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小山内 裕
2022年8月24日 20:06
ひたすら黙って早足で歩き続けていると、頭の中が夜風と一緒に冷やされていった。それと同時に、自分がみじめでしょうがなくなる。通りかかった公園の中に入り、ベンチに座りこんだ。ほう、とため息をつくと一緒に涙が転がり落ちた。「……なさけな」 涙を追いかけるように言葉がこぼれた。灯理を、不登校で部屋でくすぶっている可哀想なお姉ちゃんだと思っていた。詩緒を、友だちがいないオタクだと思っていた。あたし
2022年8月20日 16:46
夜、モヤモヤとする気持ちを振り払えないままベッドでごろごろしていると、突然家のインターフォンが鳴った。部屋の窓からちらっと様子をうかがうと、詩緒だった。 はっとしてカーテンの影に隠れた。二階にあがってきたママがノックしたのは灯理の部屋だった。 灯理とママが階段を降りた音がした。ドアに耳をぴったりと貼り付けて全神経を集中するが、灯理と詩緒がなんて言葉を交わしたのか、聞こえない。その後、ガサガサ
2022年8月18日 17:39
「へえ! じゃ、ななちゃんは夏合宿にこないし、9月からから新体操やめるんだね」 新体操レッスン後、詩緒はいつもの定位置(幼稚園横にあるコンビニの、イートインスペースの一番壁側)に座り、カフェオレをコクっと飲み、チョコボールをガラガラと口に流し込んだ。(詩緒は今、推しのアニメキャラのグッズを手に入れるためにチョコボールばかり購入している。)あたしはひたすらサイダーを飲んでいた。「そんな簡単に……
2022年8月19日 19:45
玄関の前で何度も深呼吸をして、呼吸を整えた。詩緒のびっくりした顔を頭の奥に押し込み、蓋をする。気持ちが落ち着いてから、玄関の扉をあけた。パパの靴が揃えてある。台所からカレーの匂いがしている。「……ただいま」 リビングのドアをあけると、パパがテーブルの上を片付け、食事のセッティングをしていた。「お、七星おかえり。ママたちまだなんだ。先に食べるよな?」 黙ってうなずき、洗面所にいく。と、手を
2022年8月18日 10:44
青天の霹靂という言葉は知っていた。でもまさか、本当に真っ青な空が広がる日に、この言葉にぴったり当てはまる出来事が自分の身に起こるとは、思ってなかった。今日は終業式の前日。ときめきであたしの心はいっぱいだった。小学校においてある重たい荷物は何日もかけて少しずつ持ち帰った。教室の中にある自分のものが減れば減るほど、心まで軽くなった。相変わらず、クラスのみんなは誰も用事がない限りあたしに話しかけない