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愛に乾杯を

最後の剣道の試合を今でも憶えています。

高校の武道大会で義務として出場しなければならず、仕方なく戦いました。
僕はこの時既に“負けること“を意識していたんです。
《勝っても誰も幸せにはならない。勝者の数だけ敗者を創りその数だけ不幸を増やす》
と考えていたので、僕は基本的に何でも不戦敗を選んでおりました。

この時の戦いというのは
僕が望まない強制的な戦いでしたから、
學校の教育に軍隊の意識を垣間見たように思いました。

それで結論を先に書けば
全力で負けるように戦ったのですが
勝ってしまったのです。

なぜ未だに記憶にあるかと言えば、
この時が軀を動かすことでは
最後のフロー状態(ゾーン)だったからというのも一つに在るのですね。

フロー状態を意識的に出せるほどの能力は僕にはありませんでした。いつも自然発生的にフロー状態になるのでコントールはできません。
しかし今振り返れば集中仕切っている時にそれは起きています。好きな講義を受ける時は、軀を動かさないでもフロー状態になって90分の講義でも瞬き一つに感じることは後にもありました。やはりその時とは極度に集中しておりました。
この時の戦いでも、僕は絶対に負けたかったので、極限に集中して戦っておりましたね。

戦いが始まって、
あまり時間を掛けても全校生徒に注目されていることが嫌でしたから本当に手を抜いて面を打ち込みました。
その時フロー状態に。
僕の打ち込む面への動きが止まったようになり
『えっ❓避けてよ‼️面が入っちゃう』
と思いながらさらに軀の力を抜こうとしても軀が止まっている感覺でそれ以上に力を抜けない。
相手に避ける動きは微塵も見られない。
『ダメだ‼️決まってしまう‼️』
と思った次の瞬間には審判の旗が上がっておりました。

相手は最近まで剣道部にいた有段者でしたから、その情報により僕は油断していたと氣を引き締めて、続きの二本目の戦いに。
審判の『はじめ‼️』と同時に相手が前に。
僕の油断は連なっていて
負けることへの作戦を考え込んでいたのです。
そのまま打ち込ませれば良かったものを
つい僕の軀が自然に間合いをとりながら
僕の剣で面を庇う動きを。
相手は僕のガラ空きになった胴へ剣と軀を入れてきました。

負けることにあれだけ集中にしていたのに
負けることを考える間が無くなっていて
僕の軀が自然に動いていました。
胴へ斬り込まれた剣をそのままに
僕の軀を近づいていた相手の軀にぶつけて
胴を斬り抜かせない動きをとっておりました。
胴は面や小手とは違い
斬り抜かなければ一本になりません。

軀が接触している相手の驚きが伝わってきました。相手の軀の動きも心も止まっていました。
とその瞬間に僕は何も考えず相手の手元を少し下に力を加えて剣を振りかぶる。
相手は瞬時に面を庇う動きを。
空いた逆胴へ僕は引き胴を放ちました。
相手は庇っていた面への剣を
既に斬り抜かれた胴へと下げる。
逆胴に強い衝撃がありますから
斬り抜かれていても反射的に剣を胴に下げるのです。
すると今度は相手の面がガラ空きに。
逆胴というのは通常の胴より一本となりにくいので、斬り抜いた剣を僕は大きく振りかぶって面を斬りました。
引き技自体、一本を取りにくいのですが
逆胴よりも引き面の方がいくらかは一本を取れるのです。逆胴は誘い水。
僕の剣は大きな弧を描いて面に入り一本となりました。
何も考えずに軀が動いてしまったこととしても
この時の記憶が脳裏を離れません。

観衆の拍手と黄色い歓声でハッとした時にはもう全て終わっておりました。

僕はやらかしたと顔を下に向けて場を後にしました。

その時は面をつけておりましたからまだ良かったですが、表彰式で結局僕の顔を皆に晒さなくてはならずで、そのような一連の戦いを色々な思いと共に今でも憶えているのです。

勝っても後味が悪い。
僕にとって勝ちも負けも不快だったのですね。
その為に戦わないことを選んでおりました。
『分かっていたのに』
とその時、後悔をしておりました。

🌳🌳🌳🌳🌳

僕は全力で
戦わないことに対して
戦っていたことに氣が付いたんですね。

それで結局のところ
僕は戦っていたのです。

成功への抗いとして
不戦敗の為に
相手を敵とする。
幸せへの抵抗として
不戦敗の為に
相手を斬る。

はじめ
【平和の為に戦わない】と決めていたのです。
それは愛ゆえだと僕は思っていたのですね。
ですから僕に悪氣を感じられずにおりました。
これは『正しいのだ』と。

しかし現実を振り返ると
僕は誰よりも争い戦っていたのです。

僕だけが平和という名の剣を振り翳し、
バッタバッタと斬っておりました。
平和に生きる人たちを
愛に生きる人たちを。


僕は愛に完敗しました。
それは母が持つ潜在的な愛とは違う。
目に見える愛でした。

表の愛。
裏も愛。
愛しかない愛というものを前にして
降参しました。
戦いようが無い。
本当の不戦。
勝ち負けの概念が無いのです。

打算が無い。
負けを認める僕に見返りを求めていない。
そういう愛を前に
僕の剣は意味を成せない。

負けているのに
悔いもないですし
そもそも
それまでの敗者の意識がないのです。

勝者に支配される感覺がないのは
見返りを求めていないことから分かるのですね。


僕は
戦わない為に戦い
戦わなければならない時は
負ける為に戦う日々。



目の前のことから愛していこう。

愛は勝とうとなんてしていない。
負かそうなんてしていない。
ただ愛として在るように感じます。

理論上分かっていながらも
それを目の当たりにするまで理解できてはおりませんでした。


圧倒的に降参して
謝罪の氣持ちも感謝の氣持ちも
よく分からないのが素直な今の心境です。
ただ僕の心が在る。


僕は愛を思いながら
愛と戦っていた葛藤こそが
僕の戦いでした。


ここから。
今ここから。



最後まで御読み戴き
ありがとうございました☺️




➖愛と勇氣と感謝を込めて➖

祭統 白宇
SHIR㊉W

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