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[本・レビュー] 世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦

『タラブックス』という、南インドの出版社をご存知でしょうか。


その名が世界に知れ渡ったのは『夜の木』とよばれるハンドメイドの絵本でした。


絵本の特集では必ずとりあげられる『夜の木』(タムラ堂2012年)。


その他にも、日本で出版されているものとしては『はらぺこライオン』(アートン2005年)、『世界のはじまり』(タムラ堂2015年)、『マンゴーとバナナ』(アートン2006年)、『水の生きもの』(河出書房新書2013年)、『太陽と月』(タムラ堂2017年)などが挙げられますが、いずれも素敵な本ばかりです。


本書は2017年11月25日から2018年1月8日まで板橋区立美術館、2018年4月21日から6月3日まで刈谷市美術館で巡回開催された展覧会「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」に伴って出版されたそうです。


本書では、タラブックスの書籍の一部が、その本の数ページの写真、本の内容や作家、制作までの経緯などと共に紹介されています。


ときおりタラブックスの本社や、民芸芸術家の暮らす村の写真がはさまれていますが、これもまた非常に美しく、とても素敵です。


本書の初めに掲載されている、タラブックスのギータ・ウォルフさんとV・ギータさんによるタラブックスの紹介文をそのまま掲載させていただきます。


"タラブックスは、インド南部のチェンナイを拠点とする作家、画家、デザイナーの集団です。子どもや大人向けに、ハンドメイド本やビジュアルブックを中心に出版してきました。ジャンルは多岐にわたり、これまで児童文学、写真、グラフィックノベル、美術、美術史、美術教育などを扱ってきました。インド土着の人々や各地の部族に伝わる技術を取り上げたのは他に類をみない試みで、私たちはこうした民族画家たちの作品を初めて本にしたパイオニアです。
 タラブックスは、本の内容やデザインはもちろん、印刷して製本するまで、一貫して職人的な本づくりに徹しています。世界的にも知られている、手漉きの紙にシルクスクリーン印刷し手製本するハンドメイド本だけではなく、環境に配慮したリソグラフ印刷や活版印刷なども採り入れています。デジタル隆盛の時代、タラブックスのハンドメイド本は、紙の本に再び人々の関心を向けさせることになりました。
 本づくりに際しては現代的なデザインによって、テキストと絵の最適な組み合わせを心掛けています。デザインは本の意味と一体を成すために、デザイナーは作家やイラストレーターと等しく、本の作者のひとりだと位置づけています。また、本のかたちには無限の可能性があると考え、世界中のさまざまな書物のかたちから学び続けています。
 タラブックスは、自らの文化や歴史に根を下ろしながら、文化を越えた創造的な共同作業にも価値を認めています。自分と違う人々との対話こそが、他者と共感できるチャンスだと考えています。こうした価値観から、すでに3人の日本人作家との共同作業も実現しているのです。"


資本主義にそまらず、新たな本の可能性を創造しつづけているのがタラブックスです。


本書の最期に、タラブックスの創業者であるギータ・ウォルフさんとV・ギータさんのロングインタビューが掲載されているのですが、こちらも秀逸です。


お二人は、ただ本を売るというだけでなく、インドの民族芸術の素晴らしさを広めると同時に、新たな価値観や理解をもたらすべく挑戦を続けられていることが理解できます。


『夜の木』をはじめ、今ではタラブックスの作品は世界的に有名になり、通常、商業ベースで考えれば単価をあげるなり、質を落として大量生産するなりといった戦略をとられてもおかしくありません。


しかしながら、タラブックスは、素晴らしい本を質を落とすことなくお手頃価格で供給しつづけるところに重きをおいています。そして売上を上げるために作家をせかしたり、納期を急いだりすることもありません。


V・ギータさんはインタビューの中で、納得できる仕事しかせず、仕事をする上で「これをやりたいのか、これはいいことなのか」を自ら問いかけながら決定されるとおっしゃられています。


タラブックスの素晴らしい作品の紹介本、インテリアともなりうる美しいビジュアル本、新しいビジネスモデルに挑戦しつづける経営者についての本、いずれの観点からも素晴らしい本だと思います。

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