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水彩画の街


あなたを愛しているわ。
ずっと、ずっと愛しているわ。
でも、それだけ。
あなたを愛したままの私は、誰にも内緒でそのまま空へ持っていくわ。

渚・・・。

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いつものようにあの日あの人がくれた傘をさす。
これが私の日課。

これからもずっと、私がここにいる限り。


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そこはローカル線の最後の駅だった。
都会の雑踏に疲れた僕は、目的なく電車を乗り継いでここにきた。
もう乗り換える電車がない。

降り立ったその街は潮の匂いがした。

ザザーン、ザザーン

『海か』

『やっぱり本物の音には勝てないな』

音楽を始めた頃は、アコースティック一本で、暑い日も寒い日も満ち溢れたいっぱいの気持ちで、無我夢中で走っていたな。


『追いかけている時は、追いつかないのに、』

スランプなんておこがましい。いや、そうは思いたくない。
ただでも、何かを遠い昔に忘れてきてしまったような気はするんだ。


潮の香りと、波と、音と、足の裏に感じる砂の感触と、しょっぱい海。

人間には素晴らしい五感が備わっている。
感じるその全てを備えている人間が歌う、本当の歌ってどんな歌なんだろう。


『腹、減ったな』

辺りを見渡すと、水色の壁の店が見えた。
「Wartercolor」と書かれたプレートに向かって、砂だらけの足が歩き出す。

 カランカランカラン・・・

「すみませーん、開いてますか?」

店の奥から美しい旋律の鼻歌が聞こえてきた。そしてそれと同時にいい香りが僕の空腹に突き刺さった。

『ボルシチか』

小さい店内には1枚だけ絵があった。
多分、この海を描いた、美しい水彩画。

テラスのテーブルに置かれた一本の傘が、心地よさそうに横たわっている。

店主が店の奥から現れた。

「あら、ごめんなさい、いらっしゃいませ。」
「いい匂いですね。」
「できたてよ、ランチでいいかしら?」
「おねがいします。」

店主が厨房に入るとまたあの鼻歌が聞こえてきた。

「はい、お待たせしました。お客様は観光か何か?」
「いや、、なんとなく、」

「そう、」

「ここはね、水彩画の街なの」
「水彩画?」
「そう、水彩画ってね、紙と筆と水と絵の具と手の指令と全部の相性が合わないと描き手の思いが現れないの。不安定なのね。でも不安定でも、水彩が描くものは淡くて美しい。不安定でもキャンバスにあられたものが自分のその瞬間の全てだから、もっと美しいのよ。それを受け止めた時、心がね、明るさを取り戻すの。ここは、そういう街。」


「あなたも、きっと取り戻せるわよ。」


テーブルの上には、美味しそうなボルシチと焼きたてのパンがあった。
僕はそれを頬張り、

なぜだか涙を流していた。



PJさん企画のうたストに参加します。
ソーダ・ヒロさんの「水彩画の街」を聞いた時、波の音が聞こてきて、この物語の絵(ヘッダーの絵)が浮かびました。
アコースティックギターのイントロが美しくて、また私はフィンガリンクノイズでしたか、言葉あっているかわかりませんが、あのキュッキュがとても好きでなので、そこから楽曲の本来の物語の上に、現実の物語を乗せ、その主人公をアーティストさんにして書いて見ました。

この歌を聞いていると、とても優しい気持ちになります。

PJさん、ソーダ・ヒロさんよろしくおねがいいたします。

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今回のこの企画。音楽から小説を書くという、どこからそんな素晴らしいアイデアが生まれるのか!
PJさんすごい!

音楽のラインナップは、素晴らしいミュージシャンの方々揃っていて、しかも全ての楽曲が素晴らしいです!

選ぶのが難しい。
みなさんもぜひ!ご参加くださいね!



#水彩画の街G  
#うたスト

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