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【エッセイ】医師の目

数年前、旅先で体調不良となり、病院に行った時の話。

症状は、めまい・吐き気(後に嘔吐)・まっすぐ歩けない
だった。

身に覚えが全く無い体調不良で、昨日までなんともなかった私は
急に現れた症状であり、早く治して帰りたいという話を医師に伝え、
そのまま倒れた。

医師の目の前で倒れたため、そばにあったベンチのようなベッドに寝かせられた。医師は、私の目に光を当ててこう言った。
「今、あなたの目はグルグル回っています。これは・・・とても辛い状態だと思いますよ。ここで少し休んでください」

そして、「このまま治らなかったら・・・・・そのときはあーしてこーして」と、色々な路線を模索してくれた。

そして、待たせていた別の患者の問診に入った。
その患者とのやりとりが、目の前で行われている。
目が回って嘔吐をしながら、不思議と脳は冴えていて
医師と患者とのやりとりはよく聞こえていた。
この記憶が今もよく残っているのは、
医師の態度が、私の時と全然違ったからだ。

ものすごく具合の悪そうな患者に対して
医師はこう言った。
「たいしたことありませんよ」

え・・・?
そうとう具合悪そうですよ?
私の時は、親身に心配してくれた医師の
声が冷たい。
どう見ても、具合が悪そうなのに。
過剰なまでに。

つきそいの人はその診断が不服だったのか
いかに日常生活に支障をきたしているかを
一生懸命話し始めた。
しかし、医師の診断は変わらなかった。
淡泊な態度も。

同じ人間なのに、印象がまるで違う。
微妙な空気が診察室に流れていた。
そんな中、私の目のグルグルはもとに戻り、
とりあえず歩けるようにまで回復した。

医師は「よかった」「これで帰れるね」と
声をかけてくれた。
やさしい顔がそこにはあった。

何が態度を分けたのだろう。

分かるのは、

具合の悪い人と
具合の悪そうな人は
医師の目から見ると
イコールではないということ。
だろうか。




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白土紘子
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