見出し画像

今日のおはなし

おじさんは普通の男の人と比べると背が小さいです。


もうかれこれ60年前。
おじさんは奥さんと結婚しました。
おじさんの奥さんはおじさんよりも20センチくらい背が高いです。



おじさんの奥さんは小さくても一生懸命に働くおじさんをとても大好きになりました。そしておじさんは奥さんのことを誰よりも愛してくれるので奥さんも誰よりもおじさんのことを愛していました。

奥さんはおじさんが仕事に出かける時、いつもおじさんのポケットに白いハンカチーフを入れてあげます。

そして「ポンポン」とたたいて「また今日の夜も元気であえますように」とおまじないをするのでした。

白いハンカチーフはいつも丁寧にアイロンがかけてあります。
そのハンカチーフに奥さんは必ずフランキンセンスの精油を1滴たらします。「また今日の夜も元気であえますように」の言葉に添えた香りのおまじないです。

そうしておじさんは仕事にでかけ、仕事を終えて家に帰ると
「また、今夜も会えましたね」と奥さんは「おかえりなさい」ではなくいつもそう、言うのでした。

おじさんと奥さんはそうして長い時間を一緒に過ごしました。

しかし、その日は突然現れました。



ある日おじさんが家に帰ると奥さんがいませんでした。

おじさんがキッチンにいくと奥さんが倒れていました。

おじさんは奥さんに駆け寄り、オイオイと鳴きながら奥さんを抱きしめました。


その日から、おじさんと奥さんは毎日会うことができなくなりました。


おじさんは悲しくて、何日も何日も泣きました。
何日何日も寝ることなく、ずっと泣きました。


でも、何日かしておじさんは力尽きその場で眠ってしまいました。

夢の中でおじさんはフランキンセンスの香りを感じました。
おじさんは、奥さんを思いました。
そして、これで奥さんのところに行けるのだと嬉しく思いました。

香りの方に進んでおじさんは歩きました。

しばらく歩くと一本のか細い気が立っていました。
香りはどうやらその木からしてくるようです。



おじさんは奥さんを探しましたが見当たりません。
おじさんは歩き疲れて、悲しくて、そのままその木の下に倒れこみました。

「これであなたに会えますね、」


そうしておじさんはその木の下で目を閉じました。


長い時間眠ったように思えましたがおじさんが眠っていたのはほんのわずかの時間でした。目が覚めたおじさんは『ふぅ、』とため息をつき、

「会えませんでしたね、」とつぶやきました。

でも、不思議なことにフランキンセンスの香りはまだここに残っていました。
おじさん我に返り、パッ!と起き上がりまわりを見渡しました。
すると、テーブルの上にあの時と同じように丁寧にアイロンのかかった白いハンカチーフがおいてあるのがみえました。


おじさんはそれを持ち、スーッと香りをかぐと

「やっと会えましたね」と言い、そしてひとすじの涙がながれました。


おじさんはその日から泣くことが無くなりました。


おじさんはそれからずっと奥さんがいた時と同じようなに日々を過ごしました。
おじさんのポケットにはいつもフランキンセンスの香りのする白いハンカチーフがあります。

そして、かならず

ポンポンとたたいて、

「今日もまた帰ってきます」といって

でかけるのでした。




おしまい



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集