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未来に可能性を感じない……ってとき、ムール貝の仲間ならどうする?という話
未来のことを考えると不安になってしまう若者たち
就職活動中、未来のことを考えると憂鬱で仕方ありませんでした。大手の内定を見事かっさらってく友達を横目に、就活をうまく乗り越えられなかった僕は「もう無理!お先真っ暗だ!」と本気で思ってました。
大人たちから「この先どうにでもなるよ!!」と言われても、全然しっくりきませんでした。当時励ましてくれた大人の皆さんすみません(でもおかげさまでちゃんと平和に暮らしてます)。
このような不安は、僕だけでなく多くの若者が抱えている問題のようです。アメリカで793人を対象に行われた調査によると、未来における制約や障害についてよく考える人は、不安やストレス、うつ度合いが年代問わず強いことが分かりました。
わかりやすくいうと「将来が楽しみだ!希望と熱意を感じるぜ!」という人よりも「もう時間が残されていない」「将来の時間がいくらでもあるわけではない」みたいに考える人の方が、割とネガティブな状態だったんだとか。
中でも若者においてそのような傾向が顕著であり、高齢層と比べて約2倍もの強さで作用するみたいです。若者のほうが将来が不安というのは「この先どうにでもなるよ!!」とは逆だと感じますよね。
でも高齢層は「すでに体は動かなくなってきた」「昔ほどヤンチャはできないわねえ」みたいな感じで、年を取ることによる制約をすでに感じている&受け入れている人が多いと考えられるそうです。あとは感情調節能力にも長けてそうですよね。
僕もつい先週まで「最近どうも調子上がらんな……」という時期がしばらく続いていました。今振り返ってみると、心のどこかで将来についてネガティブに考えていたりしたなあと実感します。
記事の最後にも、未来に対する考え方が知れる質問リストを貼っつけております。
ムール貝の仲間はどうしている?
では、そういった不安に対してどう対処していけば良いのでしょうか。ここで、僕なんかよりもはるかにむちゃくちゃ厳しい環境で生きている生物から学んでみましょう。
「ヘイトウシンカイヒバリガイ」パイセンです!!!
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ムール貝と同じイガイ科に属する貝類です。
パイセンは超過酷な環境で生き残ってきている生き物。ムール貝は基本的に浅瀬〜水深10mあたりの比較的穏やかな場所に生息しているみたいですが、ヘイトウシンカイヒバリガイさんは深海で生きています。
しかもただの海底ではなく、「深海熱水噴出孔」に生息しているみたいです。深海熱水噴出孔とは、海底の非常に深いところ(数千メートルの深さ)にある、地面の割れ目から熱水がぶくぶく出てくる場所のことです。
![](https://assets.st-note.com/img/1726245692-gqYQsJwyWe3RjCh2ZtKnTmrp.png)
ヘイトウシンカイヒバリガイさんがいかにすごいかを思い知っていただくために、深海熱水噴出孔ができるまでの流れを簡単にご紹介します。
①まず大陸プレートの動きによって、海底に割れ目が形成されます。
②次に海水が地殻の割れ目に染み込み、地球内部のマグマで熱せられます。③その後、熱せられた海水は地面の割れ目から海底に戻り、噴き出します。
④深海熱水噴出孔の完成です!すごーい!!
この環境は生物にとって超過酷。水温は非常に高く、水圧は地表付近の数百倍にも達します。さらに、光がほとんど届かないため光合成ができず、栄養分は不足しがちです。加えて、有毒物質が漂っていることもあります。
それにもかかわらず、ヘイトウシンカイヒバリガイさんはこのような場所で繁殖し、時には「このあたりの番長」的なポジションになることさえあるのです。
では、なぜヘイトウシンカイヒバリガイさんはこのような過酷な環境でも生き残れるのでしょうか?これを遺伝子レベルで解き明かそうという研究が行われました。
実験手順は以下の通りです。
深海ムール貝を捕まえる: 中国の潜水艇を使って南シナ海の深い海からムール貝をとっ捕まえます。浅い海のムール貝は香港で採取しました。
遺伝子の情報を解読する: ムール貝からDNAとRNAを取り出し、遺伝子の配列を機械で全部読み取りました(全部!!!)。
遺伝子を分析する: 取り出した遺伝子情報を使って、遺伝子の構造や昨日から、深海ムール貝が深い海に適応するためにどう変化してきたかをコンピュータで計算。
タンパク質を調べる: タンパク質の種類や量も調べ、生物活動を調査。
徹底的にヘイトウシンカイヒバリガイさんを根掘り葉掘り調べてやる!!!という研究者の熱意を感じますな。
この研究から、ヘイトウシンカイヒバリガイさんは浅瀬にいるムール貝よりも以下の点において発達していることが分かりました。
体を丈夫にする遺伝子:体のタンパク質を保護し、海底の過酷な環境に耐えられる体に進化しています。
毒素を排出する遺伝子:細胞から毒性化学物質を排出する役割を発達させることで、有毒物質があっても生き残れるようになっています。
体内に住むバクテリアと共生するための遺伝子:外部の細菌を攻撃するのではなく取り入れ、特定の菌と共生することでエネルギーを得る能力を獲得しています。
人間に例えると「ムキムキ優しいマン」?
これらの特徴を人間に例えると、ムキムキで、胃腸が強く、さまざまな人と協力関係を築いていける人ということになるでしょう(?)。
特に面白いなと感じたのは3つ目。自分を強くするだけでなく、周囲の生物とある種の協力関係に至ったのはすごいなと思います。
人間社会においても、協力は超大切ですよね。僕がライターとしてのキャリアを始めたのも、友人が誘ってくれたおかげです。
「人とのつながりを大切にしましょう」みたいなことは、そもそもよく耳にするアドバイスですね。
もちろん、これはあくまで「ヘイトウシンカイヒバリガイさんの生存戦略」であって、「人のキャリア論」に当てはめるのは、いささか強引かもしれません。しかし、このような教訓を私たちに残してくれたことに感謝を示しつつ、これからもムール貝を美味しくいただきたいなと思いました。パエリア最高。
![](https://assets.st-note.com/img/1726413134-7owcRODU3gKLbm2SrkMuVtXN.png)
引用文献
Allemand, M., Olaru, G., & Hill, P. L. (2024). Future time perspective and depression, anxiety, and stress in adulthood. Anxiety, Stress, & Coping, xx(x), 1–18.
https://doi.org/10.1080/10615806.2024.2383220
Sun, J., Zhang, Y., Xu, T., Zhang, Y., Mu, H., Zhang, Y., Lan, Y., Fields, C. J., Hui, J. H. L., Zhang, W., Li, R., Nong, W., Cheung, F. K. M., Qiu, J.-W., & Qian, P.-Y. (2017). Adaptation to deep-sea chemosynthetic environments as revealed by mussel genomes. Nature Ecology & Evolution, 1, 0121.
以下、ちょっと長めの注釈です。
1つ目の論文について
横断的研究: この研究は横断的なデザインを採用しているため、ネガティブなウェルビーイングと将来の時間展望のどちらが先に影響を及ぼすのか、因果関係を明確に示すことはできません。
自己報告式の尺度: FTPとネガティブなウェルビーイングの両方を自己報告式の尺度で測定しているため、回答者の主観的なバイアスが含まれている可能性は否定できません。
尺度の次元性: FTPSの機会と期間の相関が非常に高く、独立した次元として測定できているか疑問が残ります。また、DASS-21の各因子も高い相関を示しており、尺度の多面的な測定が十分に機能しているか、更なる検討が必要と言えます。
文化的背景: この研究は米国在住の成人を対象としており、他の文化圏における普遍性を証明するには、更なる研究が必要です。
2つ目の論文について
サンプリング方法の影響: 深海性ムール貝は採取後、船上に引き上げるまでに約3時間かかっており、その間の環境変化が遺伝子発現に影響を与えている可能性は否定できません。ストレス応答遺伝子など、環境変化の影響を受けやすい遺伝子については、その解釈に注意が必要です。
共生細菌側の解析の不足: 本研究では、B. platifrons側のゲノム解析が中心であり、共生細菌側のゲノム解析は限定的です。共生細菌側の遺伝子発現や代謝経路を詳細に解析することで、宿主との相互作用をより深く理解できる可能性があります。
他種との比較の必要性: 深海環境への適応に関わる遺伝子ファミリーの多くは、他の生物にも共通して存在する可能性があります。より広範な生物種のゲノム情報と比較することで、深海性ムール貝に特有の適応メカニズムをより明確にできるでしょう。
おまけ: 未来に対する考え方をチェックする質問票
この記事の前半でご紹介した「未来に対する考え方」をチェックするための質問リストを以下にまとめました。
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