アンチテジナ論 Ⅱ
だれかを幸せにするために、
人に夢を与えるために、
感動を与えるために、
わたしはマジックをしている。
そんな心の美しいマジシャンたちの言葉を聞くと、わたしの心に意地悪な気持ちが宿ります。
なぜ、あなたは人を幸せにしたいのか?
果たして、それは正しいことなのか?
自分が他人を幸せにする?
おこがましいとは思わないのか?
そんな悪夢的な行為を、どうしてこんなに爽やかに叫べてしまうのだろう。
まるでそれが清く正しいことのように語られているのを聞くと、『もう、やめてください』と思ってしまいます。
いや、彼らは本気で純然な善意の気持ちでそれを言ってしまっているのでしょう。
それゆえに、わたしはどうしようもない絶望的な気分になります。
弱者のために!
愛する人のために!
世界のために!
そうやって目をギラギラ輝かせながら美しい言葉を叫び散らして、自分の深層にある欲望から目をそらし、大義という漠然とした何かのために他者の心を操作してしまうことに対して、何の罪悪感も感じないということに、わたしはゾッとするのです。
他者の救済を自分の心の中で勝手に思ってやっていただく分には構わない。
ですが、それを生身の他者に向かって叫んで、多数派にとって都合の良い色に染めるための口実にしてしまうということが、どれだけ罪深いことかを認識していないハッピーな人たちが、この世界には多すぎます。
ああ、世界はなんて美しいんでしょうか。だが、それゆえに醜い。
こんな世界は滅びてしまえばいいのに!
なーんてね。てへへ。