僕の知らない人
僕の知らない人
僕の家には知らない人がいる
「美味しいコーヒーを淹れてあげて」
お母さんの言葉のままに
僕はその人にコーヒーを淹れた
知らない人はずっとその場から動かない
ただこちらを見て少し微笑んでいる
「昔は俳優さんにスカウトされちゃうくらい
素敵だったのよ」
その人の昔話をお母さんは楽しそうに
コーヒーの薫りに乗せる
暑い日の夕暮れ
遠くから冷たい風がふいた
それは漂っていた薫りの向こうから
違う香りを連れてきた
「あれから30年になるのね」
お母さんは今日も僕の知らない人に
手を合わせいる
僕が生まれたその時に
その人が僕に触れていたら
知らない人じゃなく
おじいちゃんって呼べたのかな
祖父の月命日でした