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月今宵一句

月今宵みぎのポッケの贈りもの


大学生になって初めて、アルバイトをして自分のお金を持つことができた。
今でこそ、高校生からアルバイトをすることは珍しくもないが、少なくとも俺の通った高校の校則でアルバイトは禁止だったから、律儀にそれを守り、バイトデビューは大学になってからだったのである。

大学は同時に、俺の一人暮らしデビューでもあった。
親元を離れ、一人広島に住んだときの気持ちは今も忘れない。

俺が入った大学は、その頃ちょうど移転の真っ最中で、俺のいた学部も一年後に、広島市から一時間ほど離れた東広島市に移転することになっていたから、広島に住んでいたのは一年間だった。

風呂なしの六畳一間という狭いアパートだったが、何の不自由もなかった。最初こそ銭湯に通ったが、じきに風呂付きの部屋に住む友達のところを渡り歩いたので、俺の家はいわば羽休めに戻るだけの場所だったからだ。

そんな折、俺は初めてのバイト先として本屋を選んだ。
確か「中央書店」というチェーン店ではあるけれど、昔ながらのサイズ感の本屋だった。

店長は気さくな人柄で、バイトの俺にも良くしてくれた。
食事に連れていってもらったし、従業員を信頼して、売上金の入金とかまで任せてくれるような方だった。売れなかった雑誌などは新しいものが出た時に廃棄するのだが、「廃棄雑誌の付録についているもの、欲しかったらやるよ」という感じでくれるものだから、いい付録があると「売れ残らないかなー」なんて、不届なことを考えていたものだ。

そんな折、俺にも好きな子ができた。うまいこと遊びに行けることになったのだが、どうしてもバイトの都合がつかず、意を決して店長に言ってバイトを代わってもらうことにした。

当然、急なシフトの変更だから理由を伝えなければいけない。
恥を忍んで理由を伝えると、店長は面白がってくれ、後日報告することを条件にシフトを代わってくれた。(というよりその日は店長だけで店を切り盛りしたらしい)
礼を言って、その場を去ろうとした俺に、店長は小遣いをくれた。
「その子になんか買ってけ。」
最初が肝心だと店長は笑った。

結局その子と付き合うことはなかったが、かっこいい大人を知った初めての出来事として、今も俺の思い出の中で光っている。

(多少フィクション含む。だって何十年も昔なんだもん)


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