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#58 夏の思い出「芋けんぴついてるよ」ならぬ「セミたかってるよ」
中国から三週間ぶりに日本へ戻ったので、娘・ベビ子を伴って、老人ホームにいる父・みそ蔵のお見舞いに行って来た。
みそ蔵は今日もわがまま全開で、わたしが買ってきたメロンをひと口食べてから、
「これは茨城産だな。俺は静岡のメロンが食べたいんだよ」
と文句を言う。
それから、くも膜下出血を患ったというみそ蔵の妹(わたしのおば)に電話をしてみたがつながらず、
「なんで出ないんだ。あいつはバカだからな、このバカヤロウが」
と悪態をついた。
みそ蔵なりに、妹を心配しているらしい。
老人ホームの館内では、車椅子に座る入居者たちが、ひらけた場所で何を話すでもなく、静かに輪になって集っていた。
わたし「お父さんも、たまには自分の部屋から出るの?」
みそ蔵「何で俺が出なきゃいけないんだ。必要がない」
みそ蔵は、身体はほとんど動かないが、頭だけはキレッキレなのである。
(故に、老人ホームの問題児)
…🐼
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我が家には車がないため、みそ蔵がいる老人ホームへは行きはタクシー、帰りは節約して、徒歩→バス→電車→徒歩で帰る(アクセスが超悪い)。
わたしとベビ子は、巨大なトラックがバンバン通る県道を縦一列で黙々と歩き、タイミングよくやって来た、1時間に2本しかないバスに乗り込んだ。
車内は空いていて、わたしたちは、バス停までの道のりの配列と同じように、前後の席に座った。
すると、少し離れた席のサラリーマンが窓を開け、その瞬間に、バシャバシャという虫の羽音のような音がして、車内がざわついたのである。
その虫(?)らしき物体はわたしの頭をかすめたが、すぐに辺りは静かになったので、きっと飛び去ったのだろう、そう思った。
わたしは前の席に座っているベビ子の耳元に顔を寄せた。
わたし「今、虫いたよね? なんか母さんにぶつかった気がする。怖いわ」
ベビ子「え、ヤダ、近寄らないでよ」
…🚌
約6分後…。
謎の羽音を聞いてから、2つのバス停を過ぎた頃、後ろのおじさんがわたしの背中をツンツンしてきたのである。
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痴漢には久しく遭遇していないが、一応、少しだけ怪訝な顔で振り返ってみるわたし。
わたし「…はい?」
おじさん「(小声で)あの……セミがたかってる」
わたし「…?( ◠‿◠ )」
おじさん「頭に、セミたかってる」
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確かに、言われてみれば、右側頭部に小さな重みを感じなくもない……🙄
ジジッ…🪰
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わたし「(急に状況を理解して、パニック)……た、助けてください!!」
車内がざわつく。
いや、右側一列に座ってる乗客たち、絶対、ずっと前から気づいてただろ!!
はい、そこの窓開けた犯人、右列後ろから三番目のサラリーマン、セミを車内に招き入れた上に、全てを見ておきながら、しらんぷりした罪で、今すぐ降車!!
罰として、新所沢駅(で降りるかは知らんけど)まで四十分間歩くこと!!
てか、誰か、早く、わたしの頭についている、目に見えぬ、見たくもない、セミを取ってくれ!!
うわぁぁぁ…😱
…
すると、慌てふためくわたしを見かねた後ろのおじさんが、わたしの頭にそっと手を伸ばした。
ジジッ…🪰
おじさんは、わたしの頭からセミを素早く取りのぞくと、窓を開けて手を開いた。
飛び去るセミの羽音(怖くてみてない)…。
まさに、「芋けんぴついてるよ」ならぬ、「セミたかってるよ」である。
そしてなぜか、自分の頭からセミがいなくなってからようやく、「キャアァァ😱」と、乙女のような甲高い悲鳴をあげる、四十歳五か月のわたし。
その前の席に座って、他人のフリをきめ込む、娘のベビ子。
…🚌
おじさんに3回ほど御礼を言って、バスを降車。
わたし「でもさ、考えてみたら、たかるって、ハエとか、複数の虫の場合だよね。訛りかな?」
ベビ子「確かに。漢字で書くと、集合の集だしね」
わたし「たかるって単語にさ、恐怖を感じるのよ。セミついてるよ、セミとまってるよだったら、母さんあんなに悲鳴上げてなかったと思う」
ベビ子「てか、セミがいなくなってから急に叫んだの、マジで草っ…」
わたし「だから、後からジワジワたかられてたんだって事実が効いてきたわけよ。知らぬ間に蝕まれてたんだ…って」
ベビ子「とりま、あのおじさんに感謝だねー」
わたし「だねぇー…って、アンタが助けなさいよ!」
ベビ子「セミは、むり」
ということで、9/5西武バス新所沢駅東口行き、下赤坂16:29発のバスの車内で、わたしの頭からセミを取ってくれたおじさん、本当に、本当にありがとうございました🙂↕️
以上、夏のおわりのエピソードでしたとさ。
おわり