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「受け入れる」ってどういうこと
こんにちは。白目みさえです。
日々の臨床の中で気づいたことを書いていきたいと思います。
ブログでは漫画なども更新しておりますのでよろしければご覧ください。
今回のテーマは「受け入れる」です。
生活の中では
現状を受け入れる、ありのままの自分を受け入れる、障害を受け入れる
大体そんな使い方をされることが多いと思います。
「受け入れる」ってどんなイメージですか?
まず辞書的な意味を確認してみましょう。
うけ‐いれ【受(け)入れ】
1 人や物を迎え入れたり、引き取ったりすること。
「新入生の受け入れ態勢」
2 承知すること。承諾。承認。「要請の受け入れに難色を示す」
Weblio国語辞典
辞書的な意味で言うと「2」が該当するかなと思います。
「承諾」「承認」
「認める」ってことだと思いますが、じゃあこんど「認める」って何やねんって話になりますね。
みと・める【認める】
[動マ下一][文]みと・む[マ下二]
1 目にとめる。存在を知覚する。気づく。「人影を―・めた」「どこにも異常は―・められない」
2 見て、また考えて確かにそうだと判断する。「有罪と―・める」「頭がよいと―・める」
3 正しいとして、また、かまわないとして受け入れる。「自分の非を―・める」「試験に教科書の持ち込みを―・める」
4 能力があると判断する。「世に―・められる」
5 気をつけて見る。じっと見る。
「五百の仏を心静かに―・めしに」〈浮・一代女・六〉
多分一般的な「認める」のイメージ、もしくは「受け入れる」のイメージって『3』だと思うんですよ。
「正しい」とか「構わない」とすること。
そしてさらに『4』の意味も加わることもあるかと思います。
「能力があると判断する」要するになんだかすごいものだと思うということですね。
さて話を戻します。
私は精神科で勤務しているのですが、患者様からよくこんな言葉を聞きます。
「これも私だって受け入れていかなきゃいけないんですよね」
「病気になったことを受け入れていかなきゃいけないですよね」
「この子(自分)の障害を受け入れていかなきゃいけないんですよね」
私昔からこの言葉にずっと違和感があって。
「受け入れていかなきゃいけない」ってなんだ。
みんな一体どこを目指しているんだってモヤモヤと疑問だったのです。
でも世の中ではなんかそう言われているっぽいし。
「うーん…受け入れなきゃいけないのか…?」って思っていました。
そして「そもそも受け入れるってなにさ」と。
やはり世間のイメージでは、障害や逆境を克服し、何かすごいことを成し遂げて、何かを受賞して、涙を流しながら「今の私があるのは障害/逆境のおかげです!」って言う…みたいな感じじゃないですか?
そこまでいかなくとも「今の私があるのは障害/逆境があったから」「あって良かった」ってしみじみお茶すするみたいな。
え、めっちゃハードル高くね?と思うんです。
みんなそこ目指してるの?
そこまでいかなくちゃ「受け入れる」にならないの⁉︎
そりゃしんどいわ!
「受け入れる」って多分そういうことではないんじゃないか?
というお話です。
「受け入れる」は急にできるものではない
死について研究された、エリザベス・キューブラー・ロスという方がいます。
(たまにはかしこそうなこと言うとかんと)
エリザベス氏によれば、死に直面した人の多くは5つの感情を経験するそうです。
1.否認:自分が死ぬなんてそんなわけないよ。嘘だ。
2.怒り:どうして自分が死ななきゃいけないんだ!
3.取引:どうにか死を伸ばすことができないか?何か方法はないか?
4.抑うつ:どうにもならない…もう何もやる気になれない。
5.受容:もう自分は死ぬんだな。避けられないんだ。
全員が全員この順番というわけではありませんが大体こんな感じ。
ちなみに「深い悲しみ」の場合もよく似た経過をたどります。
この5番目の「受容」は「受け入れる」とも言えますね。
障害受容に関しても「死の受容」とよく似た経過をたどると言われています。
私は精神科で心理検査、発達検査を実施しているので、病名をご本人様にお伝えする場面や、お子さんの病名を保護者の方にお伝えする(もしくは伝えたあとの)場面に居合わせることがあります。
するとこんなやりとりが見られます。
まず「あれ?」と最初に思った時点では『否認』から入る方が多いようです。
全員がそうとは言えませんが、「障害」「病気」と名がつくものですから、「あって欲しい」と願う方はあまりいないでしょう。
「無くて欲しい」と思う人が大半ではないでしょうか。
「あって欲しくない」ものが「あるかもしれない」のですから、「いやいやまさか」「ちょっとそこが苦手なだけ」と思うのは人として通常の反応です。
病院に来られたのは「否定して欲しい」という思いがあるからという方もいます。
そして「そうかもしれない」という思いが確信に近づくと、多少なりとも『怒り』を感じます。
「どうして自分が?」「あの人のせいでは?」「あの出来事があったからだ!」というものもあれば、「自分のせいかもしれない」と自分に怒りを向ける方もいます。
「なんでこんなことに!」とどこにも向けようのない怒りや憤りを感じ、「どうにかできないのか?」と考え、『取引』の段階に進みます。
「治りますか?」「また元通りになれますか?」「問題なくいけますよね?」
この場合の質問の多くは病気や障害を「なかったことにできるかどうか?」というニュアンスがこめられています。
でも、病気や障害の種類によっては一生付き合っていかなければいけないものもあります。
『寛解(完治未満。病状が治って穏やかな状態)』しても、「病気になった」という事実は記憶として残っていますので、警戒したり不安になったりしながら過ごすこともあります。
「なかったこと」にはできない場合がほとんどです。
そうすると途方に暮れて『抑うつ』状態に移行することがあるでしょう。
もちろん再度『否認』や『怒り』に戻ることもあります。
みんながみんなきれいにこうなるわけではありませんし、こうならないといけないわけではありません。
ただしこの4段階に共通しているのは
消せないのか、なかったことにならないのか、元通りにできないか。
考えうるものは全て試しながら、ずっとずっとその障害や病気、自分の欠点などを、変える方法や消す方法を考え続けていることです。
ではその後に訪れる『受容』とはなんでしょう。
「受け入れる」とは「ほんならどうしよか」という段階のこと
感情の浮き沈みを経て少し落ち着くと
「ほんならどうしよか」という思いが生まれてきます。
私はこの状態が「受け入れた」ということなのではないかと思います。
障害、病気、欠点…対象は様々ですが、「変えること」「消すこと」に集中していた段階から、「変える/消す」以外の選択肢が出てきた段階こそ「受け入れた」と言えるのではないでしょうか。
それが「あって良かった」なんて思わなくてもいい。
今でも「なくなって欲しい」と思っていてもいい。
でも「ある」のは「ある」。
じゃあ…これからどうしていこう…と思えているのだとしたら。
それが「受け入れた」ということなのではないかなと思います。
「あって欲しくなかった」ものが「ある」と告げられた時。
人はとてもとても苦しみます。不安や恐怖、怒り、悲しみ、色んな感情が湧いてきて、精神的に疲弊します。
それを乗り越えながら「ほんなら…どうしようか」と考えられたというのは、それだけでとてもとてもすごいことです。
なんとかするために
「病院に行こう」「連れていこう」
「働きやすい環境を探そう」
「ゆっくり過ごそう」
そんな風に「次」を見ることができているのだとしたら、その時点で「受け入れている」と言えるでしょう。
「受け入れなきゃいけないんですよね」とおっしゃる方の多くはとっくに「受け入れて」います。
きちんと自分の中にそれがあることは見ていますし、次の段階に目を向けられています。
負の感情を消し去り、障害や病気、欠点を「良いもの」として捉え、それが何らかの形で脚光を浴びること、が「受け入れ」ではありません。
むしろ「ほんならどうしよか」を続けていたら、なんかそういうことが起きたというだけの話です。
「受け入れた」と思わなくてもいい
ただ私は相談者の方が「ほんならどうしよう」とおっしゃた時に「よくぞ受け入れられましたね」とは伝えません。
やはり「受け入れた」=「それを良いものと捉えている」というイメージがあります。
まだその方の中では、「完全に認めたくない」という気持ちも残っているので、「受け入れた」と言われると「完全に良いものとして考えなくてはいけない」と感じてしまわれる方もいます。
「無いなら無い方がいい」
「あって欲しくはなかった」
そんな気持ちを持っているその状態でいいんです。
完全に無くすことを目標にしないでいいんです。
負の感情を持っていてもいいんです。
大切なのは「ほんならどうしよか」と思えていることそのものです。
そしてその状態にある自分のことを「まだまだダメだ」と思う必要もありません。
「よく頑張っているなあ」なんてポジティブに捉える必要もありません。
「ほんならどうしよか」と思えているなあ…そう思っていてください。
そうすると頭の中で白目が「実はそれって受け入れてるってことだぜ」ってささやいてくるので、「きもっ」てなって少し笑えるかもしれません。
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