同窓会の夜 1
稲田さんと再会したのは、21歳の夏のことだった。大学を4年で卒業するのがほとんど無理だろうということはその時にはもうわかりきっていたけれど、両親にどうやってきりだせばいいかわからず、とりあえず確定するまで寝かせておこうと思っていた頃だ。
稲田さんから同窓会の連絡があって、ピンとタイラも誘ってみたけれど、ピンは帰省していなくて、タイラは仕事。仕方なく一人で参加することにした。
思案橋の飲み屋街は初めてだった。一時間くらいバスに揺られて着いた街は夜。昼間しか通りがかったことが無かったから、きらびやかな光と活気に驚いた。
座敷に集まっていたのは、20人くらい。みんな大人になったような気もするし、服装や髪型が変わっただけのような気もする。稲田さんがこっちこっちと手招きで僕を呼んだ。整ったきれいな顔は相変わらずだったけど、日焼けして男の子みたいだった感じはすっかり消えて、街ですれ違っても気づけるか自信が無いくらいだ。
稲田さんは僕やピンとは別の、私立の進学校に進んだ。長崎大学の医学部に進んだことは知ってはいたけれど、実際に会うのは中学を卒業して以来初めてだった。
テーブルの上には食べ散らかした枝豆、唐揚げ、チヂミに、サラダ。それぞれワイワイ盛り上がっていて、全然話が聞き取れない。
「久しぶりだね。」
左隣の稲田さんがこちらを向いて大きな声で言った。僕はあぐらをかいたまま左手をついて、耳を寄せた。大学一年の秋に初めての彼女ができて、女性に対して、というよりモテに対してのコンプレックスみたいなものは随分和らいだ。いわゆる非童貞の余裕みたいな。バカみたいな矮小なコンプレックスだと今では思うけれど、その頃の僕にとっては何より大きな越えるべき壁だった。
SNSやメールで少しやり取りしていたこともあって、会話にそれほど困ることは無かった。というかお互い今何をしているのか知らなすぎて、その話題だけで充分だ。
生ビールで乾杯をして、手元のつまみを適当につまんで、なんとなく周囲の空気をうかがう。人数は多いけれど、部活ごととか、クラスごととか、中学の頃のグループでなんとなく固まって盛り上がっているようだ。
ねえねえ、と稲田さんが時々肩を叩いてこちらを呼ぶ。耳を傾けると、顔を寄せて耳元で稲田さんが話す。冗談を言うと大げさに僕の肩を叩いて笑う。中学の頃ならドキドキして顔を真っ赤にしていたかもしれないけれど、なんとなく受け流せることができているのがまた僕の自信になる。
クラスの友達に別の席に呼ばれたりしてワイワイやっているうちに、一次会はお開きになった。二次会はカラオケへ。なんとなく女の子たちも行くような雰囲気だったから、下心満載の僕も当然、一緒についていくことにした。
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