1年生になった長男に
今年の春は寒暖差もはげしくまた悪天候も多く、天気に恵まれない日に長男の入学式がありました。支援級の1年生です。
長男の入所施設の職員さんの連れ添いのもと、まずは支援級のそれぞれのクラスの各々の席で待機し、会場が整ってから移動するというかたちで、入学式は通常級の子どもたち、保護者と同席で執り行われました。
こういう子供を持つと、たくさんの障害児/者の中で生きていくのが常だったので、そんな人数を軽く凌駕する健常児(正確な人数はわかりませんが、とにかくびっくりするほどたくさんいました。1クラス25だったとしてもそれが3つも。)と、10名の障害児、という対比をみて、自分の視点からはとてもそんなに少ないという実感はないけれど、やはり障害を持って生まれる子供というのは、全体から見て本当に一握りなんだ、と正直言って驚きました。
またとても新鮮だったのが、校長先生の挨拶のときに、手話の通訳がついていたことです。平成初期産まれのわたしにはかなりの衝撃で、これって令和では普通のことなんだろうか?無知なだけなんだろうか、だけどこういうことに力を入れてくれているなら、そのほうがずっとありがたく安心だなとも思いました。けれどもっと驚いたのが、六年生の先輩方が校歌を歌ってくれる、というときに、その校歌にもまた手話がついていたこと(一部教員の方も座りながら手話だけいっしょにやられておりました。)で、「インクルーシブなんて、言うは易しだけど…」と思っていた自分が恥ずかしかったくらいです。自分が小学生だった頃、障害学級はたしかに存在したけど、腫れ物に触るような、というか、まるで存在しないかのように接点が無かったので、教育現場ってきっと、自分が思ってるよりも日々変わっていってるのかな、という気がしました。誰しもわが子を取り巻く環境に対して心配や期待があり、過敏になるかと思いますが、物言わぬ子供を持つ親は更なりで、安心して預けられる環境か、というアンテナは人一倍です。うちの子に関して言えば手話なんてわかるはずもないけれど、それでも健常者と障害者の橋渡しになるようなことをきちんと教えてくれる学校であるならば、子供にとってもいい環境だろうなという気持ちになりました。
そしてそれ以上に驚いたのが、長男が、恐らく退屈であろう入学式で、きちんと椅子に座り(時々大きな音を気にして職員さんの腕に耳を押し付けたりしながらも)待てたことでした。
ほんとうに落ち着きがなく、椅子にじっと座ることがむずかしかった長男。食事も歩きながらしていた時期もあったし、忘れもしない、子供向けの遊び場に連れて行った時に、ひとつのところに留まらず、興味のある場所へ次から次へ移動していく姿。いつもは5時前に起きていたけど、目まぐるしく動き回ったその日の翌日は7時すぎまでたっぷり寝ていたこと。まだ一歳にも満たない時期のことだったので、それを彼の個性だと思っていたけれど、とにかくなにもないなかで座っていられることが、あの頃の彼と到底結びつかず、駄目だと圧し殺そうとすればするほど勝手に涙が溢れました。長男がそんなふうに変わったのは、長男の努力は勿論、それをサポートしてくれた多くの人たちのお陰で、その上澄みを掬って涙する自分の浅はかさは本当に恥ずかしいけれど、でも心からうれしかった。自分の卒業式も、結婚式も、ひとつも泣かなかったけれど、子供の成長ってこんなに気持を揺さぶるものなんだと驚きました。
長男の知的障害が確定した時に、障害児の親御さんの発信するあらゆる文章を読み漁りました。
そのなかに、「支援級の学式なんてめでたくない」という文言があり、それを読んだ時に、そんな身も蓋もない事言わないで、という気持ちとおなじくらいすごく「わかる」なとも思い、正直なところたくさんの健常児との入学式、どんな気持ちになるか不安でした。やっぱり普通に、お喋りしている姿や、親御さんたちのはしゃいだ空気に全く当てられなかったかといえばノーです。
それでも、小さな変化がちゃんと彼の中にある。
もっとずっと前は、お猿さんとそう変わらなかった。いや犬や猿のほうがきっと賢いだろうとさえ思っていたけど、ちゃんともっと、この場でどう振る舞うべきかを読む力がついてきているんだ、ということが知れて、入学式に出席できてよかった、きっと一生わすれない日になるなとすら思いました。
長男の知的障害は重く、この先も障害者向けのコミュニティの中で生きて行くんだろうなと思います。それは当たり前のことだし、とにかく手厚く彼を診てくれる環境が一番必要だしありがたい。でもきっといつまでも赤ん坊ってわけではなくて、ちょっとずつでもできることが増えていくはずです。入学式での彼の姿からそういう確信を持つことができたし、6年間、きちんと見守っていればそういう小さな成長を見逃すことはないんだろうなと思います。わたしは母として未熟だし、それが上手くできないかもしれない。施設の方や先生方と、長男の成長をきちんと見届けられる、そんな6年にできたらいいな。
幼稚園入園さえあきらめた長男が、1年生になった。本当におめでとう。