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女神さまの焦燥

#10「ジャンヌ・エビュテルヌの肖像」

この世にまだ天才芸術家というものが存在していた頃、パリの片隅で一人のユダヤ系イタリア人が三十六年の生涯を終えました。彼の名は「アメデオ・クレメンテ・モディリアーニ」パブロ・ピカソも彼の才能を恐れ、嫉妬しました。しかし彼の生涯は、肺結核に苦しみ、アルコールや薬物依存、天才の宿命ともいえる破滅への日々でありました。作品はほとんど売れず、売れても二束三文の酒代にしかなりません。

そんな絶対に近づいてはいけない男の前に、赤毛の美しいフランス人の少女、ジャンヌ・エビュテルヌが現れます。彼女はたちまち彼の虜となり、厳格なローマ・カトリック信者の家族の反対を振り切って、ともに暮らす決意をします。天才は彼女を妻としてもモデルとしても愛し、たくさんの肖像画を残しました。しかし彼の病状は悪化し、苦しさから逃れるためアルコールと薬物を濫用し、ついに命は潰えます。

錯乱状態のジャンヌを、彼女の両親は家に連れ帰ろうとしますが、モディリアーニの死の二日後、アパートの五階から身を投げます。彼女のお腹には子が宿っておりました。

ジャンヌがパリのペール・ラシェーズ墓地のモディリアーニのもとへ埋葬されるまで、それから十年ほどかかりました。

天才は、その才能に気付く他者の才能が必要でありますが、モディリアーニの「裸婦像」は2015年のオークションで1億7040万ドル(約187億円)、2018年には1億5720万ドル(約172億円)でそれぞれ落札されました。そのような金額に心を奪われている様では、あなたは美しいジャンヌにはなれません。ジャンヌは神とモディリアーニの間に存在する天使でありました。

ジャンヌ1

あなたの恋人が、酒と女にうつつをぬかすロクデナシであろうと、精いっぱい彼を愛するべきであります。もしかしたら彼は天才芸術家で、あなたの肖像は歴史に刻まれるかもしれないのですから…


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