🇨🇳#25 雲南省・麗江で何もしない一日
ラオスやミャンマーに接する中国・雲南省は、忙しい日常に疲れた都会の若者の逃避旅行先として人気の街だ。
気候が良く、自然豊かでゆったりできる場所なのだ。
特に、少し長めの旅行で来て、雰囲気の良い民宿でのんびり過ごすカップルが多い。
というわけで、成都発麗江行きの飛行機は、手と手を絡めあい、愛を囁き合う中国のラブラブカップルだらけなのである。
そんな中、ひとり不安と憂鬱、負のオーラ全開で座っているのがわたしだ。
なぜなら、昨日成都で石のようなパンダアイスをかじった際に前歯が折れて、ローカル歯医者で応急処置でくっつけてもらったのだが、それがもうすでにグラグラだからである。
いや、この際、あと3-4日、深圳まで持ち堪えてくれればよいのである。
深圳の昼の会議だけ、歯がある状態で参加できれば、あとは香港〜マカオに移動だ。
マカオや香港は、人種が入り乱れていてファッションにも比較的寛容なので、少しパンクな服とメイクにチェンジすれば、前歯がないのだってオシャレの一部だと思われるかもしれない。
そして、そのあと福建省に移動したら、やわらかいヤムチャを食べて腹を満たし、浙江省と江蘇省は後日に回して一旦上海へ帰ろう。
(チベットはパーミットがおりないと入れないため、特別編で🐼)
でないと、食べられるものがなさすぎて、栄養失調で倒れてしまいそうだから…。
雲南省・麗江市。
空が青く、陽光でコントラストがかかった雲が美しい。
湿度は高くも低くもなく、風の中に妖精がいそうな空気感だ。
今日わたしはこの街で、旅始まって以来となる、「何にもしない」ことにした。
1か月で溜めまくったホテル予約サイトのポイントで、民宿に10:00にチェックインできるのだ。
だから、部屋に引きこもって、今日は仕事以外何もしない。
最大の理由としては、ちょっと疲れたのだ。
身体がバキバキで、かつ、超眠い。
あと、変なアイス食べたり、ラクダ乗ったり、調子に乗って予定より金を使いすぎたのもある。
しかしまあ、「何もしない」が最高なのが、雲南という場所なのだ。
これはもう、説明のしようがない。
来てもらえれば、きっと分かるだろう。
民宿は大当たりで、今掃除中だからと待たされているうちに、オーナーと仲良くなり、ただで地ビールを腹一杯飲ませてもらった。
これで昼メシは歯を危険にさらすことなくスキップできる。
ちなみに、宿の名前は「只为你等(あなただけを待ってる)」。
「麗江古鎮に千以上ある民宿の中で、ここにたどり着いたのは縁です。あなたのことを待ってましたよ」と、サラリという彼は、その屈託のない笑顔の下で多くの女性を泣かせてきた過去を持つのかもしれない(妄想)。
で、まあ、後からやってきたもう一人のオーナーも交えて、コロナ禍は三年収入がなく大変だったこと、お客さんトラブルなど、業種は違うが自営業あるあるで大いに盛り上がった。
三人の結論は、「商売でもなんでも、人情が大事」であった。
すると、彼らは早速人情を発揮し、180元(3600円)で、一番いい部屋にしてくれたのだ。
(オフシーズン・平日価格)
そう、わたしがこの宿を選んだ理由は、1か月ぶりにお風呂につかるためである。
中国北エリアの「深夜特急」を卒業後、毎日シャワーは浴びれているのだけど、さすがに浴槽があるようなホテルには、根っからのケチが邪魔をして泊まれなかったのだ。
ジーン。
「にんげんっていいな」の歌詞の意味がわかった気がする。
「いいな、いいな、おいしいごはんにぽかぽかおふろ…」
あ、ごはんは食べられないんだった…。
あまりに気分が良く、思わず漫画のキャラクターみたいに、大袈裟な背伸びをして深呼吸までしてみた。
で、自分だけの屋上でしばらく仕事をする。
屋上に飽きたので、今度は自分の書斎で仕事をする。
仕事をしているふりをして、白丸みそ子の日記を書く。
そして、ラオスコーヒーを飲む。
…夢みたいだ。
もう、埼玉じゃなく麗江に住みたい。
そして爆睡すること1時間…に見せかけて2時間。
今度はオーナ2人とその彼女たちからご飯に誘われた。
しかし、歯がこれこれこういう理由で…と説明して断ってしまった。
深圳までは断食してでも、前歯をくっつけておきたいのだ。
すると、「老奶洋芋(おばあちゃんのジャガイモ)なら食べられるんじゃない?」と、オーナーの彼女が教えてくれた。
彼女は雲南の少数民族である。
そして早速、雲南省のご当地グルメ「老奶洋芋」なる食べ物を探してデリバリーで頼んでみた。
うん…食べられる。
これは大人の離乳食だ。
ジャーマンポテトを、歯のない人のために(?)丁寧につぶしてくれた食べ物に違いない。
もう一つは、スパイシーな茶碗蒸し。
どちらも前歯に刺激レスで美味。
(※)老奶洋芋は、後から調べたら本当に「老奶奶吃的洋芋(おばあちゃんが食べるジャガイモ)」の意味でした
そしてお腹が満たされたので、少し麗江古鎮(古い街並み)へと散歩に出た。
さすがに「何もしない」日記ではネタがもたないと気づいたのだ。
このように観光地として開発された古鎮は、実は中国中どこにでもあるのだけど、麗江の良さは、その街並みの後ろにそびえる山々や、白い雲、街の中を流れる用水路の水の美しさといった、自然とのコラボ風景だろう。
と、ひとりでニコニコしていたら、広場のような場所で殺傷事件が発生。
警察官が15人くらい事件現場に駆けつけて、足に青い靴カバーをつけて証拠集めをしている。
警察「ほら、見ない見ない。自分の心に良くない影響を与えるだけだから」
もう少し、早く言ってくれればよかった…。
怪我人はすでに運ばれたようだが、この場所で事件があったのは一目瞭然だ。
そして、周りの店の人たちは「(犯人は)人をさして逃げた」と騒いでいるのである。
え、ちょっと待って。
この人混みの中に、殺傷犯がいるの?
怖すぎる…。
その後は、自分が犯人と疑われてもおかしくない猛ダッシュで民宿へと戻り、やはり「何もしない」ことに決め込んだわたしであった。
旅はつづく