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コペンハーゲンにある「人間図書館」がすごい


幸福大国デンマーク

「日本は生きづらいから、コペンハーゲンに移住する」——。
 
社外からSHIROをサポートしてくれていた女性スタッフは、私にそう告げて日本を去りました。彼女が第二の居場所として選んだのは、北欧の国・デンマークの首都、コペンハーゲンです。
 
デンマークは、幸福度ランキングで世界第2位にランクインする“幸福大国”。SDGs達成度ランキング3位、環境パフォーマンス指数世界10位と、環境と幸福の分野で世界の最前線を走る国として知られています。
 
残業が文化のようになり、満員電車に揺られて退勤する日本とは異なり、定時に退勤して、自転車で帰宅するのがデンマークの働き方です。それでいて、1人あたりのGDPは日本の3倍以上。データを参照するだけでも、たしかに日本よりも「生きやすい国」のように感じられます。
 
でも、本当に日本よりも生きやすい国なのかは、足を運んで見ないことには分かりません。それに、北欧にしてもフィンランドではなくデンマークを選んだ理由も気になります。考えるよりも行動派の私は、渡航を決意。

日本を去ってまで住みたいと思わせるデンマークの魅力を探しに、2023年にふらりとデンマークを旅しました

効率と幸福を両立する

私が見たコペンハーゲンの景色をお話しする前に、まずは事前情報を少しだけ。デンマークの主な産業は、農業やエネルギー、そして海運です。人口約600万人の決して大きくはない国ですが、他国に頼らずとも、自国で経済を回していけるだけの産業力を持っています。
 
特筆すべきは、効率的な産業構造。
輸出産業の20%以上を占めるデンマークの農業には、なんと国土の60%が使用されています。しかし、人口における就農人口の割合は6%。幸福の国と聞くと、なんだかのほほんとしていそうですが、とても効率的な国でもあるのです。
 
このユニークさは、デンマークが生み出すプロダクトにも反映されています。北欧と聞いて、オシャレな家具や素敵な建築を想像する人は少なくないと思いますが、そのデザインを一括りにできるわけではありません。
 
フィンランドの代表的なブランドである「Marimekko」とデンマークの「HAY」を比べてみましょう。フィンランド発のMarimekkoには、余白のある可愛らしい雰囲気があります。一方、デンマーク発のHAYは、機能性を重視したミニマムなデザインが特徴的。同じ北欧の国とはいえ、外から見るだけでも、デンマークには唯一無二の魅力があるのです。

コペンハーゲンにある「楽園地区」

過去に、同じく北欧の国・フィンランドを旅した記録を残しました。
デンマークについて、「効率」や「機能性」というキーワードで事前情報をお伝えすると、ドイツのようなイメージを抱かれるかもしれません。北欧らしい自由さも、しっかり兼ね備えています。デンマークにはクリスチャニア自由都市という、「自由」をそのまま再現したような地域があるのです。
 
コペンハーゲンの一角であるこの地区は、ヒッピーたちによって軍の所有地が解放されたことで設立されました。「自由都市」という名前が示す通り、政府とはまったく異なるルールで運営されています。禁止されている大麻も、この地域では合法です。
 
私も自分の足でクリスチャニアを歩きましたが、驚くほど自由でした。
街のあらゆる場所から大麻の香りがするし、建築もめちゃくちゃ。DIYのような建物がたくさんあります。ただし、強盗や暴力は禁止。この楽園は、一定の統制のもとで運営されています。自由さと引き換えに荒廃していくのではなく、ポジティブな解放に向かっているのが、クリスチャニアの特徴です。ヒッピーの、ヒッピーたちによる、ヒッピーのための楽園。それが首都から歩いていける距離に存在している自由さは、デンマークの北欧らしい一面かもしれません。

声なき声を拾える社会に

自由度の高さが伺える場所は、他にもたくさんあります。
例えば、Flying Tiger Copenhagenの創業者である、レナート・ライボシツが始めたコミュニティスペース「Absalon」。この場所では、見知らぬ人たちが8人組になり、夕食をともにする「共同夕食」というイベントが開かれます。食事はキッチンに受け取りに行く形式になっていて、「誰が何を取りに行くかなど」些細な会話が生まれる仕組みになっています。
 
「こうあるべき」と規定するのではなく、多様なバックグラウンド持った人たちが、会話を通じてお互いを理解する空間が街中にあるのです。
 
人生の語りべを「借りる」ことができる「ヒューマンライブラリー」にも衝撃を受けました。
本の代わりに人が貸し出されており、その人と30分間の会話ができる「図書館」です。犯罪を犯してしまった人や障害を持っている方など、普段なかなか話す機会のない人と、同じ時間を共有し、それぞれの人生を振り返ることができます。互いの人生を共有しあい、後悔や教訓を知ることによって、自分や社会もより深く理解することができます。
 
多様性が声高に叫ばれている現代社会ですが、人はリアルに触れない限り、なかなか寄り添えない生き物だと思います。コペンハーゲンの人々は、その当たり前を理解しているような気がします。だからこそ、街中に仕掛けが施されているのでしょう。それらの取り組みが、政府主導ではなく、たった1人の小さなアイディアから生まれているというのも素敵です。
 
誰かのアイディアに多くの人が賛同して、社会全体を動かすうねりへと変化していく。声なき声を拾い上げ、国民の手によって社会を変えていく流れに、デンマークが「生きやすい」といわれる理由が詰まっているような気がしました。これは、デンマークにしかできないことでしょうか。
 
私は、そうは思いません。
日本でも、誰かのアイディアを拾い上げ、それをムーブメントにしていくことができるはずです。その第一歩として、SHIROがリニューアルを手がける砂川パークホテルでは、コペンハーゲンのようなヒューマンライブラリーをつくりたいと考えています。「誰も排除することなく、みんなが集える場所」としてつくった「みんなの工場」も、声なき声を拾い上げられる場所でありたいと思っています。
 
こうした場所が少しずつ増えていけば、日本もきっと「生きやすい国」になれるはずです。コペンハーゲンで見つけた「生きやすさのヒント」を、少しずつ日本に実装していきたいと思います。
 
(編集サポート:泉秀一、小原光史、バナーデザイン:3KG 佐々木信)

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