の場合には小さなお子さんがいらっしゃるケースが少なくありません。

 手術によって根治が望める症例であればよいのですが、中には転移などの存在によって根治が望めない症例も存在します。その場合には、薬物療法などによって、いかに病気の進行を遅らせるかが中心となります。

 乳房の悪性腫瘍ではStage0~Ⅳまで存在します。0は、基本的にはリンパ節や他の臓器に転移を起こさないので、病変がしっかりとれれば転移・再発リスクが限りなく低くなるものです。一方、Ⅳというのは、手術でとりきれないところにまで病変が転移しており、根治が望めないものです。

 数字が小さければ小さいほど、一般的にその後に期待される生存期間が長くなり、転移・再発リスクも低くなるのですが、『悪性』という言葉のもつインパクトは決して小さなものではありません。

 StageⅣはいうまでもありませんが、数字に関わらず、告知する際には、説明する側もかなりのストレスを経験します。

 中には、診断の際にショックを受けられ、そのまま医療機関の受診をストップされて民間療法を選ばれる方もいらっしゃいます。

 それで病気が治ればよいのですが、手術のタイミングを逃し、全身に転移が広がってから再度医療機関に戻って来られる方がいらっしゃいます。

 医療従事者はもちろん、製薬会社も悪性疾患の根絶には力を入れています。私達乳腺外科医も、治療効果が望める選択肢であれば、飛びつきたい気持ちでいっぱいです。それほど医療の限界をつきつけられる症例を日々経験しています。医療業界が気づいていない治療方法が『絶対ない』とはいいきれませんが、それなりの効果が知られているなら、医療機関や製薬会社はとびつくはずです。治療効果があるものであれば、大きな経済効果が期待されないはずがありません。それが医療業界で一般的でないばかりか、話題になっていないというのは、治療効果が望みにくいことを意味していると考えてよいと思います。

 「悪性」と聞いてショックを受けないはずがありません。私はいつも説明の際に、「ショックを受けない」というのは難しいけど、「悩んでも誰も得しないことはなるべく悩まないようにしましょう」とお話しています。

 検診で初めて診断がつくケース。
 しこりに気付いて受診されるケース。

 受診のきっかけは様々ですが、受診・検査をしていなければ「今も食事が普通に食べられて、特に痛みなどの症状もなくこれまで通り日常生活を送れていた」はずです。

 それが、診断をきっかけに、食事も喉を通らなくなり、日常生活が楽しくなくなってしまうと本末転倒です。

 治療が行える病態であればしっかり治療を行う。
 仮に治療が難しく、辛い症状を軽減する(いわゆる緩和)時期になっても、出来るだけ辛い症状を軽減することで、今ある時間を有意義に過ごす。

 「100年健康に生きて振り返って際に、ただ漫然と過ごしてしまった人生」もあれば、「残り時間が限られていたからこそ、中身がつまった濃縮した時間を過ごせた人生」というものも存在すると思います。

 医師になって以降、時間を共にしてきた患者さんの命・生き方を通し、私は上記のような考え方をするようになりました。

 私は「患者さんのことを想う」というよりも「自分がその方の立場だったら」をつい考えてしまいます。

 自分が悪性疾患と診断された際に、どのような説明が最も納得できるのか。
 相手によって説明の仕方を変えるのがいいのかもしれませんが、私の場合は、上記のような説明を、どの方にも同じようにしています。

 実際に自分が告知された際に、「これまでの自分の考え方が変わらないのか」、それとも「これまでの自分の考え方も空しく、大きくうろたえ、取り乱すのか。私がこれまで行ってきた説明や話は、診断をつきつけられた時の私が納得・受容できるものなのか。」

 常に、今の説明がベストなのか、もっとよい説明の仕方がないのかを考えずにはいられません。

 また、「自分がその方の立場だったら」という考えから基本的には24時間365日、オンコール体制をとっています。

 これは上司や病院に強制されたものではなく、ただの自己満足です。

 化学療法による合併症、手術による合併症、末期状態での急変

 同じ説明であっても、今まであったこともない当直医に説明を受けるより、主治医からの説明であった方が安心するのではないでしょうか。

 そう思い、基本的には24時間、365日オンコール体制は初期研修医の頃から継続して変えていません。

 初期研修医の頃から変えていないというより、まずは初期対応をしなければならない研修医の頃の習慣に加え、その後に芽生えてきた主治医としての自覚や医師としての誇りが、私のこだわりとなっているのかもしれません。

 乳腺外科医になってから、今まで以上に「時間の有限性・大切さ」を認識するようになりました。仕事があるため、totalの時間自体は遠く及びませんが、学生時代以上に空いた時間を有効活用して読書・勉強するようになっています。

 また、いつ体調を崩すか分からないという危機感から、投資や副業をはじめました(今のところ成果は乏しいですが)。

 仕事とプライベートは、はっきりと区別すべきという意見も多いのは重々承知しています。しかしながら、医師を続けていく以上、私の中でその境界の曖昧性が変わることはないし、それが良くも悪くも私だと考えるようになった今日この頃です。

 

 

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