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【雑談】本当は黒鉛筆です。
『白鉛筆』というペンネームについて、時折お褒めの言葉をいただくことがございます。
清潔。
繊細。
純粋。
いただく賛辞の中には、そんな美辞麗句が含まれていることも。
恐れ多くも、大変ありがたく感じております。
✳︎
noterの方がご自身のクリエイター名について、その由来を語られている記事を拝見することがありますが、白鉛筆の場合それをすることができません。
本当に「なんとなく」決めたものであり、大したエピソードを語ることができないからです。
にも関わらず、「素敵な名前だ」と賞賛を受け、時に作品を評する際の引き合いに出されることもある。
過分なご評価に、こんなことならもっと熟考して決めておけばよかった、と後悔することもしばしばです。
清潔で、繊細で、純粋で。
おそらく「白」という色が想起させるイメージが、そのような印象を与えるのでしょう。
しかしながら、自分の作風がそれらとマッチしているかと言えば、必ずしもそうではないように思います。
*
ただ綺麗なものを書きたくない。
はっきりと意識しているわけではありませんが、作品を作るにあたって、そのような理念が根底にあるように思います。
驚くほどの奇跡で世界が救われたり。
惜しみない愛情に心が満ち満ちたり。
夢や希望を失わず願いを成し遂げたり。
そんな真っ白で輝かしい光は、なるほど稀有で貴重で、誰もが享受したいところでしょう。
「せめて作り話の中だけでも」とその光を求め、物語に飛び込む人がいても不思議ではありません。
ですが、白鉛筆はそこに安らぎも救いも見出すことができないタイプです。
世界が救われても、新たな争いが起こってしまうし。
惜しみない愛情は、見返りを求めて憎悪に変わるし。
夢や希望は容易く潰え、願いは風化していくばかりだし。
そんな暗闇を思うと、先述の白い光はまるで別世界のもの、まさに「作り話」の中にだけ存在する幻に思えてくる。
この世界で生きる自分には届かない代物なのだ、と虚しくなってしまいます。
*
ちゃんと暗闇を書きたい。
それも、心の内側の暗闇を。
隣人を愛せなかったり、先人を敬えなかったり、夢を持てなかったり、努力できなかったり、責任を果たせなかったり、正しくなれなかったり、そもそも正しさが何かわからなかったり、それ故他人を傷つけたり、傷つけたことで自分も傷ついたり、そんな自分がゆるせなかったり、それでもゆるされたくて必死だったり、必死なくせに何もしなかったり、何もしないくせに幸せになってしまったり、その幸せを放棄できずのうのうと生きていたり。
美しくあれないことに悩み傷つく。
そんな人の心に、寄り添えるような暗闇を書きたい。
清らかな世界を見せて置いてきぼりにするのではなく。
自分も同じ世界を生きています、と伝えたい。
だからきっと自分の鉛筆は白じゃない。
あなたが抱くその暗闇と同じ色した、黒鉛筆であるべきなのです。
*
なんてちょっと格好いい(格好いいか?)ことを書き連ねてみたところですが、どうでしょう。
ただ綺麗なものを書きたくないのと同じく、やはりただ醜いものを書きたいわけでもございません。
むしろ、そんな暗い世界にほのかに灯る、淡い光を描きたいのでは。
さながらそれは黒地の上を走る、白鉛筆の線のように。
……うん、これはなかなかいいのではないでしょうか。
「なんとなく」なんて締まらない理由より、ずっとスマートでそれっぽい。
今度から名前の由来を訊ねられたら、こちらを答えるようにするとしましょう。
嘘?
でっち上げ?
おっしゃる通り。
なので『白鉛筆』という名の本当の由来は、
これを読んだ皆様だけが知る暗闇ということで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
黒鉛筆でした。