映画館で決して口にしてはいけないひと言
中国の映画館は日本に比べるとさわがしい。
さわがしいというのは、映画の音響ではなく、観客のことだ。
観客の中には、映画の最中に内容について、一緒にきた友人と会話をする人がいる。
また、リアクションとしての笑い声も大きい。
作品によっては、会場一体となって笑うこともある。
みな相当自由でリラックスしている様子なので、もしかしたら、画面が大きくなったテレビを家族で見ている感覚なのかもしれないなと思う。
私は昔から図書館の学習室の雰囲気や試験会場の沈黙が苦手だったので、中国の映画館のさわがしさに、特別神経を尖らせることはない。
むしろ、娯楽を娯楽として存分に楽しむ姿には好感を抱いたりする。
ただ、音には寛容な一方で、「上映中に絶対口にしてはいけないこと」というのも、あるなと思ったのが、以下のエピソードである。
静寂を破るおばさんの一言
昨年、中国に短期滞在していたわたしは、日本の某人気バスケットボールアニメを観に、ひとりで上海の映画館を訪れた。
〜〜以下、ネタバレご注意〜〜
主人公は、ライバル校との因縁の試合で苦戦を強いられていた。
試合後半、監督の指導・激励もあり、それぞれの選手が覚醒して、なんとかあと一点差にまで追いついた。
そして、試合終了数十秒前、主人公チームがボールを奪取。
逆転をかけた、手に汗握る緊張の瞬間を迎えた。
(ど、どーなる…? ハラハラドキドキ)
主人公チームの選手の手から放たれたボールが宙を舞い、画面はスローモーションに。
この時、一切の音が消え、場内に静寂が広がった。
横のおばさん:
「進去(入るよ)」
…
(え?)
0.5秒後、音声が戻り、スローモーションが解除され、ボールがネットを揺らした。
…
おばさんは自分の思い通りの展開に、したり顔でスクリーンを見つめている。
…
いや、そりゃわたしも入るなとは思っていたけど…。
いたけど…。
タイタニック号が氷山に衝突した時「沈むよ」と言うこと、
八つ墓村で被害者の妻が出てきた瞬間「犯人だよ」と断言すること、
セーラームーンの最終回でセーラー戦士全員が死んでしまったシーンを見ている時に「生き返るよ」と言うこと、
やっぱり、それって、鑑賞中は言ってはいけないことだと思うのだ。
なぜなら、没入感が薄れて興醒めしてしまうから。
おばさんの「入るよ」を聞いた時、わたしは日本の映画館でなぜこんなにも沈黙が重視されるのかがわかった気がした。
それしか目に入らない大スクリーン、暗闇、作品の音響だけが許された静寂という環境があってこそ、観客はより深く映画の世界にのめり込めるのだ。
もしかすると、日本と中国では根本的に映画館における映画鑑賞の楽しみ方が違うのかもしれない。
没入感にこだわる日本、気軽に楽しめる娯楽の場として映画館を捉える中国、といったところだろうか。
何にしても、映画館での声出しによる先読み(やネタバレ)だけはやめようという、
以上、自分もちゃっかり映画のネタバレを含んだ雑文であった。
おわり