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<メタボリズム>と<21世紀型メタボリズム>

 ~建築や都市は生き物のように新陳代謝する~
 都城市民会館(竣工1966年ー解体2019年)は、メタボリズムを具現化した建築物として高く評価されていましたが、そもそも<メタボリズム>とは何なのでしょうか?
 <メタボリズムは1959年に黒川紀章や菊竹清訓ら日本の若手建築家・都市計画家グループが開始した建築運動。新陳代謝(メタボリズム)からグループの名をとり、社会の変化や人口の成長に合わせて有機的に成長する都市や建築を提案した>とあります(ウィキペディアより)。
 建築の専門家ではない私ですが、書籍を参考に、同じ一般の人に向けて、整理してお伝えできれば・・・・・と思います。

■メタボリズム思想の5つの特徴■

 「メタボリズム」は日本から発信された唯一の建築思想と言われていますが、その大きな特徴は次の5つであると考えます。
         ①日本独自性
         ②エコロジーが絶対課題
         ③技術革新への期待  
         ④都市の人口増加問題に立ち向かった
         ⑤めざすは人間性重視の建築と都市

プレゼンテーション1

①日本独自性(更新可変性・日本人独特のモノ観)

 メタボリストたち(メタボリズムグループのメンバーをこう呼ぶ=川添登・大髙正人・菊竹清訓・槇文彦・栄久庵憲司・粟津潔・黒川紀章)は、世界デザイン会議(1960年東京で開催)で、日本から発信すべきことを議論する上で、茅葺きや瓦などの屋根の吹き替え、老朽化部分の取り替え、増改築や移築がしやすいといった、日本の木造建築における「更新性」に行きついたといいます。
 「建築・都市のデザインにおいて、“時間の経過”も意識した更新・交替の理論と機能主義理論が、計画段階から思想のベースになければならない」としました。源泉にあるのは、日本の伝統建築への畏敬の念であり、つまりは温故知新の精神なのだと思います。

 この「建築や都市を生物のように新陳代謝していくもの」と捉えた<メタボリズム>には、モノに魂が宿るとする「日本独特のモノ観」が根底にあるというのも興味深い点です。海外の人々にとって、不思議な魅力を醸していたのでしょう。当時、メタボリズムの発表が、世界をとても驚かせたという理由のひとつではないかと思います。

②エコロジーが絶対課題(設備の更新可変性と建材のリサイクル)

 メタボリズムでは、建築や都市の計画段階から、老朽化による部分的な更新・交替性と、時代や社会の変化による機能(使い道)の変更に対し、柔軟な可変性をあらかじめ組み込ませておくことを提唱しています。それは、恣意的なスクラップアンドビルドを抑制し、廃棄物の軽減につながります。

 また、「その地で調達できる建築資材の活用」を重視することや、改修・解体等で出る廃棄物のリサイクル等も問題にしています。1960年代からすでに環境への負荷を考慮し、リサイクル(循環)、エコロジー(自然環境保全)の視点をもつことを重要課題とし、サスティナブル(持続可能)な社会をめざしていた<メタボリズム>。21世紀の今に通じる姿勢が見られると思いませんか?
 
 メタボリスト総出で取り組んだ、大阪万博(1970年)では、エコロジー意識が会場計画の随所に現れており、万博が「メタボリズムの実践の場」となった・・・と言われています。2001年の愛・地球博(愛知万博)では、総合プロデュ―サーを菊竹清訓さんが務め、基本コンセプトには全面的に「エコ」が掲げられました。
 こうした発信が、現在のSDGsをはじめとする地球環境問題解決に向けての動きに繋がってきたのではないかと、私は思うのです。

③技術革新への期待(新しい建材や設備)

 急激に進む技術の進歩が、新しい建築方法や建材を生み、発展させてきたことは間違いないでしょう。メタボリストたちは新たな建材の登場に期待を寄せ、積極的な活用を目指します。
 木造建築の歴史を持つ日本において、木に代わる現代の建材として、コンクリート・鉄・ガラスの可能性が着目されました。実際それらの建材は目覚ましい発達を遂げ、コストや活用しやすさの面から、工場で部材を造り搬入する方式に移行が進みます。
 しかし、そうした技術向上による工業規格部材の登場は、「地場産の建材使用の推進」に対し相反する―という問題も生じさせました。

 また、ユニットバスやトイレ、システムキッチンなど(今では当たり前のものですが)が登場します。消耗が激しくかつ進歩も目覚ましい部分である「機能の設備化」は、新しい設備へ取り換えがしやすく、建物内で移動もさせやすいという利点があります。菊竹清訓さんの"ムーブネット"という考えがそうであり、自邸スカイハウスの建設に取り入れられています。
 それを部屋丸ごとと考えたのが黒川紀章さんの"カプセル"。銀座に建つ中銀(なかぎん)カプセルタワービルが世界的にも有名です。

カプセルタワービル写真

 彼らは、社会インフラとしてのIT環境の整備なども早くから視野に入れていました。未来の建築や都市計画のビジョンを実現するために必要となる、技術革新の提案や協議など積極的に実践しています。
 技術の力で建築・都市を人間性に融合させ、人口増加や環境問題の解決をも図ろうとする<メタボリズム>」ですが、「②エコロジーが絶対課題」に反する結果を生んでしまった部分もあるようです。人間の生活が便利で豊かになる一方で、温暖化など地球規模の環境問題が深刻化してきたのも現実です。

④都市の人口増加問題に立ち向かった(土地不足と災害対策)

 高度経済成長期、都市の人口集中は加速度的に増し、住宅不足が深刻化していきました。交通渋滞、川のゴミ、光化学スモックなどの公害も問題となります。解決策としてメタボリズムでは、人工地盤・海上都市・塔状都市など、先々を見越した壮大なプロジェクト案が打ち出されます。
 都市部へ人口が流出してしまう農村側の問題に対しても、地震や洪水など災害対策の一面も持ったメガストラクチャー(巨大構造体)の「農村都市計画」というものが登場しています。

  画期的なこれらの案ですが、「多数に小さく刻まれた土地所有の問題」というのが大きく立ちはだかったようです。それまで日本が進めてきた"農地解放"や"持ち家政策"により、土地の所有者が個人で多数に及び、広範囲で一体的な開発が難しいという、現在でも横たわる問題です。
 結果的に、都市の住宅不足には、集合住宅や高層マンションの建設で対応してきた―というのが日本の現実です。

 世界に目を向けると、人口は増え続け現在78億人。ワシントン大学のチームの発表によると、2064年に97億人でピークを迎えると試算されていますから、過去に発表されたメタボリズムの斬新で壮大なアイデアが、どこか他の国で実現されるかもしれません。

⑤めざすは人間性重視の建築と都市 

 メタボリズムは人間性を重視した建築や都市のあるべき未来社会の姿を希求し続けました。
 住宅といった建築物においては、家族の成長によって変化する要請内容を先読みして組み入れるよう勧めています。また、人が求める居心地よさや生活しやすさに対し、空調や採光といった住環境の技術を、どうデザインに組み入れるかもテーマとしていました。

 そして、公共物(銀行・百貨店・工場などを含む)の意味を持つ建築や都市の創造には、地域の歴史や特徴を深く理解し、住民や来訪者の視点も重要視することが大切だとしています。

■21世紀型メタボリズムを考える■

 高度経済成長と人口増加の<メタボリズム>の時代とは、社会の様相が大きく変化していますが、メタボリズムの5つの特徴を見ると、現代にも繋がっているものばかりです。
 いっこうに解決しないままできた都市への一極集中。この新型コロナウイルスまん延で都市集中型のリスクが露呈しました。大都市へ向いていたメタボリズムのベクトルを、地方へと向き変え、「分散型社会」の転換に、その建築思想を活かせないものでしょうか。

 重要となるのが、「①日本独自性」だと思います。建材はコンクリートから木材回帰へ。地方に増え続ける中古住宅(空き家)の再活用に「更新性」を・・・。
 上空へと林立する大都市型の開発は、日本の地方には不要です。地方分散と言っても、人口増加の幅はそう大きくはないでしょうから。日本の人口は現在1億2500万人ですが、このままいくと、2060年には8,674万人程度、2110年には半分以下の4,286万人程度になるものと推測されています(内閣府推計)。

 その地域らしさを大切にする、「⑤めざすは人間性重視の建築と都市」が基本になると思います。メタボリストたちは、コミュニティの希薄化という問題が深刻化することを危惧し、また、早くから情報化社会の到来に思いを馳せていました。そして、「選択の自由度が住民自治によって確保された都市環境」が重要だとしています。 

 ~建築や都市は生き物のように新陳代謝する~この原理を礎に、<21世紀型メタボリズム>へと、次世代によって新陳代謝させることで、これからの街づくり、社会創造に<メタボリズム>が活かさることを願っています。

参考図書:復刻版『代謝建築論 か・かた・かたち』菊竹清訓著・彰国社刊、『プロジェク・ジャパン メタボリズムは語る・・・』レム・コールハース&ハンス・ウルリッヒ・オブリスト著・平凡社刊、『INAX REPORT No134』1998年(株)INAX発行、『メタボリズムとメタボリストたち』大髙正人・川添登編・美術出版社刊 ほか

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