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同窓会の夜 2

二次会のカラオケには結局一次会にいたほとんどが行くことになったらしく、パーティールームはもうめちゃくちゃだった。

部屋は人数の割にちょっと小さくて、中学の頃から目立っていた連中がソファの上で飛んだり跳ねたりはしゃぐもんだから、ちょっと上品な子たちは廊下に避難して、その辺に座って喋っている。誰の何の飲み物かも全然わからない感じだったけれど、まあいいやとその辺にあったグラスの飲み物を飲んだら、カルピスとコーラが混ざった味がした。

「音楽好きだよね、なんか歌ってよ」

派手な連中としばらく盛り上がっていた稲田さんが横にやってきて、分厚い本を開いた。今はもうなくなってしまった、選べる曲がのっている本。

盛り上がりは最高潮で、僕たちはすみの丸椅子をテーブルにして、膝をついて曲を選んだ。丸椅子の上の顔が近い。どうしようかな、なんて言いながら僕はもうほとんど上の空で、稲田さんの髪の毛の香りにもうクラクラしてしまいそうだった。

子供だったな。そんなことを考えた。中学生の頃はやっぱり女の子たちの方が大人びていて、男で付き合ったりなんだり、色恋の話ができるのは一部の限られた奴らだけだった。女の子たちは女の子たちで子供っぽい僕みたいなのには興味も無かっただろうし、僕みたいな連中は彼氏彼女に憧れながらも、心の奥ではそんな資格は無いよなと、最初からあきらめていたような気もする。

21歳になった僕たちはあの頃よりはいくらか対等になった。体や心はもちろんだけど、女の子たちは無意識ながら、今だけじゃなくその先の暮らしのことも考えているようにも見えた。

ふざけた誰かがソファの上でマイクを掲げて、ひどいハウリングで部屋が震えた。

ひゃっ、と稲田さんが肩をすくめて、分厚い本の下で僕の指を握った。口実だったのかもしれないし、たまたまなのかもしれないし、そのどちらでもあるのかもしれない。ウソだろと思いながらも僕も指を握り返して、それでも、もうしばらく一緒に曲を選ぶ茶番は続いた。

しびれを切らして僕が目線を上げると、稲田さんもこっちを見た。いくら臆病な僕でもわかる。これはもう、完全に合図だ。

それでも茶番はまだもう少し必要で、暑いよねこの部屋なんて言って部屋を出て、しばらく廊下に並んで腰掛けて、当たり障りのない話をする。しばらくしたら「ガム食べたいね」なんて僕が言って、「いいね。」って稲田さんが答える。初めから結末は決まっている出来レースだけど、それが何よりも楽しい。そんな夜が人生の中でいくつかあれば、それだけで一生幸せに生きていけるのかもしれない。

そうして僕たちは立ち上がって、手を繋いでカラオケボックスを飛び出した。

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