【再逢(さいあい)】
そう男は全てを諦めた。
何せ3ヶ月ぶりの再会である。
覚えているはずがない幼子が。
泣かせてしまうかもしれない。
それはもう覚悟していたはずだった。
それでもいいから逢いたかった。
しかしいざ目の前にしてみると、
再会の感動よりも、怖かった。
とにかくもう、それは怖かったのだ。
忘れられているという恐怖に呑まれた。
どんなに自分を納得させようとしても、
とにかくもう、そら恐ろしかったのだ。
しかし時間はいつだって待ってはくれない。
名前の変わった彼女の手から委ねられ預けられ、
3ヶ月ぶりの我が子をそっと抱き抱えた。
『もう忘れてしまったよね…』
『ごめんね、ごめんね…』
『駄目なパパで本当にごめん…』
口を突いて出たのはそんな言葉だけだった。
恐れも怖さもいつの間にか忘却の彼方へ失せ、
口を突いて出たのは贖罪の言葉だけだった。
我が子がこちらをジッと見ている…
人見知りも始まっているらしい…
まだ言葉は話せない…
それでも、
見定めているのだ…
男の顔を…
見透かしているのだ…
男の後悔を…
見抜いているのだ…
男の未練を…
そして選別が終わったかのように、
一瞬だけ視線を外された。
判決の時がきた。
男は震えながらその瞬間を待つ。
ああもう泣かれてしまうと思った。
その男は全てを諦めた。
そしてその我が子は、
『…男の左腕を摘まんだ。』
そう結構強めに摘ままれた。
まあまあ痛いよ幼子の摘まみ。
いやキツネに抓まれたのではない。
実の我が子に摘ままれているのだ。
そうよく解らないけど、
摘ままれた。
よく解らないけど、
摘ままれたのだ。
よく解らないけど、
もうよく解らないけど、
嬉しくて、
痛くて、
嬉しくて、
痛くて、
もう嬉しくて痛くて、
男は膝を折って泣き崩れた。
年甲斐もなく号泣した。
涙はいったいどこから来るのだろうか。
いやもはやそんなどうでもいいことは、
混沌と書いて「とことん」と読もう。
黄昏と書いて「あこがれ」と読もう。
いや違う違うそうじゃない、話を戻そう。
逸脱したバックから気持ち良く正常位に戻そう。
せっかくのシリアスが台無しになる前にさあ。
…
…
…
…
…
そう言葉はもういらなかった。
(そう手遅れかもしれんけどもう。)
話せないなんて何の問題もなかった。
意思の疎通なんて見つめ逢えば十分だった。
この瞬間が人生の全てだとさえ想った。
そして男は、
そっと、
ぎゅっと、
ぎゅっと、
ぎゅっと、
大切に、
大切に、
我が子を、
抱き締めた。
その我が子は、
少しだけ迷惑そうな顔してた。
~ おしまい ~