東京鬼リピ店vol.4 カレー好きガチ勢が通う絶品スリランカカレー屋
フランスに一週間旅行してから、「フランスのワインは…」と頻繁に語るようになった友人がいる。
この友人がもう一回フランスのワイナリーの話をしたら、どつこうかと考えているわたしは、スリランカに取材で一度だけ、四日間行ったことがある。
そのたった一回の渡航で食べた本場スリランカカレーの思い出だけで今、もっともらしくスリランカカレーを語ろうとしている。
今回はそんな回である。
友人Gと誕生日祝いで来訪
今日はおひとりさまではなく、編集の元同僚Gと目的のお店に来訪した。
Gはちょいちょい会話に四字熟語を入れたり、ためになるのかならないのか分からない蘊蓄を長々と語る、秀才であり変人である。
とにかくこのGと、かようびにやって来たのが本格スリランカカレー屋「げつようび」だ。
もともとは高円寺で月曜日だけやっていたカレー屋さんで、カレー好きの間では「うまい」と評判になっていたのが、久我山に昨年移転したようである。
G「し、し、白丸さん、お誕生日おめでとうございました…」
わたし「Gは明日か。おめでとう」
Gは同い年で、わたしの五日後に誕生している。
G「わ、わたしは行政的には今日が誕生日になります…」
わたし「はい?」
G「行政上は出生日の一日前が誕生日となるのです。四月一日生まれが前の学年になるのも、そのためです…」
わたし「…蘊蓄はいいからカレー食べよう、カレーを」
腹の空いていたわたしは、理屈くさいGと相談してメニューを選択するという対話的意思決定を放棄して、おつまみ全メニューを頼んだ。
メニューをチラッと見たらお手頃価格だったのと、割り勘という強みから「大人注文」してみたくなったのだ。
女性店主が魅力的だったので、「気を引きたくて」というのもある。
おつまみの中では特に本日のアチャールをおすすめしたい。
アチャールは、野菜や肉などの具材をスパイス類をミックスしたソースで煮て、酢など酸味のある調味料と塩で味をととのえる南インドの料理だ。
この日の具材は鶏レバー。
ターメリックなどのスパイスによってレバーのくさみが消えて旨味だけが強調されていて、味はソースの香味と辛味のバランスがちょうど良い。
おまちかねのスリランカカレー
おつまみをコンプリートしていたため、一人前だけ頼んでみたが、おいしすぎてGと奪い合いになり、酒の勢いで血みどろの戦いに発展しないよう、すぐさまもう一皿を注文した。
わたし「カレー、おいしすぎる…もはやスリランカで食べたの上回る…」
G「こ、このカレーは、食べた人がみな吃驚仰天しますね…」
わたし「…」
Gの感想はおいといて、店主いわく、カレーのライスはバスマティライスと白米を混ぜているのだそう。
バスマティライスはインディカ米の一種で独特の香り高さとパラパラとした軽い食感が特徴だ。
ここに柔らかくて甘味のある日本米が加わることで、両方のいいとこどりのハイブリッドな仕上がりになっている。
本日のカレー3種は、青バナナカレー、牡蠣のカレー、ポークゴラカカレーだった。
これ以外にも、わさび豆苗とはっさくのサラダ、ビーツのキラタ、ココナッツふりかけなどのおかずがプレートいっぱいに散りばめられている。
知らない単語ばかりで混乱している人は、なにも不安がることはない。
この店ではただ、「本日のプレート」さえ唱えられれば、とんでもなくうまいカレーが出てくる仕組みになっているのである。
「本日のプレート」が、ハリーポッターの「アクシオ(来い…)」またはラピュタの「リーテ・ラトバリタ・ウルス…以下略」だと思ってもらえれば良いだろう。
どの料理も繊細で手の込んだ味付けで、どれが一番というと甲乙つけ難いのだが、ポークゴラカカレーは思わず「うまーい!」と叫んで道路に飛び出したくなるほどであった。
肉の旨みとコク、味付けは台湾のルーローファンのそれにも似ている。
しかしこちらのカレーには、燻した香りとごくわずかな酸味までもを感じるのだ。
そもそもメニュー名にある「ゴラカ」というのは、現地の植物の実を乾燥、燻したスリランカのスパイスに他ならず、強い酸味と燻製香が特徴なのである。
ルーローファンで使われる八角や桂皮、丁香(チョウジ)をスリランカやインドのスパイスたちにかえてスリランカ風味になったと思えば、似ているのも納得できる。
そして、インド系料理でいつも感心するのが、こういった「酸味」の取り入れ方だ。
カレーのイメージのためか何かとスパイシーさばかりが注目されがちだが、実際には肉の旨味やコク、複数のスパイスを使った複雑な辛味と香り、そして酸味が高度なバランスで組み合わさっていると思う。
このカレーでも、前述の「ゴラカ」が入ることで酸味が加わり、味にキリッとした輪郭が生まれているのだ。
働き者で美しく魅力的な店主と2か月後の再訪を約束して店を出た。
カレー好きで、スリランカカレーをまだ食べたことがない方には是非ともおすすめしたいお店である。
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