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コロナ禍における園内行事の見直し方

どうもしろやぎ保育書房です

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 今日は、『コロナ禍における、園内行事の見直し方』とテーマで話をしていきたいと思います。

動画解説はコチラから

 現在の「保育」「幼児教育」の現場は、大きな、大きな変化の時期にきています。
 2018年に3法令の改定が行われ、改めて私たちの保育を見直すことになりました。
 この見直しの大きなポイントの一つが、「子どもの主体性」と言えます。
 そして、この「子どもの主体性」を大切にした保育を行う上で、今までやってきた「保護者に見せるための行事」に疑問を抱く保育者が多くなっています。
 そして、そんな中、私たちを襲ったのは新型コロナウイルスの脅威です。
 このコロナ禍の中で、3密を避けよう。ソーシャルディスタンスをとろう。という新しい行動様式が示されました。
そしてこれは、保育現場において、今まで通りの行事を行えない。という状況を生み出したのです。
運動会や生活発表会で、親に集まってもらうことはできない。
 遠足、地域交流も多くの制限がかかるようになりました。
 こんな状況の中で、毎年行っていた行事を中止したり、延期したりする園も多かったと思います。
 しかし、こんな緊急事態においても「それでも子どもたちに、何かできる事をしてあげたい!」
 こんな思いを持った先生方を中心に、今までの園内行事の在り方が見直されています。
そして、ビデオ撮影、リモート配信、小さなグループでの実施などなど。
行事の在り方を大幅に変更して、工夫を凝らして実施しているところが出てきました。
この変更の中心には「子どもたちの為に、子どもたち中心の行事を」という保育者の思いがあふれています。
今回の参考文献は、コロナの流行前から取材が始められました。
しかし、その後のコロナ禍によって、取材や編集が大幅に遅れ、今年2021年3月にようやく発売となりました。
発売は遅れたものの、このコロナ禍における各園の取り組み、コロナ禍における見直しのアイディア等を盛り込んで、より、今現在の保育現場で求められている本となっています。
 この参考文献とともに、今のこの時代における園内行事の見直し方を、みなさんと一緒に考えていけたらうれしいです。

今日の参考文献はコチラ、

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『園行事を「子ども主体」に変える!  11か園のリアルな実践記録』
大豆生田 啓友 編著 になります。

それでは今日もよろしくお願いしまーす!


①今求められる保育の質とは

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 「保育の質の向上」という話は最近よく聞かれます。
しかし、その保育の質というのは、いったいどういうものでしょうか。
 OECD2006では、このように様々な保育の質が提示されています。

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 さらに、2018年~2020年にかけて、厚生労働省の「保育所などにおける保育の質の確保・向上に関する検討会」では、こうした保育の質とは何か、保育の質の確保や向上に向けた取り組みの在り方について、議論されました。

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 座長は東京大学名誉教授の汐見稔幸さん、著者の大豆生田さんもこの検討会のメンバーですね。
 この議論では、「子どもにとってどうか」という視点が、保育の質を考えるうえでの基盤である、と挙げられました。
子どもを中心に、子どもの視点から保育を考える。
つまり保育は、「子ども主体」であることが欠かせない。ということです。

さて、この「子ども主体の保育」とはどういうものでしょうか。先ほどの「保育の質の検討会」の中では、3つのキーワードが挙げられました。
順番に見ていきましょう。一つ目は「遊びの重視」です。
子どもは好きな遊びを通して環境に関わり、自分の世界を広げます。
やってみたいという気持ちを支える事が、こども主体の保育の出発点です。
二つ目は「一人ひとりに応じた関わりや配慮
子どもは一人ひとり異なります。わがまま、乱暴、消極的など。様々な姿の中にその子の思い、つまり主体が隠されています。その思いに即した関わりが求められ、また、そのベースに保育者とのアタッチメントが必要です。
三つめは「子ども相互の育ち合い
集団生活の中で、子ども達は保育者に加え、友達の姿を通して、真似したり刺激を受けたりして自分の世界を広げます。友達がやっていることを見て、自分もやってみようと思える。これが相互性を通した主体性です。
 以上、この3つが、子ども主体の保育で意識するべきポイントになるようです。

では、実際の保育現場において、どのように子ども主体の保育というものを行っていけばいいのでしょうか。
本書で示されているのは、「子ども理解」と「職員が語り合う風土」です。
すでにお話したように、子ども主体の保育とは、子どもにとってどうか、というところが出発点です。
そのためには、子どもの姿から、いま子どもはどんな気持なのか。子どもは何に興味を持ち、何を感じているか。これを読み取ることが必要です。
そして、そんな子ども理解の助けになるのは、毎日の保育の記録やエピソード記述です。
一人、もしくは少人数の遊びや興味にフォーカスして記録する「ドキュメンテーション」も非常に有効です。
そして今日のこどもの姿から、明日の計画を立てていく。このような子どもの姿がベースにある保育サイクルが大切になってくるということです。

また、子ども主体の保育を行っていくうえで「職員が語り合う風土」の形成も大事です。
子ども主体の保育を作っていくためには、職員間の語り合い、学び合いが不可欠だということです。
若手の保育者も、中堅もベテランも、みんながワクワクしながら子どもの姿を話す。そんな園では、「今度の運動会はこんなことがしてみたい」という風に、それぞれが自由に自分の意見を言うことができます。こういう話ができると、子どもの主体性が、ぐっと支えやすくなるんですね。
逆に、子どもにさせるべきルールが多かったり、上下関係が強かったりすると、自由に話し合うことが出来ず、子ども主体の保育が実現しにくくなるんですね。

また、保護者との関係性づくりにも「語り合い」が必要です。
保護者へのサービスが第一になると、見せるための行事、保護者が喜ぶ行事を行ってしまいがちになります。
それは子ども中心ではなく、練習の度に子供を叱るような園も出てきてしまいます。これは子どもにとっても、保育者にとっても幸せなことではありません。
保護者が求めているものの理解も必要かもしれません。しかしそれでも、子どもの興味関心が活かされた保育を行い、それを見える形で発信することで、保護者も理解を示してくれるようになるようです。
 ここでも「ドキュメンテーション」が有効ですね。普段の遊び、子どもたちの興味関心を写真とともにエピソードで示す。エピソードなので保護者とも対話がしやすいです。子ども主体の保育について理解を得る事につながりやすいのではないかと思います。

 また、本書では触れられていませんでしたが、私シロヤギは、子どもたちとの対話も「子ども主体の保育」には不可欠ではないかと考えます。
 自分の意見を言う。対立する意見を聞く。自分たちで考える。自分たちで決める。決めたことを行動に移す。
 こういった一連のプロセスの中で、子ども達の主体性は支えられ、また育ちます。自分で考え、決断し、行動する力を伸ばしていく。対話から育つ力というのは計り知れないものがあると感じています。

②園内行事とは何か

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 まずは、そもそも行事とは何か、というところから見ていきましょう。
行事には大きく分けて4つに分類が可能です。
その4つとは「園行事」「伝承行事」「社会的行事」「宗教行事」の4つです。
「園行事」とは、園で行う行事の総称で入園式、卒園式、誕生会、運動会、また造形展などがあげられます。
「伝承行事」とは、国やその地域で受け継がれてきたもの、正月、節分、ひなまつり、地方のお祭り等です。
そして「社会的行事」とは、国で制定した記念日からできた行事、父の日、母の日、敬老の日、スポーツの日等。
「宗教行事」は仏教、神道、キリスト教などの宗教の行事に沿ったもの。仏教は花祭り、キリスト教ならクリスマスやイースターなどがあげられます

さてこのような様々ある園内行事ですが、行事をする意味とは、一体何でしょうか
 本書では、行事をする3つの意味について説明されています。
 第一に、子どもの成長の節目を祝う、という意味です。誕生会などはその代表ですね。
 また、毎年行われる行事において、「今年は去年に比べてこんなに成長したね」と成長を喜ぶこともできます
 第二の意味は、四季の移り変わりを実感したり、自然の恵みに感謝したりできるということです。
 行事全体が季節と結びつきやすいため、四季の変化を実感できます。また収穫祭や芋ほりなどは、季節の収穫を喜ぶ場にもなります
 行事を行う第三の意味は、自分の身近な人への感謝、自分が住んでいる地域への愛着、神仏への畏敬があげられます。父の日、母の日、高齢者との交流、地域の祭りなどがそんな機会へとつながります。
 シロヤギ的には3つの意味以外にも、少子高齢化、都市化の進む現代で、子ども達がいろんな体験できること。
 また、友達と話し合い、自分達で作っていく事を通して、子ども達の共同の学びの場が作れること。など、行事には様々な意味合いが含まれる可能性がある、ということを忘れないでおきたいと思います。

 さて、このように見てくると、自分たちが行っている行事は、「どんな行事なのか」と分類ができ、それぞれの「行事の意味」が見えてきますね。
 行事を考える際「いる、いらない」という視点だけでなく、「分類」し、「行事の意味を考える」という視点を持つことができます。それは、行事の見直しに必要な、園内行事のバランスを「整理すること」につながります。
 そして、この「行事の整理」を通し、行事が持つ良さを再確認し、反対にその課題についても見極めていくということが必要です。
たとえば、運動会は「やるべきもの」として固定行事になっている園も多いですが、もともとは明治時代に軍事訓練を目的として生まれたもの。前に倣えも、並んでの行進も、その時の名残です。
現代の民主的な社会の中で、どれほど必要なものなのか、改めて問い直すという作業は欠かすことができません。

はい。ここまでは行事の意味や意義についてみてきました。
本来の行事には、こういった意義や役割がある、ということがわかっていただけたのではないかと思います。
しかし、行事をすることが先行して、行事中心の年間計画を立ててしまう園も、少なからずあるようです。
こういった保育は「行事中心保育」と言われます。
行事ありきで年間、学期、月の計画が組み立てられていく。
行事を中心に保育の計画が立てられているので、保育者は常に行事に向けた準備のための保育を行うことになります。子どもも保育者も、常に「やらなければいけないこと」に追われ、1年があわただしく過ぎ去ってしまうということになりかねません。
そうなると、子どもが自分で遊びを選ぶ時間があまりとれなくなります。
また単に忙しい、というだけでなく、子どもに「させる」内容が決まっていることも多く、それを「こなしていく」日常になってしまいます。子どもにさせることが多いと、保育が形骸化し、保育者も子どもたちも疲れてイライラしやすくなる傾向があります。
さらに、そのさせられる内容を拒む子、させられる内容を嫌がる子は、迷惑な子になってしまいます。その子の主体性なんて、ないがしろにされてしまう、という状況が起きてしまいかねません。
これでは、子どもの側から考える保育、子ども主体の保育とは言えませんね。
 年間の行事スケジュールを立てる事で、年間の見通しが立ち、保護者も予定が立てやすい、という事情は当然あると思います。しかし、大人が行事を中心にすべての計画を決めてしまう。という園では、子ども主体の保育は難しくなります。
大事なのは、今まで当たり前に行ってきた行事を見直すこと。
そして、行事の意味がどれほどあったとしても、子ども主体の保育と言えないものは、思い切って辞めようとか、形を変えて見よう、とか考えていくこと。
そして、年間の行事のバランスを調整していくこと。
このようなことが求められているのだと思います。 

ええ、しかし、ここに保育者の理想と現実が、突き付けられます。
 現実の一つは、保護者のニーズです。
 多くの園で、行事中心の保育に課題を感じながらも、なかなか変えられない。
そんな理由のひとつに、行事中心の保育を保護者が求めているから、という実情があります。
 発表会で大人顔負けの劇、鼓笛隊やマーチングバンドなどでの一糸乱れぬ演奏、こういった子どもの姿に感動し、また涙を流して喜ぶ保護者の方もいます。
 そして、園を選ぶときの基準として、こういった行事があることが理由になっている場合もあるようです。
 それでもなお、見直す、というのであれば、それなりの説得力のある説明が必要になってきます。
 現実の二つ目は、管理職やベテランの葛藤です。
 若手の保育者は養成校で子ども主体の保育を学んできているので、「行事中心保育」に疑問を抱くことが多いです。
しかし、ベテランは外部研修で「こども主体の保育」について聞く機会もあるのですが、
それまで自分がしてきた保育や、力を入れてきた行事を否定されているように感じたり、
変化することに負担を感じたりして、保守的になってしまう、といったことが起こります。
 園の保育はチームで行う事が基本。誰か一部の保育者だけが「行事中心保育を見直そう!」と言っても、全員が一丸となって変化していこう!という方向には、はなかなか進みません。
 このため、保守的になってしまいがちな保育者の感情を理解しながら、対話を重ねることが必要です。
 ここで大事なのが、「語り合える風土」ですね。
普段からベテランとか若手とか関係なく話し合える職場づくりが、行事の見直し、変革の肝となります。

 はい、以上が、「子ども主体の保育」の理想と現実でした。
振り返ってみると、昭和の時代は戦後の学校教育を参考に、受験戦争を勝ち抜いて成功を目指すような集団画一的な保育が一般化しました。しかし、時代は平成を終え、令和に移りました。
これからの保育は、「主体的で対話的で深い学び」が大切だといわれています。
これこそが、今求められている、21世紀型の保育モデルです。
しかし、この主体的な保育へ転換するときの「大きなネック」となっているのが「行事中心の保育」です。
「画一的な保育」から「子ども主体の保育」へ。
「行事中心の保育」から「子どもたちが主役の保育」へ。
時代は今、まさにこの時に「保育の見直し」を求めています。
そして、この見直しをするときに大事なのは「誰のための行事なのか?」という視点です。
「子どもにとってどうか」の視点から、行事の見直しを進めたいですね。
ええ。その為には、園内研修を通して保育者同士の同僚性を高め、語り合いの風土を作ること。
 保護者の理解を得るために、ドキュメンテーションや対話を通して、普段の子どもの姿を発信すること。
 こんなことが役に立ちます。
 ぜひともこんなことを参考にしていただきながら、行事の見直しを進めていっていただければ、と思います。

さて、ここまで園内行事の見直し方についてみてきました
だけど、見直しだ。対話だ。とは言われても、実際のところ、どうやって、何から始めていったらいいのかわかりません。そんな方もいらっしゃると思います。
そんな方々は、まず他園の実践例を参考にしてみるのはいかがでしょうか。
モデル園等を見学させてもらい、自分達ができることは何かを考え始める。こんなところから園内行事の見直しが進むんじゃないかと思うんですね。
しかしそれでも「そんな時間ないよ」「今のコロナの時期には、ちょっと難しいんじゃない?」という方に、
 安心してください。ここからは、本書に掲載されている、園行事の見直しや実践例を紹介したいと思います。

③園内行事の改革実践例1

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まずは運動会。富山県の幼保連携型認定こども園、石動青葉保育園の事例です。
こちらの保育園では、以前「鼓笛隊」を行っていました。
 地域から衣装や楽器の寄贈を受けて始まり、運動会でも当たり前にやっていました。
保育者も、保護者も、地域の方々も、鼓笛隊を見た人は「感動した」と喜んでいました。
しかし、5歳児でも鼓笛隊をするのには、かなりの量の練習が必要です。
隊形を組み、歩きながらリズムをとる。小学校以降でならすんなりできることですが、これを幼児期に訓練し、達成することが、本当に保育と言えるのか?
毎年伝統的にやっているからと言って、毎年すべての子どもたちに練習させることが果たして、本当に子どもの為なのか?
それよりも、もっと子どもたちの生き生きとした姿を見てもらおう!そう言って運動会の改革を考えたのが2010年の事でした。
キーワードは「子どもを頑張らせるのではなく、子どもが楽しみながら頑張ってしまう運動会」です。
1つ目の見どころは、5歳児による「Letsチャレンジ」
これは、子どもたちが一人ひとり、自分で目標を立て、その目標に向かって、挑戦してきた技を見てもらう演目です。鉄棒の回り方や回数、竹馬やフラフープ。何をするのか、そして、それをいつ練習するのかも自分たちで考えて決めていきます。自分と向き合って、自分の挑戦したいことに取り組む。本番では、それまでの挑戦の結果を見てもらう、といった演目です。
2つめの見どころは「応援合戦」
子ども達の運動会への意気込みが盛り上がって始まったという応援合戦。紅組、白組が決まるとすぐに「応援グッズ」作りが始まります。勝負に勝つには何が必要か。どんな旗を振るのか。どうやって旗を作るのか。衣装はどうする。ハチマキはいるのか。応援の言葉もみんながアイディアを出し合い、話し合って決めていきます。リズムをとる太鼓は、みんなをリードする大切な役目。立候補した子どもたちが自主練習を重ねたうえで、みんなで話し合って「誰が太鼓をたたくのが、一番いいのか」話し合います。
3つ目の見どころは、子どもの心が動くことを大切にした「演目選び」
出来栄えや演出に力を入れすぎると「子どもの心」が後回しになりがちです。普段の遊びにはない体験、行事だからこそできる経験、それは成長につながるものであってほしい。
だから、演技を練習して披露するのではなく、運動を楽しめるような演目を選びました。かけっこ、リレー、綱引き。子どもたちが十分に楽しんでいる様子が見てもらえる演目が並びます。

著者の大豆生田さんは「鼓笛隊を辞める決断は、とても勇気のいることで、困難もあったかと思います」とコメントしています。確かに毎年行っていた鼓笛隊、しかも寄贈された楽器や衣装があるならなおさら、辞める、というのは難しい決断だったと思います。しかし、本当に子ども自身の心と体が躍動する運動会への転換は、子どもにとってはもちろん。保護者や保育者にとっても、望ましい決断だったといえます。
 何かを変えようとするとき、今までのやり方にどんな「課題」があったのか。変える事が子どもの成長や発達になぜ必要なのか。これを丁寧に保護者に説明する必要があります。
 保護者側からも疑問や反対の意見があれば出してもらう。
そして、その意見の中に妥当性があればしっかりと検討していく姿勢も必要です。
この、石動青葉保育園における行事の見直しでは、保育園と保護者の対話の積み重ねが肝でした。
そしてさらに、この対話の奥底には、石動青葉保育園の「子どものプラスになること以外はしない」という信念が貫かれました。結果、行事の変革を起こすことにつながっていった、ということです。
 もちろん鼓笛隊を辞めた時は「残念」という声もきかれたそうです。「かわいい衣装を写真に撮りたかった」という思いの保護者もいたそうです。ここで、保護者の意見に合わせクレームを避けるのではなく、「子どもの成長にとっては何が大切か」これを保護者とともに考えていくように、保育者は対話を重ねたようです。
さらに、当日の子どもたちの生き生きとした顔には、かわいい衣装以上の子ども達の魅力があったのではないでしょうか。

④園内行事の改革実践例2

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二つ目は園外保育、遠足ですね。
広島の幼保連携型認定こども園 順正寺こども園の事例です。
こちらのこども園では、毎年5歳児が秋になると「JRたんけん」という遠足に行きました。広島駅にいって、駅員さんの案内で駅構内や新幹線などを見学する、というもの。スケジュールも、取り組み内容も、数十年間変化がない行事でした。
「子ども主体の保育」を探究し、様々な見直しを進める中で「JRたんけん」も見直すことになりました。
「鉄道好きな子には楽しいけれど、興味のない子にはどうなのだろう?」
「子どもたちはどんな遠足に行きたいんだろう?」
「私たちはこの園外保育を通して、子どもたちにどんな体験をしてもらいたいのだろう?」
このように考えたんですね。そして園内研修で職員間で話し合った結果「みんなで考えてみんなで決めて、みんなでやり切ったという経験をしてほしい」そして「子どもたちには自信や達成感を味わってほしい」という願いが生まれました。
「すみれ遠足会議」のスタートです。
まずは、取り組みの初日、「みんなは、遠足でどこにいきたい?」と保育者が問いかけます。すると、たくさんの希望が溢れました。

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そして、この段階で園長先生から、3つのポイントが提示されます
①行けるところは一つだけ
②一日で行って一日で帰れるところ 
そして、③すみれ組みんなが楽しめる場所

みんなのアイディアを出してもらってから、園の条件を出す。この順番が素晴らしですね。ブレインストーミングの手法です。
園長のポイントを受け、「すみれ遠足会議」が行われます。一日で行って一日で帰ることができる場所に振り分けていきました。

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簡単に分けられるものもありましたが、意見が分かれるものもありました。
ユニバーサルスタジオジャパンは「日帰りは無理」という意見が多い中、行けるといった子は朝早くに新幹線に乗って帰ってきた経験がありました。
夜のキャンプを経験している子は、キャンプは一日では無理、という意見です。しかし「デイキャンプという方法がある」と知り「それならいけるかも?」「雨が降ったらどうする?」と対話が重ねられていきます。
 「どうする?」「どこがいいだろう?」「なぜそう思うの?」この対話のプロセスが素晴らしいですね。
 さらに、すみれ遠足会議の様子は、ドキュメンテーションを通して、他の保育者や保護者達と共有されます。
そして、「みんなが楽しめる場所はどこだろう」と考え始めます。

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より一人ひとりの意見を引き出すために、この園では小グループに分けることにしました。すると、全員で話すときよりも話しやすかったようで「科学館なら、遊ぶところがたくさんあるから、みんなで楽しめるよ」と具体的な理由を添えた意見が出てくるようになります。
話し合いを始めて20日目。ようやく遠足に行く場所が「水族館」に決まりました。決まった瞬間とび上がるほど喜んだ子どもたち。この時の子どもたちが喜んでいる様子の写真も、なぜ水族館に決まったのかの理由もドキュメンテーションに掲載されました。
 そして早速スケジュール作りが始まります。家でイルカショーの時間を調べてくれた子をきっかけに、ウェブサイトでどんな生き物がいるか、どんなルートで見て回ろうかなど話し合います。
さらに、保育室の一角に「すみれ遠足コーナー」を設け、遠足に関する情報や海の生き物に関する絵本や図鑑を設置。さらに子ども達同士で、遠足や海の生き物の話題が飛び交うようになりました。
 遠足当日は班に分かれて、自分たちが決めたスケジュールで見学。「みんないる?」とお互いに声を掛け合い自分たちで遠足を進める姿に、保育者は子どもたちの育ちを感じることができたようです。
 遠足の様子はドキュメンテーションでも掲載しました。しかし、その後の発表会でもすみれ遠足の体験を発表することになりました。自分たちで話し合い、何を伝えたいか考える。そして、みんなで創る発表会につながります。遠足を通して、主体的で対話的な学びを経験した子ども達。そしてそれを尊重できた保育者たちの姿に、私たちが学ぶところは多いのではないかと思います。

⑤まとめ

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まとめに入りたいと思います
今日は、園内行事の見直し方についてみてきました。
園内行事の見直し方のポイントは大きく5つになるのではないでしょうか。
①「子どもにとってどうか」という視点から考える。「子ども主体の保育」が求められている今は、行事を見直すとても良いタイミングです。
行事を仕分ける。行事を分類し、それぞれどんな意味があるか考える。そして、子ども主体の保育と言えないものは、思い切って辞めようとか、形を変えてみよう、と考えて、年間行事のバランスをとる。「させる」保育をどうすれば減らしていけるか考えていくことが大事です。
保育者同士が語り合える土壌を作る。普段からの園内研修で、若手ベテラン関係なく語り合える場を作っていきましょう。
保護者に発信する。ドキュメンテーションやエピソード記述を掲示することで、子どもたちの姿、今の保育を発信しましょう。そしてそれを媒体に、普段から子ども達の姿や保育について対話を重ねます。
他の園の事例を参考に、自分たちはどうしたいか話し合う。見直し、対話のきっかけに、他園の取り組みを参考にしましょう。今日の参考文献にも、たくさん事例が載っています。ぜひ参考にしてみてください。

はい、以上が今日のポイントとなりました。
今日の参考文献には、このコロナ禍における運動会や、新型コロナ感染予防対策はどういうことをしているのか、ということが載っています。さらに本書には運動会自体を辞めた、という園も載っていました。 
もちろん、コロナがきっかけになったのですが、以前からその園では行事の見直しを行っていたそうです。「子ども主体の保育」にしたいという思い、そして炎天下の9月に屋外でずっと練習させることへの葛藤、こんな思いが募っていたようです。
 もちろん保護者会との話し合いでは、「辞める」と言うだけではなく、子ども身体を動かす遊び、運動的な活動は大事で、それを日常の保育の中に充実させていくということも伝えたようです。
 結果的に、子どもたちの中で運動活動がブームになったようです。子どもたちが保護者に見てほしい、というときには参観を促したり、仕事で来れない、という保護者には、写真や動画の配信を始めたりしました。
 もちろん、辞める、という決断だけでなく、小規模に開催し、親子で体を動かすスポーツフェスティバルに変更した園もあります。
 どちらも、子ども主体の保育の方向性に向けた、行事の見直しが行われた結果の形ではないでしょうか。

2021年春。まだまだ私たちの生活は、保育の現場は、これからどう変わっていくのか、誰にもわかりません。
 それでも、考えようによっては、なかなか変革が起きにくかった保育、幼児教育の現場で、
これまでなかなか来なかった「変革のタイミング」が、今訪れている。
このように言えるのではないでしょうか。
いま、行事の見直しをきっかけに、「子ども主体の保育」への転換が、全国的なムーブメントになっているようです。
 今、私たちが考えて、話し合って、動いて、そして作っていく保育や園内行事が、
今後の日本全体の保育として、受け継がれていくことになるかもしれません。
コロナ禍で、心身ともに疲れることが多い日常ですが、それでも新しい時代の保育を、
みなさんに、ワクワクしながら作っていっていただけたら嬉しいです。

今日は以上になります。
 どうも、ありがとうございました!


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