SHIROは「クレーム」をすべて公開する
どんなクレームも「ひらく」
企業の姿勢が表れるもののひとつが、お客様からのクレームです。
クレームというと、どうしても「対応しなければいけないもの」というネガティブに受け取られることもありますが、企業の成長のチャンスでもあります。SHIROはこの機会を大切にして、お客様からいただいたクレームを、たとえそれがどんな内容であれ、社内外に公表すると決めています。
良いことだけでなく悪いことも隠すことなく開示して、より良い未来をつくるための糧にする。大袈裟だと思われる方は、ぜひ、SHIROのコーポレートサイトをチェックしてみてください。どれだけ些細なクレームも、私たちに大きな落ち度があったことも、包み隠さず開示しています。
場合によっては、クレームをいただけば、お客様のもとに直接、向かいます。私たちに落ち度がないようなことでも、絶対にお話を伺います。それは私の考えでもあり、社長の福永の方針でもあります。
出店させていただいている百貨店やショッピングセンターの方からは、「そこまでしなくてもいいんじゃないですか?」と言っていただくこともあります。それでもすべてのクレームを開示しているのは、公開を徹底しなければ、どんどん自分たちの基準が甘くなってしまう懸念があるからです。
「これは言わなくてもいいだろう」という判断をしていると、いつか必ず判断を見誤ります。いずれ、自分たちに都合の悪い情報は隠す企業体質になっていくでしょう。
そして、自分たちにとって都合のいい選択をすることは、お客様だけではなく、「自分たちが毎日使いたいものをつくる」ことを追求してきたこれまでのSHIROを否定する行為です。だから、どんなこともしっかり「ひらく」。
透明性のある経営なんていうとかっこいいですが、そんなことよりもっとシンプルで、ものづくりに真摯な会社であるための約束です。
こうした方針ができたのには、とある大失敗が関係しています。まだSHIROが誕生する以前、自社ブランドを持たない私たちが、社運をかけた一大プロジェクトに取り組んでいたときのことです。
会社を変えた、一通の手紙
自社ブランドを持たず、砂川でひっそりとOEM事業を運営していたときのこと。まだ社長になって日も浅く、経験のない私でしたが、とある大手コンビニチェーンさんからのお仕事をいただきました。
小さな会社でしたから、製造スタッフ総出の一大プロジェクトです。もし失敗しようものなら、会社が潰れてしまうほどの仕事でした。
納品を1週間後に控え、倉庫には何十万個もの製品がびっしり。「やり切った」と汗を拭ったタイミングで、背筋が凍るような連絡が入りました。
「製品の中に、虫が入っています」
倉庫で働くスタッフが製品の最終チェックをしていると、生きている虫が複数の製品に混入していたのです。
とはいえ、もう出荷予定日はすぐに迫っている。私だけの判断で迷惑をかけてもいけないので、先方の担当者様に、すぐさま連絡を入れました。当時を思い返すと、今でも眩暈がします。
烈火の如く怒られるかもしれない。そんなことより、会社が倒産するかもしれない。「どんな言葉が返ってくるのだろう」と震えながら待っていると、意外な言葉が返ってきました。
「状況はわかりました。今井さんはいま、切羽詰まっている状況だと思うので、まずは深呼吸をしてください。現場に向かって状況を正確に把握できたら、対策を練りましょうね」と。その言葉に、どれだけ救われたことか…。
おっしゃっていただいた通りに深呼吸をして、倉庫に向かうと、なぜそうなってしまったか原因が掴めました。そのうえで、最後の力を振り絞れば、なんとか納期に間に合わせられる可能性がありました。
再び、製造スタッフ総出で製造作業です。休日返上で仕事に取り組み、みんなの協力があって、なんとか納品にこぎ着けました。この一件が落ち着いた後に、私は社員に対して手紙を書きました。
状況は耳には入っているけれど、現場にいなかったスタッフたちは、会社がどうなるのかと不安で一杯だったはずです。みんなに対して謝罪をしなければいけないし、事細かに事情を説明することが正義だと思い、ことの顛末を包み隠さず公開したのです。
すると、多くのスタッフから改善提案の声が返ってきました。倉庫で働くスタッフからは「管理の仕方をこんなふうに変えましょう」と、原料処理をするスタッフからは「この工程を見直すと虫が入らなくなりそうです」と、次々に返事があったのです。
このとき、事実を包み隠さず伝え、私の気持ちをちゃんと伝えれば、関わっていたスタッフだけの出来事なのではなく、会社のみんなの出来事になるのだと思いました。
別のプロジェクトに奔走していたスタッフが熱心に声を上げてくれる姿に感動しましたし、私はみんなを誇りに思いました。本当に信頼できる、素晴らしいスタッフに囲まれているんだなって。
それ以来、社内外で起こるすべての出来事を公開する、という方針にしました。社内だけではなく、社外にもです。
あの出来事で、そうすることがものづくりのあるべき姿だと思いましたし、結果的に良い方向に進んでいくと確信できました。
SHIROは「ひらく」が基本姿勢
今では、「ひらく」がSHIROの基本姿勢です。クレームだけでなく、製造過程や社員の日報まで開いています。
ご存知の方もいるかもしれませんが、SHIROの自社工場である「みんなの工場」には、見学通路はありません。来館者がくつろぐスペースと製造ラインはガラスで仕切られているだけで、まるで同じ空間にいるかのように感じられる設計になっています。
製造工程を開示することで、製品を「もっと大切に使ってみよう」と思ってもらったり、つくり手である私たちが自分の仕事にもっと誇りを持てたり、社会にとって良いことを増やしていくためです。
社員の日報をひらいているのは、SHIROの日報は上司ではなくみんなに対して書くものだから。SHIROの日報で大切なのは、「何をしたか」ではなく、「何を感じたか」です。
「今日はランチの時間が楽しかったです」
「素敵なお客様と出会えてしあわせでした」
「落ち込んでいたけれど、同期の声掛けに救われました」
どれも、「何をしたか」と同じくらい、もしかすると、それよりも大切なことです。
そもそもSHIROでは、砂川で働くスタッフも、東京で働くスタッフも、職種を超えてバトンをつなぎながらひとつの製品をつくっています。つながりが深いほど良い会社になって、良いものづくりができると信じているので、良いことも悪いこともしっかり共有したいんです。
胸のうちを誰かに打ち明けることに、抵抗がある人が多いのもわかっています。でも、普段から自分自身をひらいていると、苦しいときに頼れるし、苦しい人を助けられるようになります。私自身がそうでしたから。
都合の悪いことは胸の内にしまって、都合の良いことだけをシェアする人が多いけれど、燻ってしまう気持ちや、苦しい思いをシェアしたほうが、きっと救われる。
うまくいかなかったことをひらいたところで評価が下がることは絶対にないし、そういう気持ちをシェアしてくれることは私にとって嬉しいことです。
SHIROはこれからも、「ひらく」の相乗効果で、素晴らしい製品をつくり続けていきたいなと思っています。
(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)